第76話 死ぬ前のそれってこと?

 硬い。

 ドラゴンの鱗は今まで殴ったものの中でも特別に硬い。

 拳が痛い。

 でも……


「この程度かぁ、ビビッて損したわっ!!」


 ――めき。バリバリバリ、バキ。


 殴った箇所の鱗が割れる。

 そしてそれに引っ張られるように周りの鱗も衝撃で剥がれていく。

 梱包材のプチプチを潰すような気持ちよさを感じていると、次はドラゴンの頭の骨が割れたらしい。


「が、あああっ――」

「させねえよ!」


 それでもまだ息のあるドラゴンは口を少し開きそこに溜まった真っ赤なものを吐き出そうとした。

 俺はそれを阻止する為にドラゴンの下顎を蹴り飛ばして無理やり閉じさせた。


 するとドラゴンは白目をひん剥いて腹を一気に膨れさせた。


 ――パン。


 腹の一部が弾けてそれが腹に沿ってドロドロと溢れだすと、ドラゴンの体は腹部分から燃え上がりゆっくりと地面に落ちていく。


「大した防御力だったけど、結果自滅なんてあっけないな。……ってこれヤバくないか?」


 ドラゴンの落ちていく先には細江君達。

 このままだと直撃だ。


「くそっ! 何とかこいつを人のいないところに移動させないと……」


 先に落下し始めた俺は落下するドラゴンよりも少し下の場所にいる。

 

 もう一度ドラゴンで近づくか? いや、それじゃあ遅い。この状態からこいつを何とかしないと。

 でも遠距離の攻撃って【ファイアボール】位しか……。


「そうだ。あれなら……」


 最下層での橘伸二との1戦が頭を過る。

 でも、それを使ったところであの状態のドラゴンに触れるのは……でも、迷ってる暇ないか。


「……【ファイアボール】」

『【ファイアボール】のLVが上がりました。威力アップ、溜めの短縮がされました』


 俺はドラゴンのいる場所を確認すると、それと反対方向に手を向けて力を溜める。

 有難いことにここでスキルのレベルアップを知らせるアナウンスが流れた。


 なんだかんだで俺って運がいいのかも。


「ありったけでぶつかってやるぜ!! 細江君! みんな! ちょっとだけ耐えてくれ!!」


 俺はあっという間に最大まで力を溜めると、手からそれを放つ。

 放った先には誰もいないけど、相当な威力になってるだろうからちょっと被害が出るかもしれない。

 ハゲの1つや2つは覚悟してもらえるといいんだけ――


 ――どごおおおおおおおおおおおおおおおん!!


 ……探索者の何人か飛んでったか。でも、逆に今の衝撃で気絶から回復? したみたいだし、OKだろ?

 それに今の爆風と反動で俺の身体は吹っ飛ばされてドラゴンに食い込みながら天井に向かってる。

 後はドラゴンを天井にめり込ませれば完璧……あれ? 何かこいつまだ膨らんでないか?


「「神様ぁあっ!!」」

「近づこうとしちゃ駄目よっ!!」


 悲痛な声を上げながら涙を見せるコボと細江君。

 2人を引き留める男性。

 まるで感動的な映画のワンシーン。


 誰かが犠牲になるのを見送るような……そんな壮大でありきたりな。


「犠牲? ……それってもしかして俺? ――」

「がああああああああああああああああああああああ!!」


 ドラゴンの鳴き声と共に目の前が赤く染まる。

 背中に感じる痛みと熱さ。

 なんだか思考が無限に出来るような感覚。心なしか動かしている手足もゆっくりと……。


 まさか……死ぬ前のそれなのか?

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る