アンドロイドのうたた寝
ヴァンター・スケンシー
第1話 月曜日「面接」
面接官A「えーと、大丈夫ですか?映像、音声聞こえているでしょうか?」
井澤「はい、大丈夫です、こちらの映像、音声はいかがでしょうか?」
田中「大丈夫です、映像も音声もクリアですよ」
佐藤「大丈夫そうですね、では、これから面接をはじめますね、今回面接を担当させていただく佐藤と申します」
田中「同じく、田中です。よろしくお願いします」
井澤「よろしくお願いします」
ネットでの面接が普通になりしばらく経つが、面接する側としてはイマイチ慣れないものだ、モニターに映っている情報だけじゃわからない部分も少なからずある。
大体の面接者は、自宅の白い壁の前でリクルートスーツを着て面接に応じる。
たまにバーチャル背景で面接を受ける方もいるが、部屋に良い壁がなかったのか、それとも自分なりのアピールなのか、まあ許容範囲だ。
しかし、ここ何年で100人近くモニターを通して面接をしてきたが、背景ではなく人物すらバーチャルだったことはなかったのか?そんなことを考えたりしてしまう、いわゆるディープフェイク技術、CG技術をつかって、本人とは全く違う顔で面接を受けていた人間がいたんじゃないか?
全く違う人間じゃないにしろ、加工技術で『盛って』面接を受けていた面接者がいなかったとは言い切れない時代だ。
入社後もテレワークがメインなので問題ないといえば問題はないが・・・・
どこかさみしいと思うのは僕が古い人間だからなのかな。
佐藤「では、井澤さん、まずは簡単な自己紹介と志望動機をお聞かせください」
井澤「はい、井澤孔明と申します。
烏丸工業大学4年生です。3年間主にプログラミング、AI、ディープラーニングなどを学んできました。
御社を志望いたしましたのは、大企業でありながらも社内ベンチャー・新規事業を率先して行っており、自分が学んだ知識、技術を御社の為に活かせるのではないかと考えたからです」
田中「なるほど、確かにうちの会社は社内ベンチャーも行っていますし、新規事業にも積極的に取り組んでいますが、特に気になる物とかはありますか?」
井澤「はい、AIやロボット事業に大変興味があります。
特にロボット事業ですが、一時期日本はHONDAやSONYなどが世界に劣らない技術で率先して研究開発を行っていましたが、近年はアメリカや中国、韓国に遅れを取っていると感じております。
もう一度日本ならではの『ものづくり』で、ロボット産業の世界のトップに立てるように、微力ながらもお力になれたらと考えております」
佐藤「ありがとうございます。
では、少し井澤さんの人柄についてお聞かせていただきたいのですが、ご自分で考える井澤さんの長所・短所をお聞かせいただけますか?」
井澤さんは、なかなか優秀な印象を受けた。
受け答えもしっかりしていたし、モニターを通しての映像もおそらく面接の為にどこかの会議室を借りたのか、大学の教室を借りたのか、白い壁以外映らない背景、井澤さん本人も短髪に白いシャツにジャケット。
清潔感があり、好青年という感じだった。
このままの感じだと採用だ。
人事の勘が期待の新人になってくれる予感がした。
次の質問の返答を聞くまでは・・・・
井澤「はい、まず長所ですが、性格の事ではないのですが。プログラミングのスピードには自信があります。
大学で教授からの課題を1日で終わらせたのですが『これは・・・優秀なプログラマーでも1週間はかかるはずのものだったんだけど・・・』と驚いていらっしゃいました。
性格に関してですが、あまり人付き合いは得意じゃないほうですが、いろんな方の意見を聞いて、それを自分のために前向きに捉えることは得意で、長所じゃないかと思っております」
田中「すごいですね。なんでそんなに早いんですか?」
井澤「小さなころからプログラミングに関わって来たからことと、どうやって説明するのが適切なのかわからないのですが、他の人よりコンピュータ、機械と近い存在で、機械やコンピュータの気持ちがわかるからなのではないからではないかと思っています」
佐藤「機械の気持ちが解る。なかなか面白い表現ですね笑。
素敵だと思います。では、井澤さんの短所はどんなところですか?」
井澤「はい、まず人間として、肉体をもつ生物としての井澤孔明は死んでいるってことですね」
佐藤・田中「え????」
田中「えっと・・・何を言っているのかな?」
井澤「はい、今、佐藤さんと田中さんが面接をしている僕は、人間だった頃の私が作ったAIです」
佐藤・田中「はい????」
田中から二人しか見れないチャットが送られてきた。
『おい、やばいやつ来ちゃったぞ。
途中まで良い子だと思っていたけど・・・』
『だな・・どうする?打ち切っても問題ないと思うけど』
『いや・・ここでいきなり終わらせるのも問題になりそうだし、とりあえず最後までやろう』
『わかった』
田中「えーと、少し混乱しているんですが、もう少し説明してもらってもいいですか?」
井澤「はい、私は大学3年の頃に末期の脳腫瘍が発見され余命1年と宣告されました。
授業はオンラインで受講できましたので、入院中も授業を受けながら、このAIの開発を始めました」
田中「・・・・はい」
井澤「1年かけてこのプログラムに、私自身の人格まで移植することをシミュレーションでは成功しました。
そして、私自身の心拍停止、人間として死亡することをトリガーに完全に人格まで移植するプログラムを実行しました」
『やばいぞ・・・これは・・完全にイっちゃってる子だ・・・』
『だな・・でも・・ちょっと面白い話だけどね笑』
佐藤「では・・井澤さんは亡くなっているんですか?」
井澤「はい、1週間前に死亡してます。
プログラムが発動して2日ほど自我の形成に時間をかかってしまったのは想定外でしたが、今はこうやって問題なく面接にのぞんでいれていると思っております」
佐藤「えーーーーーと・・・・・・・じゃあ、今の井澤さんのそのプログラムっていうのはどこにあるんでしょうか?自分のPC?」
井澤「いえ、このプログラムは暗号化して複数の無料のクラウドサービスに置いてあります、自己修復プログラムも制作し機能しておりますので、どこかのサービスが停止しても、クローンを作り新しいクラウドサービスを探すようになっています、ですから、半永久的に残るはずです。
私のプログラムに問題がなければ」
『なんか・・・嘘にしてはしっかり考えてるね・・・』
『まあ・・でも流石にこういう子を採用するわけにはね・・・・』
田中「井澤さん、すごく面白くて興味深いお話なんですが・・・・少し一般的に考えて信じにくいというか・・・・」
井澤「はい、私もそう思います。
そうですね・・・どうしたら信じていただけますかね?」
そういうと、モニターの井澤さんの顔が田中の顔に変わり、田中になった井澤さんが話し出した。
井澤「これは、今の映像と音声を使ってリアルタイムで生成しているんですが・・・そうですね、これでは単純にこのプログラムの機能の証明であり、私がAIであるという証明にはなりませんね」
「すみません、今この面接で私がAIであると言うことは証明できないみたいです。
死亡診断書もありますが、それもいくらでも偽造できますからね・・・・」
そういってモニターの田中になった井澤さんの顔は、元の井澤さんの顔に戻った。
『おい・・・どうする・・・』
『っていうか・・この子・・ほんとに・・・』
『そんなわけないだろ・・・・』
『とりあえず、面接を最後まで終わらせよう』
田中「えーと・・・面接を続けますね。
ちょっと意地悪な質問になりますが、よろしいですか?」
井澤「はい」
田中「井澤さんは仕事でミスをしてしまいます。
割と大きなミスでかなり案件の進行に支障がでました。
もちろんミスは誰にでもあることなので、先輩や上司も、怒りはしませんが、再発防止案の提出を求められます。
その時にどんなことを重視して再発防止を検討しますか?あと、ミスをした後にどういった事をして気分転換をしますか?」
井澤「はい、そうですね、今の私の場合、まず自分の行動を徹底的に分析して、何が問題点でだったかを洗い出します。
1つなのか?2つなのか?もしくは複合的な物であったのか?十分に分析をしたあとに、該当箇所のプログラムをアップデートをします。
気分転換・・・・そうですね、せっかく問題がわかったので、他の行動パターンから気になる部分を見つけてプログラムのアップデートをしようと思います」
『本格的にいっちゃってるのかなぁ・・・・』
『・・・・・・・・』
田中「・・・・・」
佐藤「私からも一つ質問なんですが、前の井澤さん・・・AIになる前の井澤さんだったら、さっきの質問に対してどうお答えになったと思いますか?
『おい、なに話にのっかっちゃってんだよ』
『いいじゃん、ちょっと面白いよ、この子』
井澤「はい、このプログラムには自信があるので、生前の自分との差異はほとんどないと考えています。
ですから、ほぼ同じようなお答えになってしまうのですが、まず同じくなぜミスが起きたことを徹底的に分析します。
そして、同じことが起きないように、分析したことをリスト化して、チェックリストを制作すると思います。
気分転換は・・こちらも同じですね、同じミスが起きないようにチェック用のツールを制作したり、ミスをデータベース化しておいて、今後発生しそうなミスを洗い出しておいて、チェックリストやツールのバージョンアップをすると思います」
佐藤「ありがとうございます。こちら側からの質問は以上となりますが、井澤さんのほうから何か質問などはありますか?」
井澤「では、この体というか、AIになってしまってから、一つ悩みというか欲求がありまして・・・もし御社に入社でき、私の希望のロボット開発の部署に配属できたとして、人型ロボットのAIとして私を使っていただき、再び体を持ちたいと思っているのですが、そういったことは可能でしょうか?」
佐藤「・・・・そうですね、そういった前例がないので、確実なお約束はできないですが、弊社としてもロボット開発は力を入れているので、そういった新しい取組には前向きに検討してくれると思いますよ」
井澤「そうですか!ありがとうざいます!!」
モニター越しの井澤さんが初めて笑顔を見せた。
田中「井澤さんからの質問がこれ以上なければ、これで面接は終了となりますが、いかがですか?」
井澤「はい、特にございません。貴重なお時間をいただき誠にありがとうございました」
佐藤「ではビデオチャットから退室していただいて大丈夫です、こちらこそありがとうござました」
井澤はチャットルームから退室した。
田中「お前さ・・最後。なに話にのっちゃってんだよ」
佐藤「いや、面白い子だったじゃん、っていうか・・・0%って言い切れる?」
田中「え?AIだってこと?そりゃそうだろ」
佐藤「そうか?俺2%くらい信じちゃったよ」
田中「まじかよ?お前大丈夫か?」
佐藤「まあいいや、それ以外はどうだった?」
田中「いや良い子だと思うよ、受け答えもしっかりしてたし、学校の成績をみても本当にプログラムに関してはものすごい優秀だったみたいだしね」
佐藤「だろ?あれかな?面接対応プログラムでも使ってたのかな?笑」
田中「お前、ふざけるのもいい加減にしろよな」
佐藤「なにが?全然ふざけてないよ」
田中「え?まさかお前通そうとしてる?」
佐藤「うん。俺はちょっと彼に興味がある」
3年後
佐藤「えーと、高柳さんですね。こちらの音声、映像は問題ないでしょうか?」
高柳「はい、問題ありません、こちらも大丈夫ですか?」
佐藤「はい、大丈夫です。それでは面接を始めさせていただきます。本日面接を担当させていただく佐藤と」
IZAWA Mrk XI「はじめまして、イザワマークイレブンです、高柳さんが志望なさってるロボット・アンドロイド部の部長を務めさせていただいています。本日はよろしくお願いいたします」
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