第56話 実力差
「一撃で終わらせてやらぁ!」
勝負は笹島が先に仕掛けた。
まあ相手は遠距離攻撃型なので、当然と言えば当然の話ではあるが。
「くらいな!」
笹島が手を前に突き出す。
だが何も見えない。
それもその筈。
奴の能力――それは風の刃を打ち出す、カマイタチと呼ばれる能力だからだ。
カマイタチ。
風の刃による攻撃は、攻撃としてはかなり強力な方に分類されている。
威力もそうだが、その特性状、攻撃が目で見えないというのが大きい。
真っすぐに打ち出すだけならともかく、複雑な軌道を描かれてしまうと、戦闘に通じた者でなければ対処するのはかなり難しいだろう。
ま、郷間には通用しないけど。
極端な話、結界を周囲に張ってしまえば、レベルで勝る郷間に攻撃は絶対通らないからな。
パワーで勝らなければ相手にダメージを通せない。
そう言う意味で、郷間の能力である結界は創意工夫を踏みにじる能力と言えるだろう。
とは言え、その状態だと結界に阻まれて郷間自身も動けなくなる。
相手の攻撃を受け身で耐え続けたりした日には、長期戦手待ったなしだ。
当然そんな下らない泥仕合を見るために組んだ勝負ではないので、その手は使うなとちゃんと郷間に言ってある。
じゃあどうやって戦うのか?
簡単な事だ。
迎撃すればいい。
「そんなショボい攻撃……あたるかよ!」
郷間の右手を光が包み込む。
まあ一言でいうなら、結界で作った盾だ。
郷間はそれを使って、笹島の放ったカマイタチを全て手で弾き飛ばしてみせた。
因みに鎧じゃないのは、関節部分の稼働に問題が出る為だ。
今の郷間のレベルじゃ、関節部分を自由にできる形の結界は作れない。
「馬鹿な!?見えないはずの刃が何で!?」
「見えてんだよ!俺に鑑定があるのを忘れたのかよ!笹島!!」
鑑定能力は低レベルのうちは、目の前の物や人をふわっと調べる程度の力しかない。
だがレベルが上がると遠くの対象や、それどころか、相手の放った能力自体も鑑定できる様になる。
要は鑑定能力全開にして、カマイタチを鑑定可能状態にする事でその動きを把握していたという訳だ。
「くっ!だから何だってんだ!ちょっと防いだぐらいでいい気になるな!!」
笹島が再びカマイタチを放つ。
さっきは3発だったが、今度は倍の6発に増えた。
その威力も明らかに先程より上がっている。
どうやら初弾は、郷間を格下と舐めての物だったのだろう。
だがまあ、結果は同じだ。
「へっ!無駄だ!」
郷間は飛んでくる攻撃を、軽く迎撃してみせる。
限界突破と訓練で伸ばしたフィジカルに、更にレベル4の
レベル3の飛び道具如き通用する筈もない。
「今度はこっちの番だ!」
「――っなに!?」
郷間が笹島に掌を向けると、手を覆っている結界が棒状に高速で伸びる。
レベルが上がった事で、結界は限定的にではあるが、その形状をある程度変化できる用になっていた。
それが笹島の顔面を捕らえ、奴を吹き飛ばす。
「ぐっ!くそ……」
笹島が血の出ている鼻を押さえながら起き上がり、憎悪の眼差しを郷間に向ける。
残念ながら威力はそれ程大したものではない。
まあ元が防御のための能力なので、ある程度は仕方ないだろう。
「郷間の癖に!」
再び笹島が攻撃を仕掛けた。
今の短い攻防からでも、郷間との圧倒的実力差は明白だ。
それでも
それが分からない程頭が悪いか。
もしくは奥の手を隠し持っているか、だ。
まあ間違いなく前者だろうとは思うが。
「無駄だっての!」
郷間が攻撃に合わせて突っ込んだ。
2度迎撃した事で、動きながらでも対応できると判断したのだろう。
実際のその判断通り、郷間はカマイタチを叩き落し笹島の目の前に迫る。
「くっ!郷間!」
笹島が郷間の顔に拳を振るう。
俺が奴なら「ゼロ距離だ!」とかいいながらカマイタチを出す所だが、追い込まれた笹島は本能的に手を出してしまった様だ。
当然、そんな苦し紛れの一撃が今の郷間に当たる筈もなく――
「そんなへぼパンチ当たるかよ!」
あっさり回避。
そして――
「これが本当の男の拳だ!笹島ぁ!」
郷間の拳が笹島の顔面に叩き込まれた。
「ぐぇあ!」
変な声を上げながら吹き飛んだ笹島は、地面に転がってピクリとも動かなくなってしまう。
男の拳かどうかはともかく、今の郷間のパンチをレベル3の奴が耐えるのは不可能なので、まあ勝負ありだ。
「しっかし……」
郷間が振り返り、だらしない顔でクレイスに向かって手を振る。
裏切った笹島に借りを返した事よりも女。
わかりやすい奴である。
だがまあ、それは器の大きさでもあると言えるだろう。
笹島から話を聞いただけで、俺は当事者でもないのに
もし俺が奴の立場だったなら、絶対1-2発殴ってスッキリとはいかなかった筈だ。
ていうか、多分迷わずあの世に送ってる。
その点郷間は当事者にも拘らず、後に尾を引かずさっぱり切り替えている訳だからな。
その精神性は大したものだと、純粋に称賛する。
ま、習ったり真似する気は更々ないが。
「さて、約束を守って貰おうか?」
地面に大の字で気絶してる笹島は無視し、俺は一緒にやって来た3人に声をかけた。
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