第32話 対決
「こ、こんな。こんなことが……ありえませんわ。絶対何かの間違いですわ」
剣を握りしめたまま、女がブツブツと呟く。目が据わっているが、大丈夫だろうか?
「もう止めるか?」
ギルドに借りた一室でサーシャという女剣士と勝負を始めたが、やっぱりというか何というか、女は弱かった。
「ふざけるんじゃありませんわ。どうやら私が手加減してあげれば勘違いしてしまったようですわね。今から本気の本気を出しますわ。もう怪我をしても知りませんわよ」
「ああ」
「くっ。その余裕……許せませんわ。覚悟なさい」
全身に魔力を満たし、一足で距離を詰めてくるサーシャの動きは、なるほど、言うだけあって先ほどよりも速かった。
「シッ」
鋭い呼気と同時に放たれる斬撃。刃を潰してあるとはいえ、その剣に乗っているのは人を殺すには十分な速度と質量だ。しかし俺は人間ではないのでこれくらいのエネルギーだとあまり関係ない。無造作に出した手のひらで剣を軽く受け止める。
「くっ。どうなってますの!? 身体強化? それとも結界の類?」
「もう実力差は分かっただろ?」
指で弾いてサーシャの手から剣を弾き飛ばす。
「お黙りなさい」
「やれやれ」
俺の顎先めがけて繰り出された蹴りを軽く首を上げることで回避。サーシャはその隙を突いてアクロバットな動きで後退して剣を拾った。どうやらまだやるつもりらしい。
「空波」
剣に乗った衝撃波が飛んでくる。それを適当に払っていると女剣士が訓練された歩法で素早く俺の背後に回り込んだ。同時に高く跳躍。
「天斬」
女の剣に魔力どころか殺気までもがのる。しかしせっかく背後を取ったのに、あんなに高く飛んだら意味がないようなーー
「はぁああああ!!」
空を蹴って急落下。女剣士は一気に俺のところまで降りてきた。
「なるほど」
一応考えてるのかと感心しつつも振り下ろされる剣の腹を叩いて刀身を破壊する。
「なっ!? あっ……う、嘘」
地面に降り立った女は刃を失った剣を見て、呆然と一歩二歩と後退。そしてーー
「うぇえええん!! 負けてしまいましたわ」
号泣した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます