第18話 メロロ王国が動き出す!

宰相たちが頭を抱えているのは当然のことだ。国王からの発表が無ければこの国の貴族であれば平民がそのような力を持っているなど信じられないからだ。


例外を上げるなら、宰相たちのように事前に情報を知っていた者たちだけである。しかしながら今の国王の言葉ですべてがひっくり返ってしまった。国王の言葉であれば平民に力があるというのも真実なのだから。


ただのデマだと思い込んでいた貴族たちは当然、国王の発言に動揺が収まらない。それは次第にほかの者たちにも波及していくのだった。


「まさか、そのようなことが。あり得るのか?平民だぞ!」


「しかし、国王陛下がお認めになられたのだ。つまりは真実であるぞ。」


「なんということだ、魔物の被害が広がっている我が国にこそ必要な力であるというのに、何故サクラ王国などに現れる!」


次第に謁見の間は貴族たちの声で騒がしくなっていく。そんな彼らを国王が一声でいさめる。


「沈まれ!」


先ほどまで騒々しかった謁見の間がピタッと静寂に包まれる。


「みなの不安は分かるが問題ないことだ。今回の発表にあった平民とは前国王が私に命じて婚約者にしてやったものなのだ。平民などを婚約者として迎え入れるのは吐き気がするが国のためだ、私が一肌脱ごう!あれをすぐにこの国に連れ戻し、再び我が国は魔物の被害がない国となるのだ!」


国王の言葉に貴族たちは一斉に称え始める。


「さすがは陛下であらせられる。国のために平民ごときを婚約者に迎え入れようとするのはできることではない。」


「その通りだ、国のためを思い行動するなど、なんと尊いお方なのだ。」


宰相も表面上は他の貴族達に賛同するように国王を称えていた。もちろん、ミラナリアを取り戻せばすべて丸く収まるに違いない。だが、彼女はサクラ王国にいるのだ。そんな彼女をどうやって取り戻すのか、それだけが宰相にとっては懸念材料だった。


「諸君、すべて、私に任せておくがよい!ではこれにて解散だ、私があれを連れて帰るまで皆は魔物からこの国を守るように!」


こうして、国王の招集した貴族たちは解散するのであった。他の貴族達が解散した後も、宰相は今後の話し合いを国王とするために残っていた。


「陛下、私に事前に何の連絡もなく貴族を招集するのはおやめください。話を聞いたときにはびっくりしましたよ。」


「全く、宰相は口を開けばお小言ばかりだな。分かった、分かった。こういうのは今回ばかりにしておく。」


表面上ではあるが、宰相の言う通りにすると国王は約束する。


「そうしていただけると助かります。それで、陛下。例の平民を連れ戻すのはどうするのですか?サクラ王国にいるのであれば連れ戻すのは困難かと思われますが。」


宰相は唯一の懸念点であることに関して対応策を国王に尋ねる。


「追放はしたものの、あれが私の婚約者であったのは事実だ。サクラ王国の国王に親善会談とでも言って私が向かえばいい。いくら何でも親善会談を理由もなく断れば良くないことくらいサクラ王国の国王であればわきまえているだろう。


そして、あれは私の婚約者だから連れて帰ると言えばそれで問題ない。何か文句を言うようであれば国際社会にサクラ王国の国王は婚約者を無理やり奪おうとしている暴君だと広めるとでも言ってやれば何とかなるだろう。あの国は国際社会からのメンツを何よりも気にするからな!」


「陛下は素晴らしい慧眼をお持ちのようです。確かにその方法であればサクラ王国からあの平民を連れ戻すこともできましょう。早速、親善会談の準備を始めさせていただきます。」


考えもなしに発言した国王だと考えていたが、彼への宰相の評価は一変した。確かに、国王の言う通りサクラ王国は何よりも国際社会からの目を気にする節がある。


国王の言う通り、ミラナリアが婚約者であったことは事実であるため、この作戦で連れ帰ることが出来ると確信する宰相であった。

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