第12話
「陛下、ご無沙汰しております。本日はお時間を頂けますこと、望外の喜びでございます」
私はスカートの裾をつまみ挨拶をする。
この挨拶は定型文みたいなものだ。
「久しぶりだな姫。なかなか時間ができず申し訳ない」
「とんでもございません。陛下がお忙しいのは存じております。わたくしのことを気にかけていただいて、嬉しく思っております」
陛下からも挨拶の定型文が降りてくる。
私も定型文で返す。
このやりとりはお約束みたいなものだ。
本気かどうかはわからないが、人質でもないがしろにはしてませんよ〜
アピールだ、と思っている。
場所は謁見の間、ではなく、陛下のサロンだ。
一応は私的な空間である。
陛下と初めて会ったのは謁見の間だが、それから後はこのサロンだ。
なんでかな〜?
私一人のために、謁見の間を使うのは面倒だからだろうか?
私は一人胸の内で首を捻る。
私の胸の内を知らない陛下は私に椅子を勧めて下さった。
「姫、座りなさい」
穏やかな声と表情だ。
笑みさえ浮かべている。
こうして穏やかな表情を見ていると、この大陸の支配者でいくつもの地域と周辺国を支配しているような人には思えない。
陛下の国はこの大陸の3分の1を支配している。
事実上、この大陸の支配者と言っても過言ではないだろう。
支配に入ってない国は小さな国や支配しても旨味のない国か、の、どちらかだ。
私の国は属国にはなってはいないが、旨味のない国ではなく、逆らうことのできない程の小さな国だから、見逃されているようなものである。
何がきっかけで属国になるかわからない。
同盟国、友好国とは言われているし、その扱いを受けてはいるが、実際はギリギリのところだ。
私が何か失敗をしたら、それを理由に属国化を求められてもおかしくはない。
人質(名目は留学)を拒否してもだめ、失敗してもだめ。
私はまだ子供だから多少のお目溢しもあるだろうけど、それがいつまで続くかはわからないし、心配の種は尽きない。
この国と私の国とはそんな関係だ。
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