第54話『祭壇を探して』
目の前を覆った光が収まると、俺たちは先程とは違う場所にいた。いや、正確には同じ場所なのかもしれないけど、建物の感じとか、埃っぽさが消えた感じだ。
「……どうやら、石碑の裏側に抜けたらしいな」
ゼロさんが背後の壁画を示しながら言い、「今の一瞬で、壁を通り抜けたって言うの? 信じられないわね」と、ソラナが驚いた声をあげる。
「確か、あの緑色の宝石にルナが触れたら反応したよな。ルナ、もう一度触ってみてくれるか?」
「う、うん」
俺が提案すると、ルナはおずおずと宝石に触れる。すると、同じように視界が白く染まり、元の場所へと移動していた。
「どうなってんだこれ」
続けて、俺やソラナ、ゼロさんも触ってみるけど、何も反応がない。どうやら、ルナが触れた時だけ反応する仕掛けみたいだ。
「……つまり、月の巫女がいないと進めない道かあったわけか」
もう一度壁画の向こう側へ移動したとき、ゼロさんがそう呟く。こっち側にいる間、ルナの持つ月のペンダントが仄かに光っている気がするし、その表現はあながち間違っていないと思う。
「ここから先は俺も未知数だな。加えて、奥から妙な気配もしやがる。どうする? 進むか?」
まっすぐに伸びる通路を見ながら、ゼロさんが眉をしかめる。俺たちは顔を見合わせて、しっかりと頷いた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……それから少し奥に進むと、さっそく気配の正体が判明した。大きなクモのような魔物と赤いスライムのような魔物が神殿内を闊歩していたんだ。
「あー、これは奥に進むの、苦労しそうねー」
「できたら戦いたくないけど、そういうわけにもいかないよね……」
「無理だろうな。あいつら、この狭い空間に閉じ込められてたせいか、明らかに新鮮な肉を欲してやがる。向かって来たら、倒すしかないだろうな」
そんな話をした矢先、近くにいた魔物の集団が俺たちの存在に気づいた。同時にソラナがナイフを抜き、ゼロさんが拳を構える。
「ま、俺たちの方が強いとわからせりゃ、あいつらも、むやみやたらに襲ってくることはなくなるだろうよ」
「それは、そうだけどさ……ルナ、下がっててくれよ」
俺も魔力を全身に巡らせて、両の掌に火球を出現させる。仕方ない。ここはやるしかなさそうだ。
……結果を言うと、俺たちは魔物を蹂躙しながら神殿内部を進んだ。
遠距離攻撃を仕掛けてくる魔物がいなかったこともあり、俺の炎魔法で遠くから一方的に攻撃できたし、苦し紛れに近づいてきた魔物はゼロさんが魔闘術で駆逐してくれた。
ソラナも持ち前の怪力で、魔物を文字通りちぎっては投げ、ちぎっては投げしていた。自分よりでかいクモの足を掴んで壁に叩きつけるのを見て、さすがにルナが少し引いていた。
「……あれ、宝箱があるわよ?」
そして俺たちに恐れをなしたのか、すっかり魔物の気配が消えた神殿内を進んでいると、ソラナが立派な宝箱を見つけた。
「なんか、唐突すぎない? 罠でも仕掛けられてそうね……」
罠探索の心得があるのか、ソラナが宝箱の周囲を入念に調べた後、いつでも離脱できる格好で宝箱を開ける。一瞬静粛が訪れるけど、特に何も起こらなかった。
「……宝石?」
そしてソラナが取り出したのは、壁画にはめ込まれていたのと同じ色をした、手のひらサイズの宝石だった。
「綺麗だね。でも、どうしてこんなところにあるんだろう」
ルナがソラナから宝石を受け取るけど、特に何か起こるわけでもなかった。壁画と同じ色の宝石だし、何か意味がありそうなんだけど。
その宝石をルナがポケットにしまい、神殿内の探索を再開する。しばらく歩くと、また別の宝箱があった。再び警戒しつつ開けると、同じような宝石が入っていた。
これまた不思議に思いながらも、その宝石をルナに預ける。そんな行動を繰り返すこと、計4回。ルナのポケットは、緑色の宝石でパンパンになっていた。
「わたし、宝石じゃなくて、祭壇を探しに来たんだけど……」
不服そうに口を尖らせるルナをなだめながら、なおも探索を続ける。すると、目の前に大きな扉が現れた。先程の壁画のように、この扉も絵が描かれていた。大きな月の絵だ。
「この先に目的の祭壇があるのかもしれねぇな。ふんっ……!」
そう言いつつ、ゼロさんが扉を押すが、全く開く気配はなかった。いかにもな扉なんだけど。
「ちょっと退いて。あたしが壊したげるわよ」
続いて、ソラナが腕まくりをしながら扉と対峙する。そして助走をつけて、身体ごと扉にぶつかっていった。
「んぎゃ!?」
直後、扉が緑色の障壁に包まれた。ソラナは素っ頓狂な声を出し、弾き飛ばされるように地面に転がった。
「ソ、ソラナちゃん、大丈夫!?」
仰向けにひっくり返ったソラナにルナが駆け寄るが、大丈夫そうだ。ルナが胸をなで下ろすのと時を同じくして、扉を覆っていた障壁は消えてしまった。どうやら、無理に壊そうとすると弾き飛ばされるらしい。厄介だな……。
「じゃあ、今度がわたしが……うーん!」
そんな事を考えていると、今度はルナが自ら扉へ向かい、全力で押していた。が、扉はびくともしない。
「ちょっとルナ、なにやってんの。あたしやゼロでも無理なんだから、あんたが開けられるわけないでしょ!?」
「はぁ……さっきの壁画の件もあるし、月の巫女が開けようとしたら開くかなって思ったんだけど」
ため息をつきながら、そんなことを言う。残念なことに、その思惑は外れたみたいだ。
「ふぅー」と声を吐いて、さすがに歩き疲れたらしいルナが扉に背を向けて、ぺたんと座り込む。その時、ルナのポケットが光っているのに気がついた。正確には、ポケットの中の石が光っている。
「ルナ、ポケットの宝石、光ってないか?」
「え?」
俺に言われて、ルナが宝石を引っ張り出す。4つの宝石は、それぞれが淡い光を放っていた。
「どうしたのかな。さっきまで光ってなかったのに」と、不思議そうな顔をするルナの背後に見やる。すると、その扉の四隅に小さな窪みを見つけた。
「もしかしてその石、ここにはめるのか?」
俺はルナから石の一つを受け取って、右下の窪みにあてがってみる。かちりと音がして、綺麗に収まった。
「あ、本当。ウォルスくん、すごい」
それを見たルナも、嬉々として宝石を反対側の窪みにはめこむ。他の二つは高い場所にあったので、ソラナとゼロさんが壁をよじ登るようにしてはめ込んでくれた。
全ての窪みが埋まると、押しても叩いても開かなかった扉が、左右に静かに開いた。そしてその奥に、立派な祭壇が見えた。
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