第4話 うまい店があってな
「あのソテーは実に美味であったな」
角のとがったデビルの少女が言った。
「え? 何言ってんの?」
耳のとがったエルフの少女が言った。
港町の喫茶店に二人の姿はあった。
「何って、先週食べた深海魚のソテーの話だよ」
「深海魚? ごめん、私の記憶が確かならそんなもん食べてないのだけれど」
「それはそうだ、アタシが一人で食い言ったときの話だからな」
「ああそう。それはよかったわね」
「うん」
「……」
「……」
「え? 終わり?」
「こっちの台詞よ。何がどう美味しかったのかをトークしてちょうだいよ」
「これは失礼をした。己のトーク力のなさに涙が出るよ」
「その涙はぬぐって立ち上がりなさい。不足している力は努力で補うのよ」
「このスパルタが。私を崖から突き落として何が楽しい」
「別に楽しくはないわよ」
「ああ、そうかい」
「で、何の話だったかしら?」
「あ? 何かが美味しかったって話」
「どんどん情報が失われていくわね。ソテーでしょ、深海魚の」
「ああそれだ。よく覚えているな」
「バカにしてんのかよ。ぶん殴るぞ」
「よしてくれ。話せば分かる」
「話して分からない故の実力行使よ」
「やれやれ、こうして闘争は生まれるのだな。極めて愚かなことだ」
「まったくね」
「お前だろ、拳を上げたのは」
「そうだったかしら? で、そのソテーがどう美味しかったのよ?」
「え? それはお前、あれだ。酸味とあのー……酸味と……酸味が……」
「……もう一度食べに行きましょうか? 今度は二人で、ね」
「そ、そうだな」
二人は喫茶店をあとにした
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