第24話 サキュバスの扱い方

 首がないながらもまだピクピクと動くヒュイの指に指輪をはめる。


「倍速」


 口にした瞬間、淡い光がヒュイの全身を包み込む。気が付くと五体満足のヒュイが現れた。


 ヤリマーの顔が険しくなる。


「……魔法具か」


「あ、れ? ……私は」


「あ、おはよう」


「え、あ……私は死んだはずじゃ……」


「僕は殺していいとは言ったけど、死ぬとは言ってない。ちゃんと約束を守ったでしょ」


 ヒュイには一度死ぬという辛い体験をしてもらったけど、これには爆弾処理と相手に降参してもらう狙いがある。


 僕の狙いは当たったようで……


「ただでさえ劣勢なのに重傷さえ簡単に治せる魔道具持ちなんて……私の負けだわ。降参よ」


 ヤリマー手をあげ、やれやれとため息。


「私を殺しなさい。この国のリーダーが変われば方針も変わるかもしれない。後任は私に反発していたサキュバスたちに託すわ」


「ヤリマー様いけません!」

「ヤリマー様が殺されるなら私たちもっ!」


 ヤリマーの言葉に周りのサキュバスたちも最後を添い遂げると宣言。


 これじゃあ僕たちの方が悪役じゃないか。


 こほんと、咳をつく。


「あーあー、言っとくけど僕らはこの国を滅ぼす気はない。つまり、君たちを殺す気はない」


「けれど、私を倒さない限りまた同じことの繰り返しよ?」


「精気がそんなに欲しい?」


「ええ、私たちサキュバスにとって生きるために必要だもの」


 人間が食べ物を食べないと生き延びれないように、サキュバスも精気を取らないといけない。

   

……効率よく精気を集める方法はないかな。


 人間側が恐れているのは精気が吸い取られすぎて死亡すること。死なないんだったら、好んで性管理してくれるサキュバスはありがたい存在だろう。

 

「ねぇ、負けたらなんでも聞くって言う約束は有効?」


「ええ、それくらい叶えてあげるわ」


「……人間と協定を組むのはどう?」


「協定……?」


「君たちは精気さえ定期的に取れれば人間を監禁したり、殺したりしないでしょ」


「ま、まぁ……そうね」

 

「だからその……ルル、何かいい案ない?」


「……」


「頼むよ、ルル」


 こういう頭を使う系はルルに任せた方がいい案がでるだろう。てか、僕が考えるのが苦手なんだけどね。


「はぁ、分かったわ。だからそんな悲しい顔をしないで。……デリバリーサービスなんてどう?」


「デリバリーサービス?」


「ギルドごとにサキュバスを好きな時に指名できるの。サキュバスより人間の数、男の数が多いのは間違いない。そしてギルド業はストレスが溜まる。ストレスが溜まれば性欲が溜まるわ。その他にも人間の国に風俗店を増やすとかすれば定期的に精気を摂取できるはずよ」


「確かにそうすれば……」


「それでもまだ足りない場合は相談すればいいわ。大切なのはお互いが良好な関係を築く事。最初からやっとけばこんな争いにもならなかったかもね」


「って、いう提案だけどどう?」


「それなら両国ともいい関係ね。乗ったわ」


 僕とヤリマーはガシッと握手を交わす。



 それから一週間後。

 今日も今日とてリビングで新聞を広げる。


【サキュバスデリバリー大好評! ギルド全体の成績もUP】


 男って単純だよなー。  

 なお、僕は利用したことはない。

 理由は……言わなくても分かるだろ?


 新聞を見ている僕の元にルルがやってきた。


「本当にこれで良かったの?」


「うん、彼女たちは最初から本気で殺しにきてなかったしね。囚われた男たちのほとんどが救いようがなく、処分するしかなかったのは残念だけど、被害が最小限に抑えられた。命を落とす人が1人でも少ない方がいいよ」


「優しいわね。そんな優しいといつか殺されるわよ」


「その時はそれまでの人生だったと思うよ」


「……まぁそんな事、絶対にさせないけど」

 

 ……にしても、早くこのギルドを抜けられないかなー。





        

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