第67話 速報

「100兆か。姫宮グループはニッコニコだろうな」


日本のSランクダンジョンのボスドロップは、競売にかけられていた。

その落札価格がおよそ100兆円だ。

その事が、ネットにある纏めニュースに速報として上がっていた。


因みに、参加者である能力者にボーナス的な物はない。

その事が甚だ遺憾ではあるが、まあそう言う契約だったから仕方がないだろう。


「しっかし、いくら何でも100兆も出すか?」


イフリートを倒した事で手に入ったアイテムは、フェニックスポーションいう物だった。


名前だけ見ると、不死の薬の様にも思える。

実際そうだったなら、むしろ100兆では安い位だろう。


だが残念ながら、そんな強烈な効果はない。

飲んだら肉体が5年分ほど若返るだけの、微妙な効果だ。

仮に100兆持っていたとしても、俺なら絶対に買わない。


「まあ年取って死期が見えて来ると、馬鹿みたいな大金払ってでもってなるんかねぇ」


ネットに落札者の顔が乗っている。

かなり高齢な人物だ。


「ますたぁ。サーヤがぁ、どこか遊びに行かないかってぇ。行ってもいいですかぁ?」


クレイスの手には黄色いスマホが握られており、その背面には可愛らしい魔法少女のイラストが描かれていた。


これは俺が買い与えた物ではない。

神木沙也加がクレイスに渡した物だった。

魔法少女同士、いつでも連絡が取れる様にと。


因みに、俺に対する呼称が蓮人様から『ますたぁ』に変わったのは、言うまでもなく神木沙也加の影響だ。


「別にいいけど、変な失言はするなよ」


これがアクアスなら心配する必要はないのだが、クレイスはなんか変な事を口走りそうで怖いからな。

釘を刺しておく。


≪ご安心ください。クレイスの様子は離れていても確認できますので、問題がありそうでしたら私が対処いたします≫


「それなら安心だな」


「じゃあ、行ってきますねぇ」


「あ、待て。魔法少女グッズ見て回ったりするんだろ。持ってけ」


クレイスに一万円札を数枚渡す。

無一文で行かせる訳にもいかないからな。

神木なら丸々奢ってくれそうな気もするが、流石にそれはあれだし。


「やったぁ!」


以前なら、小遣いなんて数百円渡すのが関の山だったろう。

これだけの金額をポンと渡せる様になったのは……まあ郷間のお陰と言えなくもない。

碌でもない悪友ではあるが、その点だけは感謝しておこう。


「行ってきまぁす」


クレイスは部屋の窓を開け、そこから外に飛び出す。

その手には靴が握られており、彼女は空中でそれを履きつつ庭に綺麗に着地した。

そして猫の様なしなやかな動きで塀を乗り越え、街中に消える。


玄関から出ていかなかったのは、その付近に母の気配があった為だ。

アクアスだけではなく、クレイスもそう言う部分は結構敏感で助かる。


母に万一見つかると、確実に根掘り葉掘り探りを入れて来るのは目に見えているからな。


「ん?」


モニターに視線を戻すと、速報のページにNEWの文字が表示されていた。

どうやらオーストラリアのSランクダンジョンが攻略された様だ。


「衛宮達の攻略が終わったみたいだな」


無事攻略出来たという事は、予想通り魔王の干渉は無かったという事だ。

まあ大丈夫だとは思っていたが、何事もなく終わった様で一安心する。


「思ったより早かったな。こりゃ急がないと……」


何を?

勿論、『義妹を育てろ!エンジェルハニー♡完全版』の攻略を、だ。


最近色々忙しかったせいもあってか、ゲームがあまり出来ていなかった。

そのため、まだ一キャラもクリアできていないのだ――ボリュームが凄いゲームだし。


だがそんな事は言い訳になどならない。

このままだと帰って来た衛宮玲奈に「ふ、あんたまだ誰もクリアできてないの?ざっこ」みたいにマウントを取られてしまうのは目に見えていた。


ライバルとして……


ゲームキングを目指す者として……


奴にそれを許す訳にはいかない!


今日からは俺は、ゲーム以外の全てを放棄する!


魔王対策?

そんなものはゲームが終わってからで十分だ。

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