第14話 目立つ
「……目立つな」
ベッドに腰掛けて、目の前に立つ裸体のメイドを観察する。
女の白い肌の上で自己主張をする魔術紋。ともすれば胸部の膨らみや腰のくびれ以上に目立つこれに気付かないのは、よほど特殊な事情のある者くらいだろう。
「……これと同じものをリーナ様に入れたのでありますか?」
メイドが呆れたと言わんばかりの半目を向けてくる。
「どう思う?」
「色々と問題だとは思うであります。ただ……」
ラーミアは何かを確認するかのように両の拳を握ったり開いたりする。その頬は行為の最中であるかのように赤い。
「これはすごいでありますな。発動させていないのに、物凄い力を感じるであります」
「使いこなせれば地上にいる大抵の生物には勝てると思うぞ」
勿論魔術紋は無限の力を与えるものではない。仕組みとしては魔力を含有させた液体を肉体と一体化させるものだから、最初に含ませた魔力を消費すれば紋は消失する(術者が途中で魔力を補給すれば別)。一応人間が使いきれない程度の魔力は与えたつもりなので、余程のことがない限り三人の紋が消えることはないだろう。
まぁ、そのせいで簡単に隠せたり、消せなくなったんだが。しかしラーミアの反応は思ったほど悪くないな。
「案外気に入ったのか?」
「それは当然であります。これほどの力……確かに紋自体は初見では誤解を生むものではありますが、見るものが見ればどのような用途のものかは分かるであります。なので根気よく説明すれば誤解は解けるでありますよ」
「根気よくね」
あの三人の中でそれができそうなのはフローナくらいだな。ピピナはあの性格だし、リーナはあれで結構ポンコツなところがある。
「これほどの魔術紋を頂いて本当によろしいのでありますか?」
「ああ。リーナ達にやったついでだ。せっかく手に入れたメイドに簡単に死なれても困るしな」
「……ご主人様はリーナ様達のことを大切に想っているでありますね」
「ん? そうだな。それなりに愛着はあるぞ」
しかし考えてみれば行動を共にした人間は別にあの三人が初めてというわけではないのに、何故俺はあの三人にこうまで愛着を持っているのだろうか?
「そのお言葉が聞けて自分は嬉しいであります。……そろそろ朝食の用意をしようと思うのでありますが、もう服を着てもいいでありますか?」
「ああ、いいぞ。というか、貴族御用達の宿のくせに飯は自前なのか?」
「自分は長期間滞在する場所では口に入る物は自分で用意しないと落ち着かないであります。ご主人様がここの料理の方がいいというならそうしますが、どうするでありますか?」
メイド服にまだ慣れていないのか(というかあの服って誰のなんだ?)、ラーミアは下着を身につけるのに比べれば若干ぎこちない動きで袖に手を通した。
「そうだな。せっかくなんで食べてみたいが、今はお前の料理でいい」
「お任せくださいであります。部下達に大好評だった手料理を振る舞うであります」
「……ああ、頼む」
なんか生の野菜がそのまま皿に乗って出てきそうだな。
敬礼するメイドを前に、ラーミアの部下がグルメであることを期待した。
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