第33話
「ちょっと待て!!!!!」
という男の声が。振り返ると、そこそこ良さそうな装備を身に着けた剣士のおっさんだった。
「誰だ?」
「誰だ?じゃねえよ。なんでお前らそこを飛び越えようとしているんだ!」
「そりゃあこの先に進むためだけど」
「死ぬ気かお前ら!!!この先は古龍の住処なんだぞ!!」
どうやらこの男は俺たちを心配して声を掛けてくれたらしい。
「そうなんですか、良い情報を聞きました。お陰で対策を考えられます」
「対策とかそんな簡単な事で倒せる敵じゃねえよ!攻撃力は並の龍と変わりねえが、防御が硬くて攻撃が通らねえんだよ!みすみす死人を作り出すわけにはいかねえ!ほら帰るぞ!」
男は強引に俺たちの手を取り、街へ帰らせようとしてくる。が、
「防御が通らないくらい硬いだけならいけるよね、AIM君?」
「ああ、多分瞬殺だろうな。よし、行くぞ」
俺達は勝ちを確信したので、男の手を引き離し、柵を飛び越えた。
「待て、そこまで行きたいなら俺も連れていけ。見ていられねえ」
そうすると何故か男まで付いてきた。
「大丈夫なのか?弱いなら足を引っ張るだけだぞ」
「弱い?俺はリンドブルグ最強のSランク冒険者、ライオネル・ギブソンだ!」
と自信満々に名乗るおっさん。意外と凄い奴だったんだな。装備は良いけど普通のおっさんだったから大したことないと思っていた。
「思っていたより凄いんだね」
そして涼が俺と同じ感想を包み隠さずに言った。
「思ったよりって…… やっぱり俺にはオーラが無いのか……」
流石に怒るかと思ったが、おっさんは肩を落として凹んでいた。どうやら今までも似たような事を言われ続けてきたのだろう。
「まあまあ、ギブソンさん。カッコいい仮面とか付けたら只者じゃない感出て良いんじゃない?」
見かねたリンネがフォローに回り、そんな提案をしていた。
「やっぱり顔か……顔なのか……」
しかしそこが一番気にしていた所だったようで逆効果だった。めんどくさいなこのおっさん。
「とりあえず行くぞ」
俺達の目的はおっさんを慰めることではなく次の階層へ向かうことなので無視して先に向かおう。この手のおっさんは勝手に立ち直るだろうし。
「待ってくれ!」
ほら来た。
それから俺たちは塔のある方向へと真っ直ぐに歩き続けた。
ついでにモンスターでも狩ろうかと思ったが、古龍のテリトリーだからか一体も見当たらなかった。
「お前らここからは慎重に進んでくれ。まもなく古龍に遭遇する」
これまでは凹んだりツッコんだりとただの騒がしいおっさんだったが、敵を目前にして真剣な表情に変わった。
いつもこれならSランク冒険者としてちゃんと尊敬されるだろと本人にツッコミたい気もあったが、そういう場面じゃないので自制した。
「どの辺に居るんだ?」
「あのあたりにある広間の中央だ」
俺がおっさんに聞くと、おっさんは塔の根元を指差した。
どうやらその古龍はこの階層のボスのような存在らしい。
これまで強敵らしい強敵が見当たらなかったこのダンジョンだが、ボスとなれば話は別だろう。
俺は気を引き締めた。
「じゃあ作戦を説明するね。まず初手はAIMがブーメランを投げられるだけ投げる。その後、ギブソンさんが正面に立って注意を引いてください。で僕と涼はその隙に両サイドから火力重視で攻撃。その間にAIMは背後に回り込みつつ、出所がバレないように出来るだけ大きな弧線を描くようにして攻撃して」
「「「了解!」」」
ざっくりと打ち合わせを済ませた後、俺たちは塔の中に入った。
中に居た古龍は10mを超えているであろう超巨体で、全身は気品を感じさせるような白色だった。
その古龍が俺達に気付き、地を響かせるような重い咆哮を放つ。
あまりの轟音に一瞬怯まされたが、俺は作戦通り大量にブーメランを投げた。
それは日頃そこら中に居るモンスターの頭や首、心臓といった小さな弱点を狙っている俺にとって容易い事だった。
防御力を自慢とする古龍なだけあって、わざわざ威力の低そうなブーメランを躱したり撃ち落したりせず、その肉体のみで受け止めた。
その結果、音も無くドラゴンは倒れた。自慢の防御力はあくまで外側だけで、中身はそこらの生物と変わらなかったようだ。
「え?え?」
先程まで真剣な表情を見せていたおっさんが、威厳が無いと凹んでいた時以上に間抜けな顔を見せていた。あれ以上って存在するんだな。
「流石AIM君、こういう相手だと最強だね」
「じゃあ素材を適当に回収して、次の層へ行こうよ」
「そうだな」
「なああんたら、一体こいつに何をしたんだ?」
「単に当たり判定を拡大して内臓を破壊しただけだぞ。涼、見せてやってくれ」
「オッケー」
俺の力じゃ死んだ古龍の体にすら傷をつけられないので、涼に頼んで体を開いて内臓を見せてやった。
「もっと分かんねえよ……」
どうやらおっさんは目の前にある現実を理解できないご様子。
それから何回も丁寧に説明してやったが、悩みを解決させることは出来なかったようだ。
まあおっさんは歳だからな。新しい知識を受け入れるのは難しいのだろう。
「終わったよ~!」
そんなことをしているうちに涼が古龍の解体を済ませたらしく、目の前から古龍が完全に消え去っていた。
「ってなわけだ。今回は助かったぞ、おっさん」
「おっさんじゃねえ、俺はまだ28だ。あと俺何かしたか?」
どうやらおっさんはまだおっさんじゃなかったみたいだ。失礼なことをしてしまっていたようだ。
「道案内と古龍の居場所を知らせてくれただろ。それとおっさんって言ってすまなかった」
「別に良いよ。いつも言われていることだしな。で、お前らはこれからどうするんだ?そこまで強くて無名ってことはここらの冒険者でもないんだろ?」
「そうだね。遠くから来たよ。これから龍が居たところの奥に進む予定だよ」
リンネはおっさんが俺たちの世界を知らないこと。そして塔の中に居ることを自覚出来ていないことを配慮してそんな答え方をした。
「この先?何かあるのか?」
「ついてくる?」
「ああ。折角だしな」
そして俺たちは4人で次の層へとつながる階段に足を踏み入れた。
おっさんには空中を歩いているように見えるらしく、色々と騒いでいたが軽くスルーした。
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