閑話 とある騎士団長の決意
閑話 とある騎士団長の決意
「ウルファング、お前は明日召喚の儀にて訪れるであろう異世界人の守護者となり壁となり、危機の時はその命を捧げよ」
私が使える王宮の皇太子であられる、リュファス王子直々に命が下った。
明日はこの国で召喚の儀が行われる。
百年の儀式として古くから国民全員に少しずつ魔力を定期的に供給してもらい魔石へと溜め込み続け、今世で最高の魔導師や司祭を集め行う異世界人召喚の儀だ。
古くから何度か試されている召喚の儀には失敗することもあるとのこと。
詳しくは王族の秘匿とする事なのでそれ以上は説明もない。
ただ、過去には恐ろしい化け物が転移された記録がある、とだけ教えられた。
儀式は極秘に行われるらしく、王宮の高位の者しか知らないはずだったそうだ。それなのに一介の師団長である私が選ばれたのは訳があった。
それは我がウルファング家の血筋のせいであろう。
私には家督はないが色濃く血筋を継いだせいで師団長に選出されていた。そして今、憂いがある儀式の後始末的な役割を担えとの事だろう。
王宮が私の血筋を忌々しく思っているのと同時に便利に使うのは今更なので心情に応えはしない。
そして裏の意味はこうだろう。
――もしも召喚の儀が失敗をしたならば口封じに身を盾にしてでも殺せ――
――成功したのであれば、異世界人をあらゆる危機から命をかけても守り抜け――
溜め息が出そうだ。
気が重くなるが、仕方ない。私は王宮の犬なのだから。
そして迎えた儀式は成功した。
ちゃんとした人間が、ちゃんとした形で召喚された。
これで殺す必要はなくなったのだ。
謁見の間にて見る小さな異世界人は、皇太子殿下のお言葉に耳を傾けている。
歳はやっと成人したばかりだろうか?
普通ならば泣き叫んだり騒ぐ場面なのではなかろうか。もしも私が同じ立場であれば発狂しているだろう。それなのに、目の前の小さな異世界人は泣くこともせず、騒ぎもせず、ただそこに凛と居た。その姿に、見とれてしまっていた。
それもつかの間、異世界人は事もあろうに皇太子殿下に不敬を働いた。
普通なら打首だ。
しかし、私は見て聞いた。
凛としている姿、強い意志を持った目線の先、怒号の叫び。ともすれば野蛮と捉えられる行為だが、異世界人は震えていた。
小さな肩を震わせ、拳を握りしめて。
そうだ、あの人は必死で耐えて、我慢をしていたのだ。そしてまた、悲しみも……。
其の姿を見て、私はこの小さな人を守りたいと思った。
私の他に警備に当たっていた近衛騎士団の下級騎士が異世界人に群がる。それに抵抗する姿に駆け寄り護るように覆いかぶさった。
司祭様が止めていなければこの人を連れて私が暴れていたかもしれない。
私を見つめる目線に気付く。
黒い瞳はその芯の強さを現すように艶めき、大きく零れそうでこの国にない顔立ちは珍しく近くで見れば幼く見え、成人とも言えないのでは?と思った。
まあ、その考えは鑑定により覆されたが。
追放処分になったあの人はそれでも気丈に振る舞い謁見の間から出ていった。
私も同じく部屋から出て探したがすぐには見つからなかった。
王宮の隅から隅まで探してもあの人はどこにもいなかった。それでも、中庭に居るとの情報を得て朝から晩まで探し回った。
しかし悪しき血筋とスキルのせいで体力も限界に近く、気付いたら倒れていた。
次に気づいた時には私はあの人の前に居た。
看病され、施しを受け、神の食べ物を与えてくれた。
なんと心優しき人なんだ、と思った。
そして、私はあの人の涙を見ることになった。
異世界人、と私は好意を持ちつつどこか異端であると警戒していたが、ポロポロと泣く姿はどこにでもいる、普通の女の人だったのだ。
自身も迫害され利用されている立場なのに、私は……――。
心は決まった。
この身をかけても、私はこの人を護る。
たった一人、何も分からないこの異界の地でこれからか細く、しかし強く生きていくと宣言した、この小さな人に誓いを立てよう。
願わくばこの方が、ずっと笑顔で居られるように、と。
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