第37話 はい、それが正に神の食べ物です。

 ここに来て1ヶ月とちょっと。

 ようやく日本にいた時の食事がほどほどに食べられるようになった。……が。


「主食が足りない……」


 そう、ほどほどに食事改善はしたものの、今!パン以外の主食不足!!圧倒的な主食不足!!由々しき事態!!

 これは早急に問題解決をしなければならない。


「主食……ですか?」


 食器を拭きながらルーが相手をしてくれる。


「そう、主食。パン以外が私は食べたい」

「パン以外って……それ以外なんかあんのか?」

「聞いたことないですー」


 あ、絶望の音が聞こえる……。

 いや、予想していたけど!硬いパンが主流だもんね。今じゃここでは柔らかいパンが人気でそれが当たり前になってるけど、王都では今でも硬いパンしかない。主食という言葉も無いに等しいし、それに近くて準ずるものがじゃがいもだもんね。


「いやね?私だってパンが固ければ作ればいいのよ方針できたけど……だけど私は贅沢な日本人……米……米が食べたい!!」


 人というものは欲深い。

 ひとつ満足すると、もっと、もっとと求めてしまうものです。

 日本にいた時からのパン好きの私ですが、それは選べるという贅沢な環境下の元で成り立つ嗜好品であった、と気づいたのです。

 なんてやうやうしく言ってますけどつまりはパン飽きた。米食いたい!私は和食が食べたいだけなのだ!!


「米……?米って、ライスのことか?」


 ダンが、信じられない単語を口にした。


「え……あるの……米が、ここに……?」

「米、てかライス?でいいんだよな?それならあるけど」

「な、なんだってええええ!?」


 私は……この異世界に米は無いと思い込んでいた、だけ、だと……?

 どうやら米はライスで単語変換してくれてるらしい。いや、てかライス!米!あるの!?貯蔵庫にはなかったけど!?粉と粉と粉しか!ありませんでしたけども!!


 混乱している私に畳み掛けるようにヤックとポールが言う。


「ライスって、家畜にあげる餌だよぅ?」

「そうです。ライスは臭くて食べられたもんじゃないです」

「臭い?……ああ、糠臭いってやつね!」


 多分精米して洗わずに糠共々粉にしたとか煮たとかそんなところだろう。

 日本人にはいい匂いでも、糠は外国人には腐った匂いとかすえた臭いとか言われるもんね。……ここ異世界だけど。


 まあ、そんな糠も余すところなく私は使うんだけど!そして米……もといライスの食べ方もわかりますからね!私!!


「ライスが欲しいなら厩舎にあるし、持ってくるか?」

「お願いします!!」


 前のめりでダンの提案に食いついたらドン引きされたけど、走ってくれたのか直ぐに麻袋に入ったライスが登場した。しかも精米済みだ!嬉しい!!


「こ、これ……これ!夢にまで見たライス!」

「持ってきた俺が言うのもなんだけどさ、マジで食うの?」

「食うよ!!日本では主食だよ!飽きることの無いソウルフードよ!!」


 ルーはじめ三人組はゲテモノを見る目で見てくるけど、関係ない。

 袋の中のライスを手に取ると、精米してるのに糠も一緒になってるのがわかる。何故だ……せっかく精米したのに何故糠を取らないんだ……?だから臭いなどといわれるんだよ……?

 しかも、家畜にあげるだけなら玄米のままのが楽だろうに。

 不思議に思ったのでダンに聞いたら、たまに物好きというか懐かしいとかで食べる人がいるから精米も厩舎の貯蔵庫にあるんだって。

 玄米はタダ同然だから家畜にやるか貧民が食べるものという意識らしい。そして貧民出身の人がたまーーに、懐かしさで食べる、と。……どうしよう、その人とお友達になりたい……。


 ボウルにライスを盛る。だいたい3合くらいでいいかな?シェラカップで言うと180ccの所が1合分です。

 研ぐ前にザルに入れて振るうと糠が出てきた。これも後に使うので、袋に入れて保存。


 水で糠を洗い流す。最初は糠が沢山出るから付けたら揺らしてさっさと濁り水を捨てる。最初は素早く、絶対研がずに。じゃないと濁った水を乾燥しきってる米がどんどん吸うので素早くやる。

 何回かその作業を繰り返したら本格的に研いでいく。研ぐ、と言っても優しく拝むように。強い力でゴシゴシしてはならない。米が割れてしまうから。

 ある程度汚れが落ちたら、鍋に水と米を入れて浸水放置!


「ケイ様の料理って待つ時間多いよな」

「そう?でも、美味しいものは……」

「時間がかかる、ですよね?」

「そう!時間かける所はかけるけど、手抜きする所は手抜きする!これ大事!」


 何事も緩急が大事です。

 みんなもわかってるのか、笑顔で頷いてくれてる。

 なんて会話しつつ、浸水放置の間に精米したライスと糠を分けております。そのままだと虫が食べちゃうし。

 ザルに入れて振るうだけなので直ぐに済んだし、終わったら浸水もちょうどいい感じになっていた。


 鍋で炊く方法はとても簡単。

 初めチョロチョロ中パッパ、赤子泣いても蓋とるな……を基本にします。沸騰したら弱火にして、水気がなくなったら一気に強火!20分位で炊けます。その後蒸らして10分。はい、出来上がり!簡単だね!


「ほええ、これが、ライスですか?」

「嫌な匂いがしねえ!」

「むしろ美味しそうなのです!」

「つやつやぁ!」

「ふふふ、白米……これを!こうして、こうじゃあ!!!」


 温かいうちに十文字に切って炊きたてのライスを解す。そのまま食べても美味しい白米だけど、私はそうじゃなく……アレが食べたい。


 手塩をつけておむすびをこさえる!!あっついうちにやるのが美味しい秘訣だよ!


「できた!できたーー!これぞおむすび!」


 山型の可愛い形の出来たておむすびをひとくち!塩味にきゅっと舌が痺れる。もぐもぐと噛み締めると米の甘みがじんわり広がって塩味と混ざりあってとっても美味しい!

 久々のお米の味……うう、涙が出そう……。


 ゲテモノみたいに見てた四人も私が美味しそうに食べてるもんだから、じっと見つめております。

 ……いっぱい作ったからたんとお食べ……。

 無言でおむすびがのったお皿を差し出すと、待ってましたとばかりに手を伸ばす四人。


「んんー!美味しいです!」

「ライスってこんなうめぇのか!」

「こ、これは……!」

「噛めば噛むほどあまぁい!」


 良かった、みんなもライスの美味しさに気付いたようだね!?晩ご飯の後なのに食欲旺盛なのはさすが男の子だなあ、と思う。

 そんな中、ふるふると震えている人物が一人。……あ、この流れは……。


 ヤックがおにぎりを天高く掲げた。


「これは……神の食べ物です!」

「そうだよ?」

「「「「え?」」」」


 あ、いつもなら私の否定が入るこの場面で私が肯定したものだから四人の視線、全集中。


「この食べ物はおむすびっていって、日本では神の食べ物……供物として崇められております。ちなみに三角、この形の名前ね?……じゃないとおむすびじゃないし神の食べ物とは言えない。他の形はおにぎりといいます」


 それっぽいこと言ってると思われるけど本当にそうなのです。なんか神様が川から水を汲む時のなんちゃらが三角で、それを模したのがおむすびで……とかなんとか。三人は呆然としてるし、ヤックはキラキラした目で掲げたおにぎりを見つめてる。


 自分が食べて美味しいと思って掲げた食べ物が本当に神の食べ物……供物と認められたものだからその崇めっぷりったらない。


「決めました、僕はこのおむすびを広めます」


 ヤックが真剣な瞳でいうけど、誰もが冗談だと思ってた。……この時までは。


 それからあれよあれよの間に、ヤックは教会へおむすびの愛を語り、白米……というかおむすびはあっという間に神の食べ物、供物であると認められタダ同然だったライス(精米済)の値段も爆上がり。

 貧民層の食べ物無くなるじゃん!と思ってたら玄米は変わらずの値段だし、白米にする仕事があるとかで貧民層の働き口が出来て潤っているらしい。近々貧民層もなくなるのでは?との事なので国的には万々歳らしい。まじか。

 そして余ってたくらいだったライスの活用法や調理方法を樹立したとしてヤックは一躍時の人となるのであった……。


 ちなみに討伐騎士団ではカレーライスが流行ったので言うまでもなくライスは早々に受け入れられました。



 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る