第9話 現実的な俺

「おい、石嶋。帰ろうぜ」


「おう」


 彼はいつも少し怖そうな男子と一緒だった。

 見かけるのはいつも昇降口や全校集会などの学校の生徒が集まる場所だけ。

 それでも彼を目で追いかける回数は増えていった。

 そうして気が付いたら彼を好きになっていた。

 でも、話しかける勇気も機会もなかった。

 一年生の冬には彼を見かけるたびに胸がドキドキするのを感じていた。

 

「ねぇ、伊奈。帰りにパフェ食べて行かない?」


「え? う、うん良いよ」


「何見てたの?


「え? な、なんでもないよ! 行こ!」


 せめて同じクラスだったら、そんな事を考えながら私は話をする機会をずっと伺っていた。

 でも、どうしても勇気が出なかった。

 急に話掛けて変な人だと思われたらどうしよう、何を話せば良いのだろう、全然分からなかった。 

 今まで男子に告白された事はあった。

 でも自分から告白したことは無かった。

 始めてだったかもしれない、異性を好きになったのは……。

 だから二年生のクラス替えで同じクラスになっときは嬉しかった。

 早速話し掛けよう、仲良くなって告白して恋人になりたい。

 そんな事を思っていた。

 でも、私は新しいクラスになってからというものクラス内の彼とは別のグループで学校生活を送るようになってしまった。

 

「伊奈、帰ろうぜ~」


「うん、良いけど……」


 いつも話掛けてくる吉田君はきっと私の事が好きなのだろう。

 事あるごとに話し掛けてくるし、メッセージや電話も多い。

 しかも女の子の扱いに馴れているようで、鬱陶しいほどべたべたして来ないし、連絡も来ない。

 容姿も良いし、中学ではバスケ部のエースだったらしい。

 

「なぁ、今度の休みさ一緒に映画行かね? チケット貰ってさ」


「うん? あぁ、ごめんね。ちょっと用事あるんだ」


「マジか。じゃぁまた今度な」


「うん」


 これが石嶋君からの誘いだったら何よりも優先するのに……なんて事を考えてしまっている自分がいた。

 石嶋君はクラスではあまり目立たない。

 別に暗い性格とか友達が居ないとかじゃないけど、言ってしまえば本当に普通の生徒って感じだ。

 誰とでも話をするし、誰にでも同じ対応をする。

 ただ井岡君にだけは素の自分を出している気がして、なんだか面白くなかった。

 このままじゃダメだ。

 行動に移さないと!

 そう思った私は彼に思い切って告白することにした。

 言わないと分からない。

 断られてもそれを切っ掛けに友達になって、友達から関係をスタートしよう!

 そう思ったんだけど……。


「え? 石嶋に告白!?」


「う、うん……だけどどうした……」


「あぁ、なるほどね。石嶋に告白ドッキリ仕掛けるって話しね」


「え? いや、ちが……」


「お、なになに? ドッキリの話し?」


「石嶋に告白ドッキリ!? なんだよそれ、面白そうだな!」


「だ、だからちが……」


 こうして私は彼に最悪の告白をしてしまった。





 

「ほぉ……それで俺を放置したと?」


「……悪い」


 俺は堅山と別れた後直ぐに教室に戻って井岡を迎えに行った。


「連絡くらいしろよ、何の為のスマホだ」


「いやぁ……いろいろあって……」


「堅山からマジ告白されて、それを断っていたら遅くなったと?」


「はい……」


「しかし、まさかあの堅山がなぁ……それ本当にドッキリじゃないの?」


「そんな感じはしなかったよ、あれはマジだった」


「ふーん、なんで振ったんだよ? 堅山可愛いだろ?」


「可愛いだけで付き合ってもきっと上手くなんていかない。ゲームじゃないんだからさ……」


「でも、付き合って見るのもありだったんじゃねぇの?」


「良く知らない相手と? 堅山さんには悪いけど僕は良く知りもしない相手と付き合いたくはないよ」


「お前らしいな。現実的というか考え過ぎっていうか」


「まぁな」


 





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