文才が失われたヤバたにえんな小説

田中勇道

文才が失われたヤバたにえんな小説

 彼は母の「おっはー」の声で起床した。スマホで時刻を確認すると慌ててベッドから下りた。前日、ようつべの動画を観て草を生やしていたのはいいのだが、つい夢中になって寝るのが遅くなった。眠気がマジでヤバい。よく見るとスマホのバッテリーが長時間使っていたせいで90%オフ残り10%だった。


「母さん、着替えるから早く部屋出て」

「恥ずかしがり屋さんねぇ。お母さん悲ピー」

「自分の年齢考えろよ」


 母はアラフォーだが気持ちは常にヤングだ。

 リビングに向かうと父が「いただきマンモス」と合掌してご飯を食べ始めた。父が「う~ん、おいピー!」とノリノリで言うと妹は激おこプンプン丸。


「ガチでウザいしキモたにえんだし。とりま、殴っていい?」

 

 めっちゃキレている妹に父はマッハで土下座した。勢いで頭を打ち、カツラが取れた。太陽光並みのまばゆい光がリビングを照らす。

 メンブレな妹は朝食を平らげると早々と家を出た。「行ってきマンモス」と言ってくれなかったことに両親は少しだけ残念に思ったんだっちゅーの。

 

 彼は学校の昇降口でマブダチと合流した。上履きに履き替え、トゥゲザーして階段を上がる。二階に上がってからマブダチが思い出したように言った。


「そういえば、今日は転校生が来るってよ」

「転校生?」


 マブダチの話によると転校生は女子で、クレオパトラとマリーアントワネットを足して楊貴妃を掛けたぐらいの美人とのこと。それはさすがにありえんてぃ。

 二人が教室のドアの前まで来ると、マブダチが車内アナウンスをする車掌の仕草をし始めた。


「次は教室~、教室~。右側のドアが開きます。開く扉にご注意ください」


 マブダチはそう言って右手で教室のドアをオープン。普通にドアを開けることは出来ないらしい。

 教室内は盛り上がっており、まさにパリピであげみざわしんご。非リアの生徒も数人がhshsしている。彼もマブダチもさすがにドン引きした。

 彼が席に座ると女子生徒の会話が聞こえた。声が大きいので内容がはっきりわかる。


「昨日ね、彼氏と互いに素だったから久しぶりにLINEでデートに誘ったの、そしたらなんて返って来たと思う? 『時給労働バイトで物理的に手が離せないからパスタ』だよ? ひどくない?」

「うわひどっ、最低じゃん。頭イカレてるでしょ」

「だよね。頭のイカレ級数が無限大に発散してる。あぁ、分解したいわぁ、彼氏の頭を素因数分解したいわぁ……」


 どうやら彼女はリケジョらしい。と、ふいに教室のドアが開いた。


「邪魔すんで」

「邪魔すんねやったら帰って」

「はいよ~」


 担任は一旦教室のドアを閉めると、再び開けた。一体何がしたいのか。


「みなさんHRですよ。口チャックにご協力をお願いします」


 結局担任は教室に入って来た。イケボなのに口調がマッチしてなさ過ぎてワロタ。ナウいヤングのボーイが担任に向けて言う。


「先生、少しぐらい騒がしくてもいいじゃ……」

「あ~りませんか! ……ハッ!?」


 やられた、とばかりに担任は口を押さえた。押さえ方がオネェだった。


「まったく、困ったちゃんがたくさんいますね」 


 性格もオネェっぽい。


「みなさんお静かに。早くしないと転校生の方がチョベリバですよ」

「先生~、転校生ってどんな子?」

「クレオパトラです」

「嘘つけボケ」

「今の誰や。さっさと名乗り出て来いやぁ!!」


 この担任はマジでKYだった、超がつくぐらい18782いやなやつだった。

 18782もとい担任はようやく転校生を教室に入れた。転校生はギガント不機嫌で目つきがガチで怖杉謙信、担任がいきなり「ひよってるやついる?」とか言い出したけど、こんなんひよるに決まってんじゃん。バカなの?

 転校生は簡単な自己紹介を終えた後、生徒から質問攻めにあった。ワンチャンあるかもと思った男子生徒のひとりが転校生に好みのタイプを訊いた。


「織田信長と豊臣秀吉の2倍を足して真田幸村乗したような人がタイプかな」


 数学者も驚きの数式が誕生した。(織田信長+2豊臣秀吉真田幸村

 もはや数式と言えるか微妙ではあるが、この世に彼女の言った式を満たす人間は間違いなく存在しない。

 ワンチャンどころかノーチャンでヘコタリアンの男子たちとは対照的に、女子たちは転校生とワッショイ、ボルテージは最&高だ。

 

 放課後、帰宅部の生徒が一斉にドロンしていく。転校生はさっそく女子のマブダチとオケにGOした。早くもリア充している。


「……羨ましい」


 隣にいるマブダチが遠い目で呟いた。彼はソロ充なのでなんとも思わなかった。

 彼がテクテクして家に帰宅すると母が笑顔で出迎えてきた。


「おかえリンゴ」

「……ただいま」

「もう、そこは『ただいマンゴー』か『ただいマンモス』でしょ」


 そんな返し方をするのは父だけだ。一緒にされては困る。

 妹も帰宅して夕食の時間。妹は父がいないときは安定のあげぽよである。

 夕食後、彼は自室でギャグ漫画を読みながら草を生やしていた。ふと、リビングから両親の声が聞こえた。父が母の料理をべた褒めしている。


「お母さんの料理は相変わらず美味いなぁ。よっ、日本一!」

「冗談はよしこちゃんよ~。でも、うれピーわ。お母さんチョベリグ!」


 聞いているこっちが恥ずかしい。これは妹がメンブレになるのも仕方がない。彼は深いため息をついた。マジでつらたん。

 

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