第7話

「次の階層は本格的な森みたいだね」


「そうだな」


 次の階層には大量の木々が立ち並んでおり、空は閉ざされて薄暗い空間だった。


「AIMってここ大丈夫?銃と違って結構空間が必要な気がするんだけど」


「心配はいらない。投げ方に注意すればこの程度の木々など障害にはならん」


 それに本当に困った場合は斧投げの要領で真っすぐに投げてしまえば銃と射線はほぼ同じだからな。


「そういうならいっか。進もう」


 俺たちは土と木の葉と根で構成された地面に注意しつつ攻略を始めた。


「これはモンスターみたいだな」


 木々をかき分けながら進んでいく最中、異質な木々が群生している場所を見つけた。


 一見普通の木なのだが、枝が重力に負けたかのように地面に垂れているのに、葉っぱは適度に生えている。枝が死んでいるようで生きていた。


「その通り、これは『トレント』だね。あの枝を鞭みたいに使って攻撃してくるんだよ」


「なるほどな。だからああやって垂らしているのか」


 無駄に力を使わないために温存しているのだろう。


「そういうこと。弱点は無いけど、枝を全て刈り取れば無力化できるよ」


「面倒だな」


 急所を狙うことで敵を倒すスタイルの為、急所が無いというのはかなり面倒そうな戦いだった。


 そもそも木を折るほどの威力が出るのかという問題もある。


「でもやるしかないよ」


 リンネは臆することなく武器を構える。右手にショットガンを構えてはいるが、左手に持ったライトマシンガンのみを発射している。


「なるほど」


 リンネは、左手で敵を攻撃しつつ、ショットガンで攻撃から身を守っていた。


 ライトマシンガンは全く当たっていないが、反撃で飛んできた枝をショットガンで一本一本吹き飛ばしている。


 俺はそれを支援するべくブーメランを枝に投げ続ける。


「そう来るか」


 命中したブーメランはちゃんと枝を折ることに成功していたのだが、一部のブーメランは『トレント』の枝を複数使うことによって叩き落とされてしまっていた。


 普通なら死角から狙いなおすことでそれを防ぐのだが、こいつには目が存在しない。何かしらの手段で確認しているのだろうが、死角というものが存在していなかった。


 結局思うように枝を折っていくことは叶わず、かなりの時間を要した。


「過去最長の戦闘時間だったね」


 大体1時間くらいかかっていたようだ。


「この調子でボスを倒せるか?」


 恐らく俺の武器はこのダンジョンの敵を倒すのには致命的に向いていない。


 ボス戦でも足を大いに引っ張ることだろう。


「大丈夫。秘策があるから」


 しかしリンネは一切心配しておらず、寧ろ自信満々の様子だった。


「お前が言うなら大丈夫か」


 こういう時のリンネは間違いなく頼りになる。だから俺は不安に思う気持ちを一旦捨てることにした。


 その後2度の戦闘を経て、大体3時間で次の階層であるボス部屋へと到着した。


「先客がいたな」


「そうだね」


 早速挑もうと思ったが、少し前に到着していたらしいパーティがボス部屋に入っていったので待つことになった。


 いくら広いダンジョンとは言ってもボス部屋は一つしかないので仕方なく待つことに。


「じゃあその間コメントでも返そうよ」


 リンネの提案で、待ち時間はコメント返しのコーナーになった。


「『AIMさんってどれくらいのサイズまでならブーメランで当てられる?』だって」


「俺が肉眼で見える範囲までだな。視力は両方1,0だからその位を想定してくれ。今度はリンネの番だ。『今後ライトマシンガンのAIM練習とかはしないんですか?』だとよ」


「基本はしないかなあ。練習って面倒じゃん。それよりも今ある能力でどれだけ出来るかを考えたいかな」


「大丈夫だ。お前は練習しても多分エイムは良くならない」


「練習したら出来るに決まっているだろ!天才だよ僕は」


「天才なら5年やったゲームのエイムが素人に負けるわけがない」


「なんだって!リンネだって初心者よりも立ち回りが下手な癖に!」


「俺はそんなことしなくても勝てるからな。それよりも次に行くぞ」


 俺たちはその後も軽く喧嘩しながらコメントを返し、時間を潰した。


 それから30分ほど経った頃、ボス部屋に続く扉が一瞬だけ強く光った。


「前の人たちの討伐が終わったみたいだね。行こうか」


「アレは再出現のサインなのか」


「話によるとね。じゃあ開けてみよう」


 リンネは目の前にある巨大な扉を自分の手でこじ開けた。


「でっかい木だな」


 扉の先にあったのは、屋久島の縄文杉すら霞むほどの大木の形をした石が一つ。


「そうだね。ってことはあれがボスの『サウザントトレント』かな」


 それは俺たちが部屋に入ったと同時に、石から木へと変化する。


 そして枝が石を持ったかのように俺たちの方へ向かって伸びてきた。


「E級とは言っても流石はボスだ。倒せるか分かんないや」


 リンネはそう言いつつも、とても楽しそうな顔をしている。


「無駄に特攻して死ぬんじゃないぞ」


 俺は小手調べとしてブーメランを大量に展開しつつ、枝から距離を取った。


 一方のリンネは近づかないと当てられないためか、少し近づいてから射撃を始めた。


 ただ距離がそこまで遠くないので全く当たる気配が感じられない。


「リンネ、もう少しちゃんと狙え!」


「僕にはこれが精一杯だよ!移動しながら撃つなんて高等技術があるわけないでしょ!」


 でも一発ぐらいは当てて欲しい。


 それはさておき、こちらの方もあまり成果としては芳しくない。


 木に目は無いはずなので空中に飛んでいる物体を感知するなんて不可能なはずだが、見事にブーメランの位置を特定しことごとく撃ち落されている。


 そもそも俺の攻撃では当たったとしても大したダメージにはならないらしい。


 大木なだけあって、枝の太さが尋常では無いのだ。


 これではブーメランの残弾を無為に減らすだけ。何か別の手段を考えねば。


「リンネ!ブーメランが効かん!何かいい方法は無いか?」


 というわけで丸投げする。


「まだ相手のパターンを読み切れていないからちょっと待って!できれば僕をそれで守って欲しい」


 かの天才軍師様も非人間に対しての対処法を見つけきれていないらしい。


「仕方ないな」


 俺はリンネを襲う枝にターゲットを変更し、ブーメランを投げ続けた。


 どれもきちんと命中したが、ダメージを与えるには至らない。しかし妨害には成功しているようで、リンネは全ての攻撃を危なげなく回避していた。


 そんなことをしていると、一番近かったリンネから標的が俺へと移った。


「最悪だな」


 俺は一方的に攻撃する専門であり、こういった場面はあまり好ましくないのだが。


 どれもこれもリンネが銃を当てられないのが悪い。


「まあこれでフリーだ。流石のアイツでも動かなければあのでかい的に当てられるだろ」


 俺はそう信じ、枝から必死に逃げる体制へと入る。


 元々最大限に距離を取っていたこともあり、基本的に前からしか攻撃が来なかったため当てるのは非常に簡単だった。


 より密集しているタイミングで、より細い部分を狙い、ブーメランを放る。


 何本かは弾かれてしまったが、弾くことが出来なかったブーメランが枝の軌道を変え、近くにあったブーメランと絡みつく。


 伸ばして自由に動かせるとはいえ、絡まった枝を解くような繊細な作業は難しいらしい。


 諦めたのか、その状態のまま俺を貫こうと枝を伸ばしてくる。


「逆に厳しいぞ」


 二本以上になった束はこれまで以上に強度を増しているため、ブーメランでは軌道をずらす事すら叶わなくなった。


 どうしようも無くなったため、自分の身だけで逃げ続けるしかない。


「早くしろ、リンネ!」


「分かっているよ!」


 ピンチに俺が陥っているというのに、リンネは攻撃を一切していなかったのだ。


 ちらっとしか見れないが、何かを用意しているようだ。


「もう2分くらい逃げるのが限界だ!」


「もう大丈夫!食らえ!」


 リンネが放った銃弾はきちんと命中し、少し経ってからその体を燃やし始めた。


 それに伴い大木は急激に元気を失い、あれだけ鋭利に伸ばしていた枝達も枯れたように萎れていた。


 綺麗なキャンプファイヤーを眺めること数分、木は完全に焼失した。


「僕たちの勝ちだ!」


 リンネがハイタッチを要求してきたので、それを受け入れた。


「アレは何だったんだ?」


 今回、俺たちがした攻撃はただの一発。ショットガンで木を撃っただけだ。


「単なる火炎弾だよ。ただ少し変なやつなんだけど」


「それは普通に装填するだけじゃないのか?」


 ただの銃弾ならあそこまで時間がかかる道理は無いはず。


「今回の火炎弾自体が結構な熱を持つタイプでね。暴発しないように色々とオプションを付けていたんだよ」


 確かによく見ればショットガンがさっきまでのものとは違い非常に大きくなっていた。


「持ち運びはどうしたんだ?」


 リンネのカバンに特段変わった所はない。よくある普通の物だ。


「普通にバッグに入れてたよ。アレは一旦火を付けることで急激に熱を持つタイプだから」


 そう言って取り出したのはガスバーナー。


「それであそこまで時間がかかったわけか」


 ショットガンにオプションを大量に取り付け、火炎弾に火を付ける。そして高温に注意しながらショットガンに装填する。


 本物の銃を扱い始めて数日しか経っていないリンネならこうなって当然だった。


「ごめんね。危険な目に合わせて」


「いや、俺の攻撃力が低かったのが問題だ」


 弱点を的確に狙うことで相手を倒すスタイルだったが、今回みたいに弱点が皆無の場合はこう足を引っ張ってしまうらしい。


「じゃあ力に振るの?」


「いや、それとは別の手段がある」


 俺には一つ心当たりがあった。

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