我ら成仏絶対反対派
サムライ・ビジョン
第1話 あなたの未練、晴らします。
「あのぉ…」
「はい?」
「突然なんですけど、高校生くらいの娘さん…いらっしゃったりします?」
どこにでもある街の、どこにでもある駅前。
ひとりの若者が、赤の他人に話しかけるにしては実に不自然で怪しいものではあるが…
「…ええ、いますよ。いや、いま『した』って言うべきかな…」
スーツ姿がその年齢によく似合う。
中年の男が、穏やかに…しかし物憂げな表情で、小さくこぼした。
「亡くなってしまったんです。ちょうど、この駅で。まったく…歩きスマホで階段から転げ落ちるなんて…バカな話ですよ…」
ベンチに腰かけていたその男は、だんだんと涙声になっていく。
「そうだったんですね…でもね?お父さん。ひとつだけいいニュースがあるんですよ?」
若者は人差し指を立てて、微笑んだ。
「いいニュース?…なんでしょうか?」
「娘さん…大学に受かったらしいんです」
「…え?そんなこと…えっ…どうしてそんなことを…そもそもあなたはどなたですか?」
中年の男は、若者に疑問を持ち始めている。
「実は僕、その娘さんと同級生なんです。合格発表のときに、その娘さん、すごく喜んでましたよ。…まぁ、同級生になる『はずだった』…って感じですけど…」
「はずだった…そうか…君も、僕と同じ立場なんだね」
「僕の場合は歩きスマホじゃないですけど」
若者は笑いながら答える。
「いや本当…この歳で、まさか歩きスマホで死ぬなんて…情けないです…」
照れながら答える中年の男は、先ほどまでの哀愁ただよう表情から一転して、どこか晴れやかな顔つきへと変わっていた。
「そうか…娘はちゃんと合格できたんですね…僕、どうやら地縛霊になったらしくて、娘の受験がどうなったのか分からなくて
ずっとモヤモヤしてたんです」
そう彼が語っていると、天から光が差し込み始めた。
「ああ…これってもしかして、成仏ってやつですかね…あなたのおかげで、僕の未練はなくなったみたいですね。本当に、ありがとうございました…!」
彼の体が、天へと吸い寄せられていく。
「どういたしまして!娘さんの合格!本当におめでとうございまーす!」
若者は叫んだ。声が届くように叫んだ。
「ありがとう…」
中年の男のつぶやきは、若者の耳にもきちんと届いたようだった。
「…さてと」そう若者はつぶやき…
「…やっぱり成仏するのか…たまたまさっき未練たらしそうなおっさん見かけたから、
実験がてら成仏させてみたけど…」
腕組みをして考える若者。
「俺の未練ってなんだろ。てか成仏したくね〜 幽霊の今が一番楽しいだろ絶対」
——これは、成仏をしたくない人間の、人間たちの、物語。——
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