2.大魔法祭 その③:準々決勝

 円形闘技場アンフィテアトルムのフィールド内には、四角く区切られた試合場が幾つも設置されている。係員に指定された中央の試合場に駆け登ると、囃し立てるような歓声とざっくばらんな拍手が出迎えてくれた。ホームだけあって、その大部分は私に向けられたものだ。アウェーを感じた正面の対戦相手が露骨に顔をしかめた。


 対戦相手は、前回の大魔法祭フェストゥムでは見なかった顔だ。さっき確認した試合表によると所属はガリア帝国で名はレティシア、中等部二年生だという。つまり、隣の魔族――首無しの妖精、霊騎士デュラハンとは契約したばかりであるにも関わらず、三年生をぶっ倒して出場してきた訳だ。そして、一回戦でも見事に勝利を収めた。


 カリキュラムはどこの国もそう大差ないと聞くから、最速で【契約召喚パクトゥム】をしても連携を磨く時間は二ヶ月かそこら。だから、きっと強みはそこじゃない。


 では、契約者のレティシアに何の強みがあるかというと、その姿勢や体重移動からは全く才気を感じなかった。魔力の気配も凡庸、【身体強化】も上位層と比べれば見劣りする。まだ見ぬ魔法の腕は或いは、といった感じだった。


 一方、その隣を歩く霊騎士デュラハンは立ち居振る舞いから覇気に満ちあふれている。


(強いのは霊騎士こっちか。なら、狙うべきは……)


 審判が私と対戦相手を試合場の真ん中で引き合わせ、互いの武器に不審なところがないか確認させる。


 レティシアは、カラギウスの剣を二本と杖を一本差し出してきた。彼女が剣と杖を一本ずつ使い、霊騎士デュラハンには剣一本だけを持たせるのだろう。魔力の扱いに長けた魔族なら、簡単な競技用魔法ぐらいは杖の助けを借りずとも構築できる。


 その構成を見た私は、持ってきた杖を「やっぱり要らない」と審判に押し付け、二本のカラギウスの剣だけをレティシアに差し出した。


「アンタ、レティシアよね? 私はリン。よろしく」

「……ええ、良い試合にしましょう」


 武器の確認が終わり次第、互いに武器を返して握手をする。可能なら使い魔メイト同士も握手するのがマナーだが、マネは触れると相手を溶かしてしまうのでしない。


 そして、互いの開始線にまで下がる。


「レティシア、一つ良いことを教えてあげるわ」

「え?」


 開始線から話しかけると、レティシアはきょとんとした。こんな時に何を、と顔に書いてある。


「私の戦い方はもう知っているのでしょう?」

「そりゃもう……去年、ウチの先輩も世話になったもの」


 怪訝そうな顔をしながらも、こちらの話に耳を傾けるレティシア。なんとなく感じた印象通り素直な良い子だ。


 ――実にくみし易い。


 試合場を降りてゆく審判の様子を横目に見ながら、私は会話のテンポを微妙に調整する。


「防御、しといた方が良いわよ」

「はっ?」

「私、試合開始と同時にアンタの方へ突っ込むから」

「――耳を貸すな、レティシア! 試合が始まるぞ!」


 背後に控えていた霊騎士デュラハンの方が私の目論見に気づいたようだが、もう遅い。今のやり取りで、レティシアの視線は一瞬だけ背後を探り、思考も一瞬だけ乱れた。


「始め!」


 試合開始と同時――いや、若干フライング気味に解放バーストで突っ込み、宣言通りにレティシアの顔面めがけて飛び蹴りをカマす。不意をつかれ反応が遅れたレティシアは、防御ガードこそ間に合ったものの無様にバランスを崩して試合場の床を転がってゆく。


「くっ――レティシア!」


 すぐさま、霊騎士デュラハンが私の追撃を防ぐようにカバーに入ってくる。


 勝負の主体はあくまで魔法使いウィザードなので、使い魔メイトを幾ら斬ろうがポイントにはならない。


 だが、使い魔メイトを無視して魔法使いウィザードだけを狙っても、横合いからちょっかいをかけられ続けて鬱陶しいだけ。故に、姑息に稼いだこの僅かな時間を使って、まず霊騎士デュラハンの方から仕留める。


 フェイントを駆使して霊騎士デュラハンへ斬りかかるも、これは予想通りに対応される。


(なら、こういうのはどうかしら?)


 私が持ち込んだ剣は二本。しかし今、私の手にあるのは一本だけ。


 さて、もう一本は今どこにあるのでしょう?


「――な、なんだとっ!?」


 答えは――足元。


 マネに持たせておいたもう一本の剣に両脛を斬りつけられ、ガクッとバランスを崩す霊騎士デュラハン。かなりの鍛錬を積んでいることは伺えるが、型にハマった剣術しか相手にしてこなかったのだろう。【契約召喚パクトゥム】に応じるような〝魔界〟の住民はが多いそうだから。


 しかし、こっちはまだまだ打つ手を考えていたというのに……張り合いがない。


「……『』、か……なるほど……!」


 納得と諦観が綯い交ぜになったような表情を浮かべる霊騎士デュラハンにダメ押しの一太刀を浴びせ、私は崩れ落ちる彼の脇をスルリと抜けてレティシアに踊りかかった。


 試合場の場外ぎりぎりのラインで踏ん張ってどうにか姿勢を整え直したレティシアが私を迎え撃たんと剣と杖を構える。しかし、その構えの拙さからして分かるように彼女の技量は私に遠く及ばない。


「押し留めろ――【魔力弾バレット】!」


 それでも怯まず魔法を打ってくるのは良い。とても見込みがあると思う。身のこなしは微妙だけど、このまま研鑽を積めばいつか私程度なら追い越してしまうんじゃないか? 霊騎士デュラハンにおんぶにだっこで勝ち上がってきた訳ではないことを伺わせる素晴らしい対応速度だった。


(けれど――今は私の方が上よ)


 ちょっとした足運びで魔法の狙いを外し、解放バーストで距離を詰めて剣を振るう。レティシアは防御姿勢を取ったが、私の剣はその防御を絡め取るように彼女のアニマを引き裂いた。


「逆袈裟」


 この時、解放バーストの勢い余って場外にまで出てしまったが何も問題はない。既に、勝負は決しているからだ。


 ――斬った。


 その確信に遅れて事実が伴う。背後でドサリとレティシアが倒れる音が聞こえたかと思うと、どこからともなく歓声がぶちあがった。


「勝者――リン!」


 堂々と響き渡る審判の勝ち名乗りを聞きながら、私は観客席最上段で不敵な笑みを浮かべる王へ向けて、慇懃無礼なほどにゆっくりと立礼を捧げた。





 選手入場用の通路に戻り、一息を入れる。


「ふぅー……ね、勝ったでしょ」

「そりゃあな、オレ様も付いてることだし。だが、それも絶対では――」

「――分かってるっての。それでも、私は勝つのよ」


 覚悟や心構えの領域なのだが、どうもその辺がマネには感覚的に通じない。どう説明したものかとぼんやり考えていると、前方から他国の学院制服を着た女性がやってきた。


「随分と自信過剰じゃあないか、リン」


 会話を聞かれていたのか、嫌味たっぷりの台詞を言われてしまい、ちと恥ずかしい。


「アンタ……スタテイラ、だっけ?」


 イリュリア王国の南の隣国、アルゲニア王国の剣術部門代表選手だ。私と同じ三年生で、前回の大魔法祭フェストゥムでは一回戦で彼女と当たった。言うまでもなく、勝ったのは私だ。


 この選手入場用の通路に居るということは、彼女はこれから試合に出場するところなのだろう。だから、そんな彼女のために私は道を開けてやったが、スタテイラは試合場へは向かわずその場に留まる姿勢を見せた。


「……なに? なんか私に用でもあるの?」

「いや、黙っておくのはフェアじゃあない……と思ってね」

「はあ?」


 くつくつと忍び笑いを漏らしながら、スタテイラはピッと後方を指差した。


「お前の控室にが入り込んだようだぞ」

「何ですって……?」


 選手の控室は、国ごとに離された部屋を使っている。過去、参加国同士の確執などによりトラブルが発生した為、このような処置が取られている。その上、私は前回の優勝者かつ開催地ホームの選手ということもあって中々に好待遇を受けており、グレードの高い個室を与えられていた。


 警備の者もいるので、そういう嫌がらせが発生する可能性は低く見ていたのだが……よもやよもやだ。


「……そう、知らせてくれてありがとう。私、次の試合までは時間があるから観戦にでも行こうと思ってたところなの。早めに知れて助かったわ」

「ふんっ……」


 素直に礼を言うと、なぜかスタテイラは急に不機嫌になった。


「私がその下手人だとは考えなかったのか?」

「そうなの?」


 暗に「違うでしょう?」と聞くとスタテイラはますます不機嫌になる。


(気難しっ!)


 まあ、スタテイラの気性はどうでもいい。それより、どれだけ荒らされたかを確認しに行かなければ。そう思って私が歩みを再開させ、スタテイラと擦れ違った時、彼女がこう呟いた。


「――勝つのは私だ」


 驚いて振り向くと、彼女もまた歩き出しており、既に声をかけるのを戸惑うほどに遠ざかっていた。


(なるほど、私への対抗心が根底にあったのね)


 そういう負けん気は好ましく思う。しかし――。


「イキの良い奴がいるなぁ。こりゃ強敵登場なんじゃねえか?」

「ん、どういう意味だ?」

「まぁ……今は控室に戻りましょ」


 マネの質問には答えず、私は足早に控室へ向かった。


 近付くにつれ、がやがやとした喧騒が聞こえてくるようになり、何事かと思えば私の控室の前に人だかりが出来ていた。


 その中に意外な顔があった。彼女――『聖歌隊ミスティカ』のナタリーさんの方も私に気付き、人だかりから抜け出てくる。


「あら、嬢ちゃんじゃないか」

「……また、顔を合わせてしまいましたね。ナタリーさん」


 別れ際、もう顔を合わせることがないよう祈ったというのに、ものの一週間で再会してしまった。向こうもそれを覚えていたのか、気恥ずかしそうに笑った。


「はっはっは! 長い人生、そういうこともある!」


 人だかりの向こうに見える控室の中では、私の荷物が散乱していた。魔法的な気配はないので、物理的な手段で撒き散らしただけだろう。


 ただ、そのどこにもアメ玉が見当たらない。持ち去られたのだろうか?


「しっかし、災難だったねぇ。控室を荒らされるなんて」

「あー、まあ、大丈夫ですよ。代えのきかないようなものはなかったと思いますので。それより、ナタリーさんはどうしてここに? この前の口振りだと、私と顔を合わせるかもしれないベレニケへ来る用事があったようには思えなかったのですが……」

「ご明察。……いやぁ、大したことじゃないよ。ここに来る筈だった同僚が体調を崩しちまって、人手が足りなくなっちまったんだ。それで、ちょうど暇してたアタシが代わりに引っ張り出されてきたって訳さ」


 ナタリーさんはうんざりした表情で肩をすくめた。その仕草や表情は、どこかか嘘っぽく見えた。


 この時、ナタリーさんが腕を挙げたことで、その右手に収まるものに眼が行った。見たことのない小型の魔道具アーティファクトだ。懐中時計のようなサイズ感で、中心にはコンパスの針のような棒が何かを探るように絶えず揺れ動いている。


「ナタリーさん、それは?」

「これかい? 異端のケダモノを炙り出す、さしずめさね。月を蝕むものリクィヤレハの放つ魔力は、魔法使いウィザードのそれとはかなり異なることは知っているだろう?」

「じゃあ、それは『魔力偏差検出器バリオメーター』の新型なんですか。今はこんなに小型化しているんですね」

「例のさまの作品じゃなく、どこぞの無名技師が作った廉価版だがね。この小ささと携行性だけは評価してもいい」


 すると、神の目とやらがチリチリと音を鳴らして反応をし始めた。そして、針がゆっくりと私の方を指し示す。偶然だろうが、なんだか私が月を蝕むものリクィヤレハだと言われているようで決まりが悪い。


「……この闘技場にも紛れ込んでいるようですね」

「そうだ、控室を荒らしたのもケダモノの仕業と見ているが……これが中々捕まらない。嬢ちゃん、不安かい? 話は聞いてるよ。〝狂王〟を相手にあんな大見得をきったんだ、これぐらいの妨害は覚悟の上だろう?」

「いえ、その時は全然なにも考えてませんでした。――しかし、問題ありません。どのような妨害を受けようと私は勝ちますよ」

「へぇ……大した自信だ」


 ナタリーさんは眼を細めた。その眼に宿るは、猜疑の光。


(もしかして……私、疑われている?)


 確かに月を蝕むものリクィヤレハとは妙な縁がある。その上、淀みなく質問に答えてしまったものだから、私が民宗派とグルでやった自作自演だから怖がっていないとでも勘違いされてしまったのだろうか。


 実際に代えのきかないものはなかったのだが、さして動揺していなかったのも悪材料になってしまったか。これは早めに訂正しておかなくては。


「自信ではなく、決意です。私には才能がある。その才能が、私の敗北を許さないのです」

「……いやぁね、嬢ちゃんを疑ってる訳じゃないんだよ。ただ、やっぱり一人だと襲われる危険もあるだろう? 通常の警備じゃ不十分なことは神の目に反応があることを見ても明らかだ。嬢ちゃんは大事な出場選手なんだし、次の試合までアタシが護衛しよう」


 それで疑いが晴れるのなら、と私がその申し出を受け入れようとした時、ナタリーさんの背後から新たに祭服を着た男性が現れた。


「これこれ、ナタリー審問官。その辺でお止めなさい」

「ラ、ラビブ神父様!」


 ラビブ神父? 聞いたことのない名前だが、神父というのは一介の審問官よりは偉いのだろうか。ナタリーさんは異様に畏まった態度になっていた。


「見に来て、おられたのですか」

「ええ、まあ。それよりなんです? 試合前の選手に迷惑をかけて。疑うのは大魔法祭フェストゥムが終わった後でもよろしい!」

「あ、ちょっと……」


 ラビブ神父は、戸惑うナタリーさんの腕を強引に引っ張る。そして、去り際にお茶目なウィンクを残し、二人は角の向こうへ消えていった。


 誰だか知らないが助かった。国教会の神父ということは私と同じ王党派だろうし、気を利かせてくれたのだろうか。


 ほっとしたのも束の間、今度はまた別の人物が私をお呼びになる。


「リン君!」


 人だかりを割って控室の中から現れたのは、高等部の学院制服に身を包んだだ。


「落ち着いて聞いてくれ……アメ玉が全部なくなっている!」

「はあ、ヘレナにでも買い付けに行かせなさい」


 周回遅れだ。そんなことにはナタリーさんと会話している時にとっくに気付いている。というか、私より落ち着くべきはベンの方だろう。取り敢えず、ハンカチを渡してその滝のような汗を拭かせた。


「――みんな聞いて、犯人は『聖歌隊ミスティカ』が捜索してくれてるそうよ! はい、役に立たない野次馬は散った散った!」


 私は邪魔な人だかりを解散させて控室に入り、床に散乱するものの中から使えそうなものを拾って状態を確かめる。


「ふーん、置いといたアメ玉が全部綺麗になくなってるわね。犯人は私のことをよく知ってるみたい」

「どうして、そう冷静なんだ! アメには予備があるってのかい!?」

「いえ、控室に置いといたのがその予備全部だったわ。今あるのは緊急時用にこっそり隠し持ってた五コだけよ」


 そう言って、私は学院制服を改造して増設したポケットからアメ玉を見せる。これを試合で使うつもりはなかった。それは流石にズルだと思う。しかし、通路などでの嫌がらせや襲撃を警戒して隠し持っていた。


「五コ!? たったそれだけかい!? 頼むから、もっと焦ってくれないか!」

「おい、伊達男。コイツには何言ったって無駄だぜ。もうさんざオレ様が言ってんのに聞かねえんだからよォ」


 煩い外野の声を無視して、手早く荷物の整理を終える。どうやら、無くなっているものはアメ玉の予備だけで、他のものは散らかされているだけのようだ。一部のものは破損していたが、それも使用に問題ない範囲のものばかりである。


(狙いは最初からアメ一点……)


 計画的な犯行なのは確かだ。しかし、単純に諸侯派あるいは諸侯民宗派の犯行として良いものか。私はそこのところが引っかかっていた。どうも最近、私には敵が多いみたいだから。


「――ともかく! アメ玉の調達は僕に任せてくれ。ヘレナ君と相談して、集められるだけ集めてこよう。君は何も心配することはないからね」

「へえ。で、その集めたアメはどこに置いとくの?」

「考えたけど……やはり、この控室に置いておくしかないだろうね。立地的に一番守りやすい控室がここなんだ。ここで駄目なら他でも駄目さ。一度抜かれた警備に関しては僕が守ることでカバーする」

「そりゃどうも。良いんじゃない? そんな感じで」


 ベンがここを守ってくれるということなので、私は纏めた荷物を再度、その場に置き直して踵を返した。


「じゃ、私は次の試合まで時間あるし、観客席にでも行って試合観戦と洒落込んでくるわ」

「……分かったよ。大丈夫なんだね? リン」

「ええ。そういうアンタも、後は任せたわよ? ベン」


 ようやくベンも落ち着きを取り戻したようだったので、私は彼を信頼してその場を後にした。


 全く、心配性な奴だ。そういうのはポーラにでもしてやればいいのに。


 歓声轟く観客席に上がると、今まさにもっとも手前に見える試合場で剣術の試合が決着するところだった。


「It's so beautiful……驚いた。神聖エトルリアのリウィアが負けたわ」


 たった今、剣術部門の優勝候補であり、前回の大魔法祭フェストゥムでは決勝で鎬を削った神聖エトルリア帝国のリウィアが負けた。


 それも完膚なきまでに、……。


 リウィアだって決して弱くはない筈なのに、倒れたリウィアに一瞥もせず退場してゆく勝者の後ろ姿には余裕すら感じられた。


 勝ったのはパルティア王国のファラフナーズ。三年生だが、これが初出場。


 使い魔メイトの力で一気に勝ってきたような私やレティシアと違い、着実に地力を付けて勝ち上がって来たことが伺える戦いだった。使い魔メイトとの連携、太刀筋、魔力操作技術、魔法構築速度……全てが高水準。


 他の実力者――例えば〝残雪〟の二つ名を冠するグィネヴィアや〝剛拳〟のロクサーヌのような派手な存在感こそないものの、既に周囲の見る目ある何人かはファラフナーズの技量の高さに気付いた様子だ。


「決勝の相手はファラフナーズで決まりね」

「その前に準決勝の心配は良いのか? ほら、さっきのスタテイラとか!」

「良い。それより、あっちでやってる槍術の試合でも見ましょ。ほら、シンシアが頑張ってるわよ」


 シンシアは、強い=偉いと短絡的に信奉する絶望的に頭の足りない動物的な奴だが、こと戦闘に際してその勘は侮れない。今も使い魔メイト霊猪ゼーリムニルと打ち合わせなんてしていないだろう本能的な連携をこなし、自由奔放な動きで対戦相手を翻弄している。たぶん、この試合は勝つだろう。


「シンシアだぁ? あいつの戦いなんていつでも見れんだろ。どうせ勝つしよぉ。それよか、今は剣術の方を見とけって。スタテイラがなんか変なことやってるぜ」

「変なこと?」


 マネの言葉に興味を惹かれて、しぶしぶ一番遠くの試合場でやっている剣術の試合の方に目を凝らすと、確かにスタテイラはをしていた。


「へえ……じゃあ、準決で当たるのはスタテイラの方かもね」

「だろ? 見といた方が良いぜ」

「いえ、その必要はないわ」


 確かに想像とは少し違った成長をしていた。しかし、それは私に何か特別な感情を抱かせるほどのものではなかった。大体の動きは既に前日の練習時に見切っている。


 スタテイラは、去年より弱くなっている。

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