第23話
「涼?」
俺は疑惑の視線を涼にぶつける。
「いや、AIM君。私がB級なこと自体は嘘では無いよ。騙していたわけじゃない」
「ならどうして?」
俺の代わりにフレアさんがそう言葉を発した。すると涼はスマホを取り出し、一枚の画像を俺たちに見せた。
「これのためだよ」
その写真は夥しい数のブーメランだった。
「いやあ、新しいブーメランを作りたすぎてさ、ダンジョンのボスを一切攻略していなかったんだよ。いい感じに素材が集まったら即帰宅って感じで。北海道には何故かA級以上のダンジョンが無かったし、これ以上特に頑張って上げる意味も無かったしね」
何とも馬鹿らしい理由だった。確かにボス部屋の敵は採集不可だものな。手続きの時間を考えるのであればボスを無視して上に戻った方が多くの素材を手に入れられるか。
「ははははははは」
それを聞いたフレアさんが大爆笑していた。
「だから東京にやってきてからAIM君と一緒にダンジョン攻略を始めるようになったわけか」
「そういうこと。東京近辺はA級どころかS級もあるしね」
A級は47都道府県中24都府県、S級は確か10都府県にしかないんだったか。
東京と大阪に関しては様々な級のダンジョンがバランス良く混在しているが、他の場所だと級の偏りが激しいらしい。
極端な例だと香川はE級しか無く、群馬はS級以上しか無いというものがある。
北海道もそのような偏りがあったのだろう。
「なるほどな。ブーメランに全てを掛けているというあなたの意思が強く分かった。私はそういうのが凄く好きだ。もっと気に入ったよ」
「そう言われると嬉しいな」
「それは良かった。どうだ、我々の最高戦力での戦いぶりを生で見てみる気は無いか?」
ブーメランに対する狂った愛を気に入ったらしいフレアさんがそんな誘いを持ち掛けてきた。
「お願いします」
俺は迷うことなくその誘いに乗った。
日本一の戦いを生で見られる機会は貴重だからな。
向かったのはA級ダンジョンである丸の内ダンジョン。
選ばれた理由は単に近所だったからだ。A級の中でも難しいため一部の人からはA+とか言われているらしいが、S級からすれば誤差だろうって涼が言っていた。
ちなみに本来はB級がA級ダンジョンへ入ることは許されないが、S級による許可があれば入ることが出来るらしい。
今回はフレアさんが許可を出しているため、問題なく入ることが出来るらしい。
「やあ三人共よく来てくれた」
ダンジョンの前に到着するなり三人組の男性に話しかけた。どうやらこの人たちがパーティメンバーみたいだ。
「フレア様の依頼ならどこへでも駆け付けますよ」
「そんな事よりさっさとダンジョン行こうぜ」
「そりゃああの有名人に会えるって聞いたら飛んできますよ」
フレアさんの挨拶に三者三様の返事を返していた。
「涼くんはともかくAIMくんは君たちの事を知らないだろうから自己紹介を頼むよ」
「では私から。バトラーと申します。ジョブはガードナーです。私の目標は全ての女性を傷一つなく生還させること。今日は全力でお守りさせていただきます」
と礼儀正しそうなポーズで挨拶をした男はバトラーというらしい。
確か涼のステータスの高さを看破した奴だな。
バトラーという名前の通り、戦闘用に丈夫に作られているであろう黒い燕尾服を着用しており、世間的な執事のイメージを体現した見た目をしている。
その佇まいから、徹底して執事であろうとしていることが伝わってくる。
しかしそんなバトラーの視線は完全に涼の顔面のみに向かっており、他は一切視界に入れていない事や挨拶の内容からただの女好きだと推測される。
涼のステータスを看破したのも単に美人を熱心に観察した結果だなこれ。
「俺はシュガレイだ。ジョブは同じくガードナーだ。やっぱ力と力のぶつかり合いよ!」
次に元気よく自己紹介をしてくれたのはシュガレイ。荒っぽい口調で、正面からの殴り合いを好んでいるように見える。しかし、片手に剣、片手に上半身を守れる位の大きさの盾のバトラーと違い、両手に一つずつ彼の身長ほどの盾を構えている。
防具はガードナーというジョブの印象通り、防御に特化した金属製の鎧だった。
それを見てバトラーの姿を見てみる。いくら丈夫そうとは言っても布製の防具でタンク的な役割は務まるのだろうか。
少しバトラーの評価が落ちかけている。
「そして僕はシバです。ジョブはヒーラー、みんなの回復役です」
最後はシバさん。他の二人と違い常識人というか、まともそうな人だ。
防具はローブで、動きやすいように身軽なものを選んでいるのだろう。
「こいつらが私のパーティメンバーだ。一癖も二癖もあるが、優れた冒険者達だ」
と自信満々に語るフレアさん。しかし、一つ疑問があった。
「攻撃がメインの人が一人しか居ないようですけど大丈夫なんですか?」
攻撃に寄ったジョブの不足だ。いくらバトラーさんが剣を持っているとはいえ、ジョブ的に防御が主だろうし、残りの二人に至っては武器を所持してすらいない。
となるとフレアさんが殆どの敵を倒すことになる。格下ならともかく、同格相手に攻め手が少ないというのは重大な欠点だと思うのだが。
「ああ、それか。たまに聞かれるが、私たちの場合は問題ない話だ。まあ見ていろ」
と自信満々に語っていたので、一旦その言葉を信じることにしてダンジョンに入ることになった。
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