第25話

 その翌日、


「なあ涼、北海道に行かないか」


 こんな提案をしてみた。


「なんで?」


 四国とか中国地方とかならともかく、北海道は涼の地元だ。


 旅行にしても変だし、昨日頑張ろうと宣言したばっかりだ。


 何を言っているんだという顔をしている。


「A級にさっさと上がってしまうためだ」


「別にここら辺でも良くない?」


「普通ならそうだろうな。ただ、涼は北海道のB級ダンジョンは大体素材集めで回っているんだろ?」


「ああ、なるほど」


「俺が涼に寄生するような状態になるので申し訳なさはあるが、これが最短でA級に上がれる方法だと思う」


 そもそも涼にはA級の実力があるのだ。ならば一早くA級に潜れるようにした方が良いと思う。


 足りないレベルは、涼の案内の最中に見かけた敵を歩きながら倒していけば事足りるはず。


「寄生って……いつもモンスターを倒しているのは君なんだから、そんなことは考える必要は無いよ。それを言うなら私は東京に来てから君に寄生しっぱなしなんだから」


「ありがとう」


「じゃあ善は急げだよ。撮影機材とか諸々を持って飛行機に出発だ!」


 俺たちはダンジョン攻略に必要な最低限の荷物を持って飛行機へと急いだ。


「ついた~!我が地元、北海道!」


 約1時間半程度のフライトで北海道まで辿り着いた。


 前は軽い着替え等しか持ってきていなかったので知らなかったのだが、飛行機に冒険者用の道具を持って行く際は追加料金がかかるらしい。


 言われてみれば、良い道具はその分重量がバカでかくなるし当然といえば当然なのだろうが。


 俺のマジックバッグはまだ大したことは無かったのだが、涼のマジックバッグを運ぶための値段が3万くらいして驚いた。それだけで一人追加で乗れるじゃないかと思ったが、よくよく考えるとあのバッグ人何十人どころの騒ぎじゃないレベルに重いものな。


 寧ろ安いのかもしれない。


「とりあえずレンタカーを借りようか」


「そうだな」


 別に走って移動しても車と遜色ないスピードを出すことは出来るのだが、それでは休まる時が無い。RTAでもしているわけでも無いので今回はレンタカーを利用することに。


「冒険者仕様の車なんてあるんだな」


 こちらもまた、通常料金より高い金を払うことになっていた。


「そりゃそうだよ。マジックバッグなんて普通の車に乗っけていたら穴が開いちゃうし。なんならあの車も冒険者仕様だよ?」


「そんなものもあるんだな」


 初めて知ったぞそんな事。


 このまま知らなかったらいずれ車に穴を開けていただろうな。


 ちゃんと積載量は考えて車は使うことにしよう。


「まあ予算はあるんだから気にせずに行こう」


「そうだな」


 予算は今まで涼との配信で稼いだ投げ銭や広告収入から来ている。


 涼のお陰でかなりの量の投げ銭を頂いているため経費には困らない。


 別に一人でダンジョンに潜っていた時と視聴者数は大差ないのに3倍以上の額が飛び交っていたからな。あれは流石にビビった。


 RTAやった時より貰っていたと判明した時は流石に凹んだ。


 涼の運転の元、一つ目のダンジョンへ向かった。


「すごく綺麗な所だな」


 車での移動中、広大な土地を生かした巨大な花畑や、綺麗な池、美しい滝といった単体で観光地になりそうな場所が複数見られた。


「ここは美瑛町だね。確か日本で最も美しい村って言ってたはず」


「確かに美しい場所が多いな」


 もし冒険者稼業が落ち着き、暇な時間が出来てきたらちゃんと観光の為に訪れてみたいな。


「そしてここがダンジョンです」


 辿り着いたのはそんな特徴的な景色が広がる場所ではなく、針葉樹林が乱立している場所の一角。


 これはこれで自然が綺麗で美しいのだが、先程の景色を思い出すと少し霞んでしまう。


「とりあえず一つ攻略するか」


「そうだね」


 そうして入った美瑛町ダンジョンはそれとは真逆の工業的な雰囲気を感じさせる場所だった。


「中は寧ろ大気汚染地球温暖化上等みたいな場所なんだな」


「そうなんだよね。まあダンジョンと外の関連性はどこも無いし仕方ないよね」




 ダンジョンは外に排気ガスを出すことが無いのは救いだな。


「とりあえず配信を始めるぞ」


「オッケー」


 早くA級になりたいとはいっても、素材は基本ブーメランに使うから配信はしないといけない。


「今日からA級に昇格するまでの間、涼の地元である北海道を拠点にしようと思う」


「私が北海道のB級ダンジョン全てに行ったことがあるからね~」


「最初は美瑛町ダンジョン。外は自然豊かな景色が広がる綺麗な場所だが、第一層はこんな感じで工業といった感じだ。歴史に詳しいわけでは無いが、産業革命とかその辺りをイメージした場所だろうか。もし分かったやつが居るならコメント欄とかに書き込んでみてくれ。読めないけどな」


「第二層以降も面白い所だから楽しみにしていてね!」


 と涼が最後にコメントして、ダンジョン攻略が始まった。


「第一層の敵はアイアンゴーレム。動く鉄の塊だね。胸辺りにあるコアを壊すと倒れるからそこを狙ってね」


「分かった」


「じゃあ着いてきて」


 涼は必要事項だけを伝えて走り出した。俺もそれに合わせてついていく。


 かなりのスピードではあるが、俺の進行速度に合わせてくれているようだ。


 次の層へ向かう階段に辿り着くまで目についたゴーレム全てにブーメランを投げ続けた。


 今回は素材の採取はせず攻略だけに全てを注ぎ込んでいるため、圧倒的なスピードだった。


 結局10分程で第二層へ降りることが出来た。


 第二層になってもやることは変わらず、走りながらひたすらブーメランを投げ続けるだけ。


 それを第5層突破まで繰り返し、ボス部屋である第6層に辿り着いた。


「雑魚敵はAIM君がやってくれたから、ボスは私がやらないとね」


 そう言ってボス部屋に入った瞬間、目にも止まらぬスピードでブーメランを投げ、全てを切り裂いた。


「終了、次!」


 たった1時間ちょっとでクリアし、次のダンジョンへ向かう。


 他のダンジョンも俺たちの敵ではなく、今日一日で5つのダンジョンを踏破してしまった。


 一応北海道であり涼の実家があるのだが、今いる場所から家が遠すぎるのでホテルに泊まることになった。


 2人別々の部屋で取ったのだが、寝るまで暇だということで俺の部屋にやってきていた。


「なあ涼、リンネの配信見ていいか?」


 人が来ているタイミングで見るのは少々失礼なのは分かっているのだが、今回わざわざ北海道に来た理由がこいつなのだ。見ても許されるだろう。


「私も見たかったから良いよ~」


 涼の同意も得たことなのでパソコンを開き、リンネの生放送を見ようとチャンネルを開く。


「配信時間が露骨に減ってるね」


「そうだな」


 涼の言った通り、一日あたりの配信時間が明らかに減っている。ここ一週間位は一日2時間くらいしか配信をしていない。


「何か呟いてないかな、あーなるほど」


 涼は事情を調べるためにスマホを開き、一人で納得していた。


「俺にも見せてくれ」


 リンネは、『流石に毎日十二時間もダンジョンに潜るのは体が持たなかったよ。だからしばらくの間潜る時間を減らします。ごめんね』というツイートを固定していた。


「まあリンネ君も人間だからね。一人で張りつめていたら限界が来るってことかな」


 無茶をしすぎて限界が来てしまったってわけか。ゲームでも毎日12時間し続けるのは辛いしな。運動ならなおさらキツイか。


「だな」


「でも何かあるかもしれないし見てみよう」


「そうだな」


 リンネのチャンネルで一番最新のアーカイブを選び、再生する。


「ここはどこだろう?」


 リンネが居たのは近未来的な都市のような場所だった。しかし人は居るわけも無く、代わりに人型の機械が辺りを闊歩していた。


「分からない。けどC級っぽいかな?」


「そうなのか?」


「うん。素材があまり強そうなものじゃないから」


 と涼が語るが、素材にまともに触れ合っていない俺にはよく分からなかった。


「ってことはあの時見たリンネはC級に上がりたてだったってわけか」


「だろうね」


 あの時は驚きから完全に俺に並んでいる物だと勘違いしていたが、流石にそうだよな。


「ただ、この配信で五個目をクリアしたらしいな」


 アーカイブに対するコメント欄にそんなことが書いてあった。


「そうなんだ。じゃあもうすぐだね」


 後半に差し掛かってくると、レベルもマージンを遥かに超えてくることもあって前半程時間がかからなくなってくる。昇格に必要なダンジョンの数はあと半分でも時間的には4分の1、5分の1位残っているとかそのぐらいだ。


「銃を持ったな。戦闘を始めるようだ」


 リンネは高台に位置取り、魔弾を生成した。


「生成もかなり早いね」


 前リンネが使っていた時とは違い、一瞬で魔弾の生成が終わっていた。どうやら弾のリロードと同時に魔弾を使えるようになっていそうだ。


 敵を見据えたリンネは、銃を何発か撃った。


 その弾丸は真っすぐ標的へと進み、打ち抜いた。


「若干ぶれているようだし追尾を付けているっぽいね」


「そうだな」


 当たってはいるものの、狙う方向は少々ずれていた。確かに以前よりは上手くなっているが、長距離狙撃が可能なレベルではない。そもそも偏差撃ちという概念を理解して無さそうだ。


「何体か倒されたから集まってきているね」


 機械が倒された場所を中心として、10体以上の機械が敵を倒すべく集結している。


「あ、撃った」


 それを確認して撃った弾丸は一体の機械を貫通した。それでも勢いが減衰することなく、周囲の機械に再度進路を変え、進む。


 貫通しては、次の標的を狙う。そんな奇妙な動きを見せた弾丸は、見える限り全ての敵を討伐して動きを止めた。


「俺の討伐スタイルを超えるやり方を作りやがったか」


 遠距離狙撃で弱点を狙い、一撃必殺を目指す俺の戦い方。


 それに加え、一発で同時に複数の攻撃を倒すという進化を見せてきた。


「これは不味いね」


「ああ」


 このままリンネが強くなり続けた場合、俺の必要性が全て無くなってしまう。


 配信を見に来る客が全て奪われるだけではなく、折角着いてきてくれた涼に悪い。


 リンネがA級に上がってくる前に、エイム以外の強みを作らないといけない。

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