第75話 閑話 陛下の野望

面白い姫がいたものだ。




「宰相。あの姫は本当に小国の姫か?」


「はい。間違いございません。同行した者も確認をしていますし、私の顔見知りでもありましたので」


「そうか… 間違いないか、ああもはっきり、私に対して話せる者がいたとはな… 新鮮だ」


「面白がられても困りますよ。相手がいくら子供でも」


「許されることでは無い、そう言いたいのか?」


「ギリギリでしょうか?」


「それも計算のうちだろう。子供だから? よく言えたものだ」


姫との会話を思い出すと、自然と笑いが出てくる。




1日を振り返ると、怒りと驚きと呆れが同居する、珍しい1日だった。


こんなに感情を動かされた事も、久しぶりな気がする。




「宰相。あの者たちはどうする?」


「裁判をされるのでは?」


「そこは約束したからな。そうではない。他の関与の者たちを」


「命じております。直ぐに見つかるでしょう。」


「国を大きくするのも考えものだな。私の失態でもあるが、足元を疎かにしすぎたようだ」




大きくした国は、大きくなり過ぎたようだ。国を維持するため、周囲から反乱を出さないために、そちらに意識を集中しすぎたようだ。


足元にネズミを飼っていたとは、我ながら情けない。




「申し訳ございません。私の管理不足です」


「そなたの失敗は私のものでもある。小さすぎて気が付かなかったのもあるだろうが、小さいうちに芽をつまないと、大きくなるからな。後が面倒だろう」


「はい」


宰相もそこは同意見なのか何も言わなかった。だが別な事が気になるのだろう




「陛下、先程の殿下の『嫁』とは、本気ですか?」


「ああ、姫にも言ったが、真面目な話だ。姫の10歳の誕生日には、姫の国に祝いの使者を立てろ。そのとき、あちらに打診しよう。」


「そこまでですか?姫様の誕生日は、直ぐですよ?半年ほど後です」


「知っている。他に取られる前にな、押さえておこうと思う。」


「メリットは?我が国へのメリットが少ない、と思いますが。」


「あの姫を迎え入れるだけで大きなメリットだろう。」




宰相は身を反らせ息を呑む




「そこまで買ってらっしゃると?」


「話をして気がつかなかったか?あの姫は補佐の才がある。国を支える逸材になるだろう。そう思わないか?」




私の問いかけに、宰相は答えなかった。


考えがまとまらないのか?


認めたくないのか




「姫が成人しているか、後2〜3年ほどで成人なら…それか私がもう少し若ければなぁ。私の嫁に貰うんだが… 9歳ではな…流石に無理がある。」


「陛下。いくら妃殿下を亡くされているとはいえ、不謹慎です」


宰相の咎める鋭い声がした。


「私は本気だぞ?」




「… 私には不安しかありませんが」


「宰相。姫は学校に行ってない。図書館通いをしていたとしても、あれだけを独学で学べるのだ。教師が付けば、どれほどのものになるか。楽しみだと思わないか?」




宰相は用心深い。




「もしかしたら、まやかしかもしれませんよ。後から仮面が外れるかもしれません。打診はもう少し、様子を見てからでも良いのでは?姫様は、我が国に滞在しているのです。他の国との接触は少ないでしょう。それに陛下の『嫁』発言も、噂として流しておきます。それを聞いても尚、婚約の打診をすることができる国は、ないでしょう。そこで妥協していただけませんか?」


「時期尚早か…」


「はい、様子を見るべきです」


「しかしなぁ」


「陛下」




こうやって、宰相の手により姫様のスローライフは守られた。


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