第4話 健気な少女の涙
「助けに来るのが遅くなって、ごめんね」
「えっ……」
私はドレスが汚れるのも気にせずその場にしゃがみ込み、その小さな令嬢に目線を合わす。そしてその小さな手を取り、謝った。涙を必死に堪えていたモスグリーンの瞳が揺れる。胸が痛くなり、私の方が泣き出してしまいそうだった。令嬢の両手を優しく握ると、冷え切ったその小さな指先に血が通っていく。
「子どもだから、何を言っても分からないなんて、ホント馬鹿よね。子どもだから、分かるんじゃない。嫌いな人も、敵意のある人も。そうでしょう?」
私は真っすぐにその瞳を見つめてしゃべり出す。彼女の小さな思いすら、見落とさないように。
「……」
「大丈夫、少なくとも私はあなたの味方よ。急に現れて、知らない人にこんなこと言われるのもびっくりするでしょうけど。私もね、あなたと同じだったの。ちょうど10歳になった時、船の事故で両親を亡くしたの。すると今まで親切にしてくれていた使用人も親族たちも手のひらを返したように辛くあたったわ」
あの頃は父と母を一度に亡くして悲しくて仕方がないのに、かけられる言葉は本当に辛辣だった。誰が引き取るのか、遺産はどれほどあるのか、お金は誰が払うのか。挙句、泣かないと決めた私に親への愛情がない、可愛げがない、誰に似たのか。
「みんなね、子どもになら何を言っても大丈夫だと勘違いしているのよ。私が人前では泣かないと決めて意固地になるほど、その嫌がらせはどんどん酷くなっていったわ」
「……お姉さんは、その時どうしたの?」
「私はね、私に悪意を持つ人はみーんな消えてもらったの。使用人も本当に信頼できる人以外全て辞めてもらって、後見人も自分で見つけたわ。ちゃんと自分のことを見て、信頼できると思える人に」
「そうすれば、お姉さんみたいに頑張れば、もう馬鹿にされなくてもいいの?」
「いいえ。それだけではまた足りないわ」
首を横に振る私に、とうとう彼女の瞳から涙が溢れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます