第12話
俺たちは再び武蔵小山ダンジョンの第二層を訪れ、配信を始めた。
「今からはエイム練習ではなくて、本番として攻略を再開するね。10時間の成果、皆にも見てもらうよ」
「とりあえず今回は第二層でこいつの腕前を見つつ、第三層の攻略に励む予定だ」
と最初の挨拶を済ませ、ダンジョン攻略を始める。
一度突破した階層なので、完全にリンネに任せてみることに。
「お手並み拝見と行こうか」
「任せて。エイムを手に入れた僕は最強だから」
そう豪語し、スケルトンとの戦闘を始めた。
「当たれ!」
そう声に出しながら銃を乱射するリンネ。ちゃんと練習の成果が出ており、目を瞑るとかいう暴挙には出ていなかった。
それもあってか、命中率は割と上がっているようには見える。
「どうよ!」
難なくスケルトンを倒したリンネは誇らしげに俺の方を見る。
「どうって言われても頑張ったんだなとしか言いようが無いな。見た所初心者ゾーンを抜けた程度でしかないし。まあ目を瞑らなくなったのは大きな成長だが」
確かに上手くはなっていたが、これでドヤられても何とも言えない気持ちになるだけだ。
「AIMは流石に厳しいね……リスナーは褒めてくれたんだけど」
いつもあの惨事を見ていたらそうなるか……
「とりあえず成果は分かったから次に行くぞ」
一応使い物になる程度には改善してはいるので次の層へ向かうことに。
「聞いてはいたけどやっぱり怖いね」
第3層は墓場をモチーフにした場所だった。いかにも何かが出てきそうな雰囲気が漂っている。
「こういうのが苦手なのか」
「別にそういうわけじゃないよ。見るのなら得意な方なんだけど、ホラゲの世界に自分がいるってのは少し違うじゃん」
既にバイオ何とかみたいな世界を目の当たりにした男の話ではないが。
「とりあえず攻略するぞ」
ビビっていても仕方が無いので、探索を開始することにした。
「うわっ!」
俺が敵を視認したのと同タイミングで、リンネが悲鳴を上げた。
「幽霊か」
「うん、『ゴースト』だね」
墓場らしく出てきたのは『ゴースト』。真っ白で透き通った人間が宙に浮いている。
「ビビってないで近づかれないうちにさっさと倒すぞ」
まだ距離は100m程あるので気付かれていない。俺は敵めがけてブーメランを投げる。
ブーメランは完璧な軌道を描き、そのままゴーストには当たる——
ことはなくそのまま俺の元へ帰ってきた。
「ん?俺のコントロールは完璧だったはずだが」
視力にも肉体にも一切の異常は無い。ブーメランの軌道も完璧だったはずだが。
「AIMが外すなんて珍しいね。しょうがないから僕が倒してあげるよ」
ドヤ顔でライトマシンガンを構えたリンネは、ゴーストに向けて銃を乱射した。
ちゃんと練習した成果もあり2割くらいは狙い通りに撃てていたが、どれも命中したようには見えない。
「あれ?これだけ撃っても当たらないの?」
リンネは困惑していた。
そんな中銃の爆音でこちらに気付いた複数のゴーストが、俺たちを倒さんと接近してくる。
「そうはさせん!」
俺は念には念を入れてゴーストの倍ブーメランを投げた。
しかしどれにも当たることはなく、そのままこちらへと戻ってきた。
「すり抜けているのか!」
最初に投げた時は遠目だったので気付けなかったが、ブーメランはゴーストの体をすり抜けるらしい。
つまり銃も同じようなことが起きていたのだろう。
流石ゴーストだった。
ある程度接近したゴーストたちは地面にあった石などを何かしらの力で動かし、俺たちの元へ投げてきた。
「逃げよう!」
「分かった」
俺はゴーストたちの飛ばしてくる石やらをブーメランで弾きながら、第二層へ戻る階段まで駆け込んだ。
「あいつらに直接の攻撃手段が無くて良かったな」
「本当だよ」
俺たちは全力で逃げたはいいものの、ゴーストよりも足が遅く簡単に追いつかれていた。
攻撃手段が近くにある物を投げ飛ばすだけじゃなければ今頃二人の体は引き裂かれていた。
「一旦作戦会議しよう」
「そうだな」
俺たちは一旦配信を中断し、ダンジョンの近くにある個室のネットカフェに移動した。
「よし、これで配信が始まったね。これから作戦会議を始めよう」
「そうだな」
議題は勿論ゴーストの倒し方。
SNSを通してゴーストが出てくることは知っていたが、普通に倒せるものだと思っていた。
だが、あそこはダンジョン。人知を超えた存在が現れてくるのを完全に忘れていた。
「うっかり忘れていたことなんだけど、通常攻撃は効かないらしいんだよね」
「おい」
そんな大事なことを忘れるなよ。
「いや、普通はスキルを使えば倒せるらしいから考える必要はないって思っちゃってたんだ。剣士とかでも普通にスラッシュとかいうスキル使って切り倒していたし」
「そういえばスキルというものを使ったことが無いな」
ダンジョン踏破でもらえるスキルはゴミばかりだしな。必要が無いと完全に切り捨てていた。
それにスキルが無くても十分にやっていけたからな。
「多分スキルを選んだこと無いよね?」
「選ぶ?どういうことだ?」
「ステータス画面のジョブをタッチすると出てくるんだけど、知らなかった?」
「最初に教えてくれ」
俺はステータス画面を開く。
玉森周人 レベル30
ジョブ:狩人 レベル30 進化可能
力 160
防御 10
魔力 10/10
魔力耐性 10
俊敏 160
器用 160
命中 350
ステータスポイント 110
スキル
投擲 制球 園芸
そういえばゾンビ戦以降ステータスを振っていないなと思い、命中を460にしておいた。
「なあ狩人の所に進化可能って出ているんだが」
「ってことは30レベルになったんだ。タッチすると職業が選べるよ」
アーチャー
罠師
狩猟人
ブーメランマスター
「なるほど。詳しい所はよく分からないが、ブーメランマスターでよさそうだな」
「ブーメランマスター?」
「ああ」
そう答えると、リンネは笑い始めた。
「何がおかしいんだ」
ブーメランを極めようと志す俺に最適の職業だというのに。
「だって、ブーメランマスターって……」
「もう知らん」
俺はリンネをスルーして職業を選択した。
数分後、何事もなかったかのように振る舞うリンネ。
「僕も進化可能って出ているから選ぶね。えっと、これかな。『アサルトガンナー』。接近戦寄りのガンナーだね」
二人とも職業を選び終えたので、本題に戻る。
「とりあえずスキルの選択だな」
「うん」
改めてジョブの欄を触れてみると、スキル選択の画面が出てきた。
「なるほど、ここからスキルを選ぶのか」
「そういうこと」
「リンネはどんなスキルを取っていたんだ?」
ジョブが違うので参考にはならないが、一応聞いてみる。
「僕もこの存在を知ったばかりで、まだ選んでいなかったんだ」
使えない奴め。
「まあいい。スキルを選ぶぞ」
俺はリンネにそう言い、画面に集中した。
「進化前と進化後でポイントは別々なんだな」
狩人:300 ブーメランマスター:10とだけ表記してある。ブーメランマスターの方で選べるスキルが『ブーメラン連投』しかないので、狩人の方を選ぶことになる。
正直ブーメランを投げる速度は現時点でも足りているしな。ゾンビみたいなことが無ければ。
とりあえず使えそうなものを探す。弓関連や罠関連のスキルはかなり取り揃えてあるのだが、ブーメランに影響のあるスキルは大して多くないな。
と思っていたが良いものを見つけた。
『ブーメラン回収』だ。近くにあるブーメランを即座に手元へ呼び寄せることが出来るらしい。
クールタイムはあるが魔力消費などは無いため、かなり使い勝手の良いスキルに見える。
後は『隠密』や『探知』などのスキルか。
3つで丁度300ポイントだからこれにするか。
「俺は決めたぞ」
「僕も決まったよ」
二人とも決めたようなので発表となった。まずは俺がささっと説明し、リンネに回した。
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