第127話

無事に(?)試食会を終えた私は、魚料理の改善に取り組んでいた。因みに陛下の試食会までは後、5日となっている。


この5日間は、マナーの練習もダンスの授業もお休みにしてもらった。口実に休んだとも言うが。とりあえず、魚料理の練習を行う予定だ。5日間2食続けて魚料理は辛いので、片方を隊長さんにお願いしたら爽やかな笑顔で引き受けてくれた。


有り難い話である。駄目なら護衛騎士さんの誰かに、お願いしようと思っていたくらいだ。その話を隊長さんにしたら、ものすごーく真面目な顔で止めてください、と言われた。




なぜだろう?


隊長さんは、そんなに試食がしたいわけ?食事に困ってる人ではないと思うんだけど。私は隊長さんの試食への情熱を感じて驚きを隠せなかったが、何はともあれ試食をお願いできるなら、問題ないのでそのままにしておく。




「姫様。試食の結果に満足できなかったのですか?どれも美味しかったと思うのですが?」


「みんながそう言ってくれるのは嬉しいんだけど、魚料理がちょっとね。私はもともと魚料理が得意じゃないのよ。だからなおさら気になって」


「姫様。あの出来で苦手と仰るんですか?他の料理人は悲しくなると思いますよ」


「お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいかも」




あからさまな隊長さんのよいしょに苦笑いが出る。


「お世辞ですか?姫様はこちらで食べていたお食事は気に入っていなかったんですよね?」


「そうだけど。味は好みだから。単に私に合わなかっただけだと思うんだけど、基本的に私はなんでもおいしい人だもの」


「なんでもおいしい人は、味が気に入らないと、試作のやり直しはしないと思いますが?」


「そうだけど、これは陛下に、人に出すものだから。なるべく美味しいものを食べてほしいと思うでしょう?それだけよ?」


「まあ、そうかもしれませんけど」


隊長さんは私の意見が腑に落ちないようだが、これは個人の感覚なのでなんともできない事だと思っている。


元日本人の私としては、おもてなしに手抜きは出来ないのだ。できるだけ美味しいものを出したいし、満足してもらいたいと思っている。


その結果が今の時間になっていた。




今試作しているのは白身魚のバター焼きと、揚げ物の二種類だ。


思い切って魚料理そのものを見直すことにした。煮魚だけに拘る必要はないと気が付いたからだ。


どうも苦手意識が先に立って、考えが固まってしまったように思う。好きな料理と、得意な料理は違うこともある。


私たちの前には種類としては2種類、作ったのは4種類だ。


バター焼きはキノコなども一緒に炒めたものと白身魚のバター焼きだけのものと2種類作ってみた。食感に変化があって良いと思ったのだ。


揚げ物はパン粉で揚げたものとフリッターの2種類だ。この二つも食感が違うから新しいものとして気に入ってもらえると思ったのだ。


食べ比べを始めることにしたが、隊長さんは役得と思ってくれているのか頬が緩んでいる。部下の騎士さんたちには見せられない姿だ。




「姫様。魚料理と言ったら焼くものだと思っていましたが、揚げたりもするものなのですね」


「そうなの?もしかして、隊長さんは子供時代は魚が嫌いで、あんまり出なかっただけなんじゃない?揚げ物として出されるのはそんなに珍しくないと思うけど?」


「焼いたものはよく出ていましたよ?」


「まあ、焼き物は、焼き加減さえ間違えなければ外さないから、出しやすいのかもね」




そんな話をしながら隊長さんはフリッターを観察している。フォークに刺し、目の前に掲げていた。


大胆にも真ん中に刺している。


割って中を確認する様子は見られなかった。火の通り具合は気にならなかったようだ。火が通っていないという発想はないのかもしれない。いや、隊長さんの事だから火が通ってなくてもそんな料理と済ましてしまうかもしれない。




今度ローストビーフでも作ってみようかな?反応が気になる。真ん中がピンク色のお肉を見るとどんな反応をするのか、私は今から楽しみになっていた。次の食事会のメインがたった今決定したことを知らない隊長さんはフリッターをそのまま口にしていた。


ケチャップはないので、トマトソースと塩を用意した。ケチャップの試作は間に合わなかったのでトマトソースで代用する。塩は初めてのチャレンジだ。ただ、大体の料理は塩だけでも美味しいことがあるので塩頼みだ。




因みにフリッターを作るのはこちらでは初めてなので出来上がりが気にかかる。今まではベーキングパウダーを使って簡単に作っていたが、今はないので基本に忠実に卵白を泡立てなければならない。


今の私では卵白を泡立てるのは大変な作業になる。


今回は私の後ろに立っていた隊長さんに黙ってボールと泡だて器を渡す。隊長さんは二つを抱えながら私の意図がわからないのだろうキョトンとしていた。言葉に直すなら、ナニコレ?だろうか。


私は笑いをかみ殺しながら泡だて器の使い方を教えることにした。


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