第96話 実験体

――魔王城。


「ふむ……全て失敗か」


魔王が自らの居城で呟く。

世界中の生物を追い詰める事でその進化を促す計画を進めていた魔王だったが、それと同時に、自らに対抗しうるほどの生物を生み出す実験にも手を出していた。


――それは生物と自身との遺伝子の組み合わせ。


既存の生物の遺伝子と、魔王の遺伝子との掛け合いが上手くいけば、新たな可能性を秘めた生物を生み出す事が出来る。

それに期待し、彼はありとあらゆる生物の遺伝子を自身の遺伝子を混ぜる実験を繰り返した。


が、その全ては失敗に終わってしまう。


それも当然の事。

通常の生物同士でのかけ合わせですら、相性のいい者同士でなければまず成功する事はないのだ。

それが神によって作られた、通常の生物とは一線を画す生物兵器との掛け合いともなれば、奇跡でも起きない限り上手くいく訳がない。


もちろん、魔王もそんなことは理解していた。

だがそれでも手を出したのは、デメリットが無かったらである。

失敗した際の。


通常、達成不可能な実験など、時間や資源の浪費以外何物でもない。

だが魔王には無限に近い時間があった。

そして資源も、多少浪費した所で配下に命じて集めさせればいいだけの事しかない。


つまり彼には、実質失う物などなかったのだ。

だから無駄だとは分かっていながらも、無茶な実験に着手した。


だが予想通りと言うか。

その結果は無駄に終わってしまう。


ただ一体。

人間の細胞と組み合わせて生み出した一体を除き。


「まさか、ただの人間が生まれて来るとはな……」


「……」


魔王の見つめる先にいる実験体は、ただの人間だった。

彼が魔法などで検査しても、差異は一切見あたらない。

正真正銘ただの人間だ。


魔王の細胞と混ぜて生み出したにもかかわらず、である。


なぜそうなったのかは分からないが、当然これは失敗作だ。

魔王が求めたのは、魔王の力の一旦でも引き継ぐ強き生物なのだから。


――そして何の力も持たず、ただの人間として生まれて来た実験体には何の価値もない。


「廃棄……いや、仮にも我が子だ。生き延びるチャンスぐらいは与えてやるべきか」


長い時間をかけて行った実験は完全に失敗に終わってしまったが、魔王はその事で腹を立てて何かに当たる様な真似はしない。

元より、失敗前提だったと言うのもあるが。


なので魔王は生み出した実験体を、始末せず、寛容な心で人間の領域へと逃がした。


「運が良ければ生き延びれるだろう。まあせいぜい生き足掻くがいい」


魔王にとっては、ここで配合の実験は終了。

特に成果もなかったので、すぐさま頭の片隅からすらも、実験体を逃がしてやった事すら消し去ってしまう。

彼にとっては、本当にどうでもいい事だったからだ。


だが魔王は知らない。


魔王が気まぐれに逃がしたその実験体が人間の世界で生き延び。

そして特殊な才能を開花する事を。


やがて人間の世界で頭角を現した実験体の子孫達は、やがてこう呼ばれるようになる。


召喚師、レーン一族と。

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