【50万pvありがとう!】わたしは美味しいご飯が食べたいだけなのだっ!~調味料のない世界でサバイバル!無いなら私が作ります!聖女?勇者?ナニソレオイシイノ?~
第20話 一石二鳥って素晴らしい言葉です
第20話 一石二鳥って素晴らしい言葉です
「団長さん、いらっしゃりますか?」
所変わって団長室前。
茶器が揃ったお盆に作ったパンプディングとラングドシャを乗せて持ってきた、なう。
なう、はもう古いのか。今はなんて言うんだろう。
団長室の重々しい扉をノックし……たかったけど出来ないので少し大きめの声で問い掛けるとしばらくの後、扉が開いて団長さんが顔を出した。
「ケイ様、どうされました?」
ちょっとびっくりしてる団長さんが出てきてくれた。
急な訪問だったし、慌てたのかな?
そして心做しか、少し顔色が悪いような。
多分さっき食事云々を聞いたからそんな気がするのかもしれないのでとりあえずスルー。
「お茶菓子作ったので休憩しませんか?」
「お茶菓子……ですか?それは……」
「あー!すみません、こっちにはそういう習慣ってか、概念が無いんですよね!んーと、軽い……食事?かな?」
「食事ですか……」
難色を示す団長さん。
ふーむ、おやつとかなんて説明したらいいか分からない。
「お茶を飲みながら少し休憩しましょう、という習慣ですよ。それに少し相談事もありましたし……」
「そうですか。では……どうぞ?」
「失礼します」
ぺこっと頭を下げてから入室。
すっ、と持っていた茶器の盆をスマートに持ってくれるので流石としか言えない。
そのまま促される形で応接用のソファに対面で座る。
茶器の盆を団長さんがテーブルに置いてくれたので、まずはお茶を注いだ。
この世界のお茶はどことなく薬っぽい味がする。どくだみ茶みたいな、そんな感じのお茶だ。嫌いでは無いのでそれはいいのだけど、今回は団長さんに、ということなので元の世界から持ってきている紅茶……――と言っても安物のティーパックだけど――を入れてきた。
「珍しい……香国のお茶のようですが……?」
「これは紅茶という、地球の……んと、私の故郷で売ってる外国のお茶です」
「……複雑ですね?」
「言葉にすると複雑ですが、世界中どこでも誰でも買えるほど飲まれてるものですよ」
「そうなのですか。それにしても、とてもいい匂いです」
団長さんの前に茶器を置きながら説明すると、その香りを楽しむようにカップをくゆらしている。
ワインでそうするのみるけど、紅茶にも適応するのか?よく分からないけど。
そして一口飲むと団長さんは微笑んだ。
「美味しい……紅茶、でしたか?これは飲みやすいですね」
「安物のティーパックですけどね、入れ方は拘りました」
「これが安物……地球とは本当に凄い所なのですね。レイスディティアでは高級品になりますよ?」
手元の紅茶を見つめつつ感慨深く団長さんは言う。
ここと文化が違うのだから当たり前なんだけども。当然違う事も逆なことも山ほどある。こんな安物のティーパックでも、ここでは高級品になるのだ。
紅茶に感動してる団長さんの前に振り分けておいたパンプディングとラングドシャをそっと置く。
不思議そうにそちらを見ると、カップを置いてまずはとラングドシャに手を伸ばした。
「それはラングドシャといって、焼き菓子になります」
「……甘くて、サクッとして、口の中で解けていきますね。面白い食感です」
「猫の舌、と言う意味らしいです。薄いから、みたいな」
「ネコ……ほほう、今度見て見ましょうか」
こっちの世界ネコいるのか。
お菓子の名前の意味を教えたらめちゃくちゃびっくりしてた。
……もしかして私の知ってるネコじゃないかも知れないけど。なんか同じ名前の何かがいるのは分かった。
そのあとも、二、三枚食べては紅茶を飲みつつ感想をくれたけど団長さんは食リポ上手だった。でも甘いものあまり好きじゃないのか、パンプディングに手を伸ばして食べるけど、パンプディングもほかの騎士達と同じような感想の後、一口食べてはまた紅茶飲んでた。
「団長さん、甘い物苦手です?」
「美味しいですよ?」
「味噌汁の時と反応が違ったので……」
「あれは神の食べ物ですから!」
はい!今日一番の笑顔ありがとうございましたー!
完食はしてくれたけれど、団長さんはどちらかと言うと紅茶のが気に入ったみたいだ。
甘い物より紅茶なら、コーヒーも好きかもしれない。今度持ってこよう。
「この、お茶菓子というのはいい習慣ですね。先程までの疲れが取れました」
「本当ですか?じゃあ、次は違う物をお持ちしますね」
「是非」
笑って頷いてるから悪い気はしてないんだろう。
うん、お茶飲んだら団長さんの顔色、良くなった気がする。
「……ところで、相談というのは?」
一息ついたところで団長さんが話のきっかけをくれた。お茶を飲んでるあいだ、他愛ない話ばかりしていて本題を忘れていた。
「あ、そうだった。あの……食事の事なんですが……」
「ああ……騎士達、でしょう?……報告、というか嘆願書がポツポツと上がってきてます」
「へ?!」
「ケイ様に、この宿舎の料理番になって欲しいとの嘆願書です……私としては却下しようと思っていたところで……」
「その事なのですが!」
渡りに船、とはこういうことだ!
ここに来て三日ほどしか経っていないのにも拘わらず、もう嘆願書が出ていたのはびっくりしたけど、これで交渉しやすくなった。
「要望には応えたいですが、私一人で全員分の食事を毎度作るのは正直辛いです。なので代案ですが、自分の食事を自由に作らせてもらう代わりに作り方などを他の騎士にも教えたいと思うんです。今の見習いの子達が学習して存続して作って貰いたいなと思いますし、それを騎士達にも教えてみんなが作れるようにしたいと思うんです」
反論、というか余計な事を考えさせないようにわざと怒涛の如く捲し立てるようにして意見を口にした。
そんなわたしをびっくりした瞳で見る団長さんだけど、私の意見を咀嚼し、掻い摘んで一番気になるであろう事を質問してきた。
「作り方を、見習い騎士達だけでなく、騎士達にも……ですか?それはどういった意図で?」
「はい!調理技術が上がれば野営とかの時に助かるんじゃないかなって。腹が減っては戦は出来ぬと日本では言うので!訓練の一環として受け入れてもらえれば私が講師として教える事ができます!」
そうなのだ。私の考えたことは2つ。
一つは騎士達みんなに作り方もしくは、レシピを公開して誰でも作れるようにすること。
そうすれば一人一人の調理技術も上がるし野営時美味しいご飯が食べられて困らないし、ご飯美味しくて士気も上がると思うし、なにより訓練の一環として扱えるのでは?と思ったのだ。
料理を教えながら出来た料理を振舞って、それを騎士達が食べて多少騒ごうが訓練なのだからライオネルも、そうそう口を出せないはず。
そしてもし、近い将来私が居なくなっても困らない、という訳だ。
そしてもう1つが……
「作ったものを試食する人は絶対居るので、そこは訓練に関係無い団長さんと、副団長がいいと思います。元いた世界では、そういう専門の機関があったんです。もちろん、二人の分は責任持って私が作ったものを献上しますので」
私が言ってるのは保健所の検食の事なのだけどね。この世界には必要ない事だけど、今回ばかりは制度を利用させてもらいます!
こうすれば団長さんの食べない問題は解決するだろう。団長として訓練で作ったものを食べなければならないという大義名分を与えたのだから。そしてあわよくばライオネルの胃袋も掴めるかもしれない……という、1つで2つ美味しい一石二鳥の作戦なのだー!
「腹が減っては戦は出来ぬ……ですか」
「はい、有名な人が多分言いました!こちらの世界の、ですけど!」
「……言い当てられたかと思った……」
「へ?」
「いえ、なんでもないですよ?」
団長さんは少し難しい顔をした後、しばらく考え込んだ。
私はなんともない振りをして、紅茶を飲む。
内心はバクバクしている。
「……わかりました、ケイ様にご負担がないのならば」
「本当ですか!?」
「はい。しかしくれぐれも御無理はなさらないでください。辛くなったらすぐにでもやめてくださいね?」
「大丈夫です!じゃあ、早速仕込みしないと!もうすぐお昼ですからね!」
許可を貰ったことでウキウキとはやる気持ちを抑えきれず、ぐいっとのこりの紅茶を飲み干し片付け始める。
そんなわたしを眺めながら、団長さんはクスクスと声を出して笑っているのに気付いた。
「な、なんですかっ、?」
「いえ、かわいいな、と思って」
「へあ!?」
「食事に一所懸命な所が見ていて楽しいです」
「なっ!!食いしん坊とか思ったんですか!?」
「……さあ?」
ニヤ、と笑う団長さん。
この笑みの時は何か企んでそうで、それでいて意地悪で、なんというか……大人の魅力たっぷり、という妖しい感じがして苦手だったりする。
ぐぅのねも出ないので、ここは早めに退散しておくが吉!
「どーせ私は食欲魔人ですよーだ!お昼ご飯、覚悟しててくださいね!!」
団長さんの分の食器も早々に片付けて、去り際に捨て台詞を吐いた。
昨日から翻弄されっぱなしなのが悔しいので、お昼は絶対めちゃくちゃ美味しい物を作ってやる、と心に決めたのだった。
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