第40話『捕まえた少女』
どしーん、と豪快な音を耳にしつつ、俺とゼロさんは慎重に屋根から地面に降り立つ。
すぐさま少女の姿を探すと、地面に座り込んでいた。ずいぶんな高さから落ちたし、どうやら足を怪我してしまったらしい。その近くに、鍵の入ったらしい袋が落ちていた。
「これは返してもらうぜ……って、お前、大丈夫か?」
「……」
その袋を拾ったゼロさんが、続けて目の前の少女を心配するけど、彼女は瞳に涙を溜めたまま、だんまりだった。
「あー、その様子じゃ、足の骨を折っちまってるな。自業自得だが、このままじゃ寝覚めが悪い。医者くらいになら連れてってやるから……」
「……近づかないで!」
そう言いながらゼロさんが伸ばした手を、少女は打ち払った。
「いいから、ほっといて。あたしは人間の施しなんて受けないし、アンタたちも、オルフル族に関わるとロクなことないわよ」
言いながら、動く方の足を使ってじりじりと後退する。「おいおい、その言い方はないだろ……」と、ゼロさんは頭を掻く。
確かに見た目は変わってるけど、どうしてそこまで自分の種族を悪く言うんだろう……なんて考えていたら、いつの間にか周囲に人だかりができていた。
集まった野次馬の中から、「オルフル族だ」「どうしてこんな街中に?」と、ささやくような声も聞こえる。もしかして、街の皆もオルフル族を嫌っているのか? 一体どうして……。
「あ、いた!」
俺が疑問に思っていると、透きとおるような声が飛んできた。直後、その人波をかき分けながら、ルナがやってきた。
「はい! これ返してあげる!」
そして少女に近づくや否や、そう言って被っていた帽子を手渡す。
「へ? 帽子……?」
突然襲来したルナに、少女も完全に困惑していた。いや、唐突すぎて俺も困惑してるけど。
「うん! 本返してくれたし、この帽子も返すよ!」
そう言って笑うルナの手には、先日のこの少女が盗って行ったはずの本が握られていた。
「ルナ、その本どうしたんだ?」
「ウォルスくんたちが走ってった後、公園に落ちてたの」
あっけらかんと言う。俺たちに声をかけられて逃げ出したこいつが、思わず落としていった……っていうのが自然だけど。
「だから、わたしも帽子返そうと思って、あなたを探してたの! はい!」
もう一度笑顔を浮かべて、帽子を差し出す。ルナは自分の本が盗られたことなんて、まったく気にしていないみたいだった。
「べ、別に返したわけじゃないわよ! 持ってたって読めないし、オルフル族だから売れないし、薪にしようと思ってたくらい……あいたた」
ルナの勢いに負けて帽子を受け取った拍子に、怪我を忘れて身をよじってしまったらしく、少女が痛みに悶える。
「え、どうしたの?」
少女の異変気づいたルナが俺と少女を交互に見る。
「えーっと、ゼロさんと一緒に追いかけてたら、こいつが屋根から落ちたんだ」
「えぇ……それで、それで、怪我させちゃったの?」
あきれ顔のルナに、俺もゼロさんも「面目ない……」と平謝りするしかなった。いや、俺たちは悪ないはずなんだけど、あの顔で見られると悪いことをした錯覚に陥ってしまう。
「治してあげるね。動いちゃ駄目だよ」
そう言いつつ、ルナは少女のすぐ近くに腰を下ろし、怪我をした部分に手を当てる。
「アンタ、何する気? さっきから言ってるけど、あたしに関わらない方が……」
そんなこと言う間にも、ルナの手に光が収束し、少女の怪我を癒す。
「……うん。これでもう歩けるはずだよ」
「へ……?」
言われて、少女は半信半疑で立ち上がり、折れたはずの足に慎重に力を込める。平気そうだった。さすがルナの癒しの力、骨折だろうと治してしまうみたいだ。
……感心していた矢先、野次馬たちからどよめきが起こった。思えば当然だ。ついさっき足を折ったはずの少女が何事もなかったように立ち上がったのだから。
一方で、「これは……まずいな」と、ゼロさんが小さく声をあげたのを聞き逃さなかった。え、まずいって何が?
「……お前ら、すぐ近くに宿屋がある。そこで少し休んでろ」
続けて唐突に金を渡し、俺たちを目の前の建物へと追い立てる。俺たちは意味が分からないまま、宿屋の中へ押し込まれた。
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