第21話
家に帰ってからすぐに、俺のファンたちに向けて正式にパーティを組むことを公表した。
長年の相棒であったリンネではなく、涼と組むことに抵抗感を示したファンも一定数は居た。しかしリンネと一生パーティを組まないわけではないこと、涼もリンネがあくまでも相棒であることを理解していることを説明したら納得してくれた。
「そういえばリンネ君って今何しているんだろ?」
「確かに知らないな」
別に興味が無かったということではなく、自分の事で精一杯だったため現状を知らなかった。
「見てみようよ。将来のパーティメンバーでしょ?」
リンネには直接話をしていない為明言は出来なかったが、リンネが十分な力を付けて戻ってきた時は一緒にパーティを組む予定だった。
銃一人にブーメラン二人という変な構成ではあるが、リンネが居ればどうにかなる。
「そうだな」
帰宅後時間があったのでリンネのチャンネルを開く。
「めちゃくちゃ多いな……」
チャンネルを開くと12時間くらいの配信アーカイブが大量に並んでいた。
アーカイブを残せるギリギリが12時間の為、無理やり切った形なのだろう。
「凄い根性だね」
リンネは俺とパーティを組まなくなってから、毎日15時間以上ダンジョンに潜り続けているようだ。
「流石リンネだ」
多少根を詰めすぎているような気がしないでもないが、リンネの事だ。セーフティネットはしっかりしているだろうし、凡ミスで死なないようにはしているはずだ。
「今日の配信を見てみよう」
俺たちは1時間程前に終了した配信を開いてみる。配信時間は3時間。一個前が12時間なのでその続きだろう。
「周人君、ここどこか知ってる?」
リンネが戦っているダンジョンは広大な砂漠だった。巨大なコブラが砂の上を闊歩している。
「俺も分からん」
情報が書いてあるかと思い概要欄を開くが、何も無し。本当にダンジョンに潜ることのみを考えているようだ。
「コメント欄的に九州にある吹上ダンジョンってところらしい」
リンネは何故か九州に居た。
「あいつは出身が九州ってのは知っているが、どうしてそんな場所に」
別に強くなるためならどこにいようが変わらないだろ。
「生活の全てをダンジョンに捧げるために、親に頼み込んでそれ以外の事をやってもらっているんだって」
「なるほど」
今回は本当にやる気なんだな。確実に俺を超えるために全ての手段を尽くそうとしている。
「あれは魔弾だね。弾の動き的にホーミングかな?」
リンネの放った銃弾は的外れな方向へ進んだかと思いきや、途中で急カーブしコブラの脳天を貫通する。
「ちょっと待て。距離が遠すぎないか?」
リンネの選んだジョブは『アサルトガンナー』。銃の中でもかなり近接戦を重視したジョブだ。
しかし、今のリンネはどう見ても遠距離型だ。そもそも持っている武器がショットガンやライトマシンガンのような近距離武器ではなく、単発式のライフルに変わっている。明らかにジョブに合っていない。
「ジョブは元々『アサルトガンナー』だったっけ。多分変えたっぽいね」
と涼は言う。
「ジョブって変えられるのか?」
「ステータス開いてジョブの所を触ればいつでも変えられるよ。ただ変えちゃうとレベルが1に戻っちゃうから皆やらないけどね」
一度決めたら一生変えられないわけではないのか。
「そんなことが」
「恐らくね。多分この戦い方的に『魔弾使い』だし」
思い切りのいい奴だな。
「だがリンネは魔力にステータスは振っていないぞ?」
記憶が定かであればリンネは力や防御を重点的に上げていたはず。
「はは、彼そこまでやったんだ」
涼は心底驚いているようだった。
「そこまでって?」
「レベルの初期化だよ。リンネ君は周人君と別れてからすぐにレベル1に戻している」
「マジかアイツ」
今回のリンネは本気だとは思っていたが、レベルが違いすぎる。
わざわざC級まで上がったというのに、ステータスを振り直す為だけに全てを無に帰しやがった。
「もしかしたら、君と別れたのはそれが理由だったのかもね」
ステータスを振り直すためにレベル1に戻す。そうしたら一緒に戦えないからパーティを解消する。
パーティ解消の理由として納得がいくものだ。
「とりあえず確認してみよう」
今見ているアーカイブを停止し、別れた直後のアーカイブを再生する。
『やあみんな。リンネだよ。唐突なんだけど、僕は全てのレベルを1に戻しました』
その通りだった。
「つまりリンネはこの短期間であのダンジョンに潜れるまでにレベルを上げたってのか?」
直近のアーカイブで倒していたコブラは低く見積もっても俺が今日戦っていた相手と同じC級相当だった。そんなバカげた話があるか?
「恐らく効率を重視して最短で上げたんだろうね。多分」
『目的は、魔力に全振りするためです。魔弾使いとして最強になります』
魔力全振り。どうやらリンネも何かの結論を見つけたらしい。
「俺もうかうかしてられないな」
涼という強力なパートナーが居るとはいえ、油断していたら一瞬で追いつかれてしまう。
「そうだね。私もとことん付き合うよ」
俺たちは改めて気合を入れた。
後日、集めた素材を使った新しいブーメランを作り終えたので、次のC級ダンジョンに潜ることになった。
「ふんっ!」
「とりゃあ!」
手始めとしてC級ダンジョンの一つ、我孫子ダンジョンを攻略した。
固い耐久力と攻撃力を併せ持つ強靭な草食動物をモチーフとしたモンスターで構成されたダンジョンだった。
そのため真っ向勝負をするとたとえB級でも苦戦すると評判のダンジョンだったが、全員自分の肉体を使った接近戦以外出来ない為俺たちの敵ではなかった。
一方的に攻撃出来たことも勝因の一つだったが、何より今回役に立ったのはブレードコアトルスで作られた切断用のブーメランだった。
「思っていた数倍は斬れ味が良いな」
流石に硬い部位に関しては切れ込みを入れることすら難しかったが、弱点の部位に関しては気持ちいいくらいにスパスパ切れた。
ゾウの耳があっさりと斬り飛ばされた様子を見て、よくあるテレビショッピングの光景を思い出した。
「思ったよりも上手くいって良かったよ。まさかここの敵に通用するとはね」
「流石は涼だ」
「ありがとう」
そして鉄ダンジョン、文京ダンジョンなど、一つ一つ順調に攻略を進めていった。
「これで終わりだな」
俺は目の前に居る巨大なトンボが倒される姿を見て、そう言った。
「これでAIM君も無事にB級だね!」
今潜っている朝霞ダンジョンを攻略したことで、C級ダンジョンの攻略数が8つに達したため無事にB級昇格となった。
「ああ。非常に助かった」
別に一人で攻略が出来なかったかと言えばそういうことは無いのだが、涼とパーティを組めたことで非常に助かっていた。
俺よりも遥かに近距離戦闘が上手く不意の戦闘を対処してくれたり、弱点を完全に隠し防御態勢に入ってしまった敵を貫いてくれたりと、俺の弱点を埋めてくれていたのだ。
お陰でダンジョン攻略は想定よりも数段速いペースで終えることが出来ていた。
「こちらこそ大助かりだよ!楽にレベル上げさせてもらったし」
「お返しが出来ているのなら良かった」
その後配信を切断し、いつも通り手続きに向かう。
「おめでとうございます。これによってB級ダンジョンに挑むことが出来るようになりました」
「ありがとうございます」
俺はB級になった証拠写真をSNSに投稿し、涼と共に役所を出た。
「あなた方はAIMさんと涼さんですね?」
すると見知らぬ女性に話しかけられた。
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