第52話 ラウとピピナ

「ピピナ? こんなところで何をしているのですか?」


 守護剣であるラウに助力を求めるべく、ラーズと共に城の地下に作られた彼専用の鍛錬場を訪れてみれば、そこにはよく知った顔があった。


「見ての通り手合わせ。リーナ達こそどうしたの? フローナならゼニーヌのところだよ」


 ひび割れた床に壁。守護剣の訓練のために強固に作られた部屋の惨状は、実戦でも中々こうはならないもので、二人の激突の激しさを物語っていた。


「フローナにはゼニーヌを見張ってもらっています。ここには助力のお願いにきました」


 ピピナが不思議そうに目を瞬いた。


「ゼニーヌを見張る? なんでまた」

「どうやら貴様との決着はまた今度になりそうだな」


 ラウが持つ剣、その反り返った片刃の刀身が鞘に収まった。


「ちぇ。言っておくけど、僕まだ全然本気じゃなかったからね」

「それはこちらも同じこと」

「へ~。言うじゃん。なら後でまた勝負してよね。こういうのハッキリさせないと気分良くないからさ」

「無論。決着は付ける」


 二人の闘争心が空気を静かに振るわせる。守護剣の中でも三指に入ると言われるラウと互角に戦ったピピナを凄いと言うべきか。あのピピナに引けを取らないラウを流石と讃えるべきか。悩むところではあるけれど、その前にーー


「ピピナ、ひとまず着替えたらどうですか」

「へ? ああ。そっか」


 守護剣と互角の勝負を演じた代償とばかりに、ピピナの服はあちらこちらが切り裂かれており、あられもない姿を晒していた。


「うわっ。ひょっとして色々見えちゃってる? コラ! ラーズ。何ジロジロ見てるのさ。あっち向いてよね」


 自分の体を腕で隠すと、ピピナは赤面している幼馴染をキッと睨んだ。


「ご、ごめん」

「てか、服だけ斬りすぎでしょ。まさか僕の裸が見たくてわざとじゃないよね?」

「剣で殺さないように制圧するのは中々に難しい。それだけのことだ」

「何それ~。何か負け惜しみっぽいな。言っておくけどね、殺さないよう気を遣ってたのは僕も同じだからね。あと着替えるからこっち見ちゃ駄目だかんね」


 鍛練場の隅に置いてある荷物へと向かうニニナ。見てはダメと言いつつも、ピピナは破れた上着を無造作に脱ぎ捨てると、次に下着を外した。


「冒険者をやっていたくせにそんなことを気にするのか」


 慌てて視線を逸らすラーズと違ってラウは気を遣う必要などないとばかりにニニナを視界に収めている。彼に限って色欲に取り憑かれての行為ではないと思うが、同じ女性として気分の良いものではないので、私は自分の体を使ってピピナを隠した。


「そりゃ、気にする余裕がなければ仕方ないけど、そうでないなら気にするでしょ。僕の裸を見ていいのは、男では基本師匠だけなんだから」

「師匠? ……師事していたという冒険者か。強いのか?」

「当たり前じゃん。師匠にかかればラウなんて雑魚だから。ねっ、リーナ」

「えっ!? えっと、そ、そうです……かね?」


 私達が成長して実力差が埋まったとはいえ、確かにクロウは弱くない。でも守護剣であるラウと比べて強いと断言していいものか。


 ラウの口元に好戦的な笑みが浮かぶ。


「面白い。一度手合わせ願いたいものだな」

「何言ってんだか。僕に勝てない奴が師匠に勝てるわけないじゃん」

「貴様にはのちほどキチンと勝つ。そしてその後は貴様の師匠とやらも斬り伏せよう」

「師匠に勝つなんて絶対無理だから。勿論僕にもね」

「勇ましいな。なんなら今すぐ決着をつけるか?」

「やってみたらいいじゃない」


 二人の黒髪が闘気でふわりと逆立つ。長身のラウと小柄なピピナでは体格に大きな差があるが、そんな尺度など何の意味もなさないエネルギーのほと走りだ。


「やめてください。今はそれどころではありません」

「あっ、そうだった。結局リーナはラウに何の用なの? ゼニーヌがどうとか言ってたけど」

「実は……」


 そうして私はラウとピピナに事情を説明した。

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