第20話

 自分の身長を考えずに立ち上がったせいで、かなりの衝撃が頭にきた。くらくらとする頭を抱えながら、声のしたほうを見ると、そこには制服を着た女の子がいた。

 昨日見た七海そっくりの、女の子。

「かわんないねえ、久人」

「七海?」

「そうだよ」

 夢を見ているのではないかと思って、先ほど強打した部分を触ると、鈍痛が頭に響いた。

 夢ではないようだ。

「お前、どうして?」

「引越しになっちゃてさ。でも今度は海外だっていうし、こっちにあるお母さんの実家に、お母さんと、じいちゃん、ばあちゃんと住むことにしたの」

「でも、お前なんでここに……」

「引越し作業してたら懐かしいものが出てきたからさ」

 ひらひらとこちらに見せてくる紙は、少し焼けており、古くなっている封筒だった。

 七海がここの菓子缶の中に手紙を入れる時によく使っていた封筒。

 裏には『一之瀬七海より』という丸っこい文字が入っている。

「懐かしいよね、これ」

「それって……手紙だよな」

「そう。引越しの当日にどうしてもここに来たくて、引越しの作業を抜けてここに来たんだ。だけど、久人はいないし、手紙だけあったから、手紙だけ貰ってさ」

「あの手紙……読んだ……?」

「勿論。あの甘ぁい手紙、読んだわよ」

「そ……そっか」

 頬に熱がこもっていくのがわかる。脳内では、自分が望まないのにもかかわらず、あの時の手紙の内容が一言一句思い出されていく。

 あの時の手紙は、読まれなかったほうがよかったかもしれない。

 今の自分が恥ずかしくてたまらない。

「でね、私も手紙を書いたのよ。久人のくれた手紙の返事として。見たい?」

「……見たいさ」

「でも、ダーメ」

「なんでだよ」

「目の前で小学校の頃の手紙を読まれるとか……恥ずかしいに決まってるでしょ!察しなさいよ、久人のバカ!」

「誰がバカだよ!俺だって恥ずかしい思いしてるんだよ、バカ!」

「またバカって言った!バカって言う方が……って、懐かしいね。こういうの」

「……そうだな」

「さて、と」

 七海は体を入り口のほうへと向けた。

「帰るね、私」

「待てよ」

「なに?」

「手紙は、置いていかないのか?」

「置いていけるわけないでしょ。それとも、読みたいの?」

「あの時の返事をさ、俺、聞いてないって思って」

「なんの?」

「手紙の返事をさ」

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