第17話 お前らおっさんにそんな事して何が楽しいんだよ!

 【NO4】。

 俺はコボの紹介などを済ませた後、ダンジョンモールにあるこの【NO4】という看板の前までやって来ていた。


 ゴブリンが現れるこのダンジョンは、薄暗い上に得られるものが少なく、危険度は高い。

 どこか異臭さえ漂う事からドМ向けダンジョン、通称『マゾダン』。

 髭ダ●の勢いに乗っかった様な名前で探索者の間で愛され? ている。


 仕事でここ『マゾダン』に侵入する人達の顔はどこか暗く見えてしまうらしいのだが……。



 やっと探索者活動出来るぜぇええええええっ!!

 手加減も容赦もねえっ!!

 ただただぶっ殺してやんよおっ!!



 俺、Fランク探索者32歳は今までにない位のテンションを保持していた。


 やっば、なんかにやけが止まらん。


「おい、あの人……」

「ちょっとヤバいな」


 時刻は朝10時。

 人が増えだすこの時間に『マゾダン』の前でニヤニヤしてたら、マジもんのドМを疑う視線が……。


「と、とっとと進むか」


 あの後出勤したばっかりの小鳥遊君に直接養殖場の護衛を任せる事も出来たし、今日は丸1日探索が出来る。


 でも、ここがどれだけの深さまであるのかは知らないし、取り敢えずは急いだほうがいい。


 べ、別に恥ずかしいからってダンジョンに逃げ込むわけじゃないんだからなっ――


「な、なぁ、あそこって確か……」

「ああ。この間、ゴブリンが地上に――」


 俺を不審な目で見るのとは別に、なにかダンジョンの噂みたいなものも微かに聞こえたけど……。


 ステータス1000倍の本領を見せてやるぜ。

 【NO4】最速RTAで噂も、俺をドМだと思った奴もゴブリンも全部ぶっ飛ばす。


「っし、行くか」


 俺は軽く腕を回すと、久しぶりに【NO4】に足を踏み入れたのだっ――



 ピコンッ!



 意気揚々とダンジョンに侵入しようとすると水を差す様にスマホがアプリ内のメッセージを知らせてくれた。


 もしかして景さんが俺の実を案じて――


 ……メッセージを送ってきた相手は小鳥遊君。



 件名は『そういえば』



 ……申し訳ないけど、ここは既読スルーで。

 ほらさ、士気下がると良くないじゃん。

 勢いって大事じゃん。

 特にこの歳になってくると。


 ……別に面倒なわけじゃないんだよ、本当だよ。



 べちゃっ! ぎゅちゅっ!


「えーっとこれで150――。いや、ダブルだから151匹……。あーっポ●モンに並んじゃったかぁ」


 ダンジョンに突っ込んでから1時間経ってない位かな、前に来たときは割とサクサク進めたんだけど……。


「ぴぎゃっ!」

「ぎゅぐああっ!」

「ゴキブリより湧くじゃんこいつらっ」


 尋常じゃない程、モンスター湧いてんだけど。


 純度低いけど魔石は凄い量集まるし、ゴブリンの目もどんどん溜まってく。


 コボルトと同じでワンパンは出来るけど、流石に鬱陶しいわ。


「ぴいぎゃっ!」



 ――ひゅんっ!



 特に鬱陶しいのはこの火のついた矢。


 弓も火も防御力が上回ってるからい痛くも痒くもないんだけど、掠ると服に燃え移るのがヤバすぎる。


 一応ダンジョン探索はやっすい2枚で1980円の地味なスポーツ用シャツだけどさぁ。



 ――ひゅんっ!



 ち、また。


 こっちも遠距離系の攻撃を持ってればいいんだけど、魔法とかどうやって覚えられるのかは分からないし、こんな事だったらそういった事を小鳥遊君に聞いておくんだった。


「ぴぎゅっ――」

「そっちかっ!」


 俺はもう弓を躱す事を諦めて、ゴブリンのいるところに向かって突っ込んだ。


 もう何本でも打ち込んで来いっ!

 こっちは替えのズボンもシャツもパンツも常備してんだよっ!!


 ――ひゅんっ!


「痛くねえよ、そんなの――」


 ――ひゅんっ! ひゅんっ!


 ゴブリンとの間合いを詰めると、他の所からも火の矢が飛び始めた。


 まあ、1本が2本になった所で――


「……お前らそれは卑怯じゃね?」


 俺がとうとう弓を持つゴブリンの1匹に手をかけた時だった。


 薄暗い洞窟のようなダンジョンが急に明るく、眩しいくらいに変わり……。



「1、10、100、……流石に1000はいないよね?」



 サッカーのスタジアムのスタンドの様に俺の頭上には何層にも連なった足場とそれを覆い尽くすゴブリンの姿があった。


 そして俺がその光景に圧倒されていると、他より少しだけ大きなゴブリンが右手を高々と振り上げ、下ろした。



 ひゅんっ!ひゅんひゅんひゅんっ! ひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんひゅんっ!



 矢の放たれる音が合唱の様に重なり合い、俺を殺そうと襲いかかってくる。


 避けるのは諦めたとは言ったけど、これじゃあ……。



「――お前ら、32歳のおっさんの服を剥ぎ取って何が楽しいんだよっ!」



 服が燃え尽きた俺は全裸。

 良かった、ここが人気のないダンジョンで。


 こんなのもし、他の人に見られてたら絶対写真とか動画とか撮られて『ダンジョンに全裸の変態おっさんが』とかいうタイトルで、SNSにアップロードされて――


『ダンジョン内にて赤っ恥をかかされました。赤、火、炎、連想完了。特殊条件達成により炎の操作が可能になりました。最下級魔法【ファイアボール】を習得しました』


 ……なるほど、魔法ってのはこうやって覚える事も出来るのか。


 ふーん。

 絶対このアナウンス面白がってるよね。


「まぁいいや。お前らに食らわせてやるよ。俺の炎。俺の赤っ恥の……真っ赤な真っ赤な炎をよおっ!!」

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