第12話 料理は基本、ズボラです


「……ということで出来ました!」


 マヨネーズに夢中になってるルーを無視して……というかその隙を狙ってさっさと作ることにした。

 じゃないといつまでもお料理聖女様ってうるさいんだもん。違うよって言ってるのにね?


 とりあえず私が拵えたのはマヨネーズを除いて三つとおまけの一品。


 ひとつは甘い白ワインにはちみつを加えて混ぜたものを瓶に何個か作る。これはみりんの代用品になる。

 もともとみりんは酒と砂糖で出来ているから、混ぜておかなくても代用できるし、いいんだけど、便利さを求めて混ぜて冷蔵庫で保存しておく事にした。そうした方が熟成されて良い味が出ると思うんだよね。


 後はリンゴを適当に切って煮沸消毒したビンを何個か作ったからその中にりんごと水を入れる。

 ちなみに煮沸消毒は沸騰したお湯の中にビンを入れて煮詰めることによって菌を殺すこと。


 これも、科学……じゃなく生物や公衆衛生の知識だけどルーにはそういう概念がないから、説明するとめっちゃ食い気味で質問やらされたから困った。


 この世界なら浄化で一発解決なんだけど。

 どうしてそうなるのか、そうする必要があるのか、の工程や概念概論は知らないと魔法だって意味がないと思うんだ。


 そしてリンゴの他にドライフルーツが数種類あったので、ついでにそれも各種水につけた。

 ちなみに干しぶどうや柑橘系、イチゴっぽいものがあったので適当に見繕った。

 これらは天然酵母をつくるためである。


 そう、あの硬いグルテンの塊のパンを変えるべく、私は試行錯誤をしようとしているのだー!


 天然酵母は不安定だから何個か作っておけばどれかが綺麗に膨らむ天然酵母となるだろう。それを種菌にして増やせば安定した酵母が常に作れるという戦法よ!

 何事も保険が必要。それに種類の違う天然酵母を混ぜることによってふくらむ率も高くなるんだよね。


 一週間くらいでできるから、それまでガス抜きしつつ混ぜて酵母を育てる……というのを繰り返す。

 だからパンを作るのはそれ以降だ。


 そして最後にリンゴと白ワインビネガーとはちみつを入れておく。これはりんご酢を作りたかったから。

 この世界どう考えても高血圧の人多いと思うんだよね。確かりんご酢が身体に良いって聞いたことがあるから……ちょっと作っておこうかなって。


 あとはあまったワインビネガーでピクルス作り。

 ビンの中に野菜を詰め込んでワインビネガーと砂糖と塩を混ぜたものを入れて漬け込んでおく。これはワインビネガー液があるだけ作ったから結構量がある。

 

 まあ、材料あまったからついでってのもあるんだけどね。


「この短時間で四つも作るなんて……やはりケイ様只者ではないですね!」

「今すぐにどうのってやつは無いけどね。それにちょっとそういうのに詳しい学校に通ってただけだよ」


 日本にいた頃、家政に詳しい学校だったからこその知識だ。うろ覚えなのもあるからあとは実験していって……という感じ。何事も失敗を恐れずにやることが大事だもんね!失敗は成功のもとなのだ!


「本当はもっと色々教わりたいのですが……そろそろ夜ご飯を作らねばならないので……」

「え!?またあの塩辛いメニュー……っ!?」


 あからさまに嫌な顔をしてしまった。

 ルーがなんとも言えない表情をしている。……しまった、ここの食事はルーを始めとして下働きの見習い騎士が交代制で作ってるんだった。

 作ってる本人を目の前にして不満をぶつけてしまうなぞ!やばいやばい!


「あ、ごめん!ついっ、あの…… 」

「いいんですよ、ケイ様。お口に合わないのでしょう?」

「ううぅ……ごめん、私にはここの食事は塩辛くて……よかったら場所貸して貰えない?夜ご飯、私の分は自分で作ってもいいかな?」

「どうぞ気兼ねなく使ってください!僕もお手伝いします!」


 ルー!なんていい子なの!

 今日初対面なのにこんなに懐いてくれて、しかも自分のテリトリーだろう場所も嫌な顔ひとつせずに貸してくれるなんて……!やっぱり心を開いてくれたきっかけはマヨネーズかな?美味しいものは世界を救うからね。


 調理場を貸してくれるお礼にルーに作ったマヨネーズを提供した。

 大事にするとかでビンに詰めて冷蔵庫に保管してた。

 また作ってあげるし、レシピ渡して今後も作れるようにしといてあげよう。


 さて、ルーという調理場の管理者から許可も貰ったし、団長さんからも食材を使っていい許可はある。

 何を作ろうか。

 あまり凝ったものは作りたくないし……


 あ、そうだ。


「ちょっと1回、自分の部屋から調味料とってくるね」


 そう言って私は借りてる部屋に戻った。

 確か女神様は調味料もチート仕様にしてくれていたのを思い出したのだ。そしてそれを試してみようと思ったのである。


 バックパックから調理道具とスパイスボックスを取り出す。

 調理道具は海外の某有名なメーカーの折り畳みナイフで私はNo.9を愛用している。ちなみに黒鯖加工済である。

 あとは簡易まな板とシェラカップ、コーヒー用のドリップセット、折り畳みカトラリー……等。

 これがどうチートになってるかは分からないけど壊れないとかそういう感じだろう。


 そして今回の本命、スパイスボックスー!


 実は私、スパイスジャンキーなのでキャンプスパイスはほぼ全網羅しているのである。

 今、手元にあるだけでも数種類あるのだけど、これでも厳選したスパイスコレクションの一部だ。

 ほりかわシリーズ、黒田のスパイス、mottekeシリーズ、ちこりんmax……などである。


 そのまま瓶でスパイスボックスに詰め込んでいる。


 あとは基本の塩、コショウ、味の素、砂糖、醤油、油、ケチャップ、マスタード、タバスコ、カレールー……という所だ。

 カレールーはちょうどキャンプ場でカレーを作ろうと思ってたから箱ごと持ってきている。

 団長さんに飲ませたインスタント味噌汁も減らずに復活してるのでこれもある。


「んー……めんどくさいしスパイスボックスごと持っていくか」

 

 私のスパイスボックスはよくある木箱を縦にしたやつだ。DIYして自分で作った自作ものである。バイクに載せられるようにちょっと大きめにしてるのが良いところで小分けしたくないから調味料はそのまま入る。

 大きさ的にはよくドラマで見るジュラルミンケースくらいはあるんではなかろうか。

 開けて左側にスパイスコレクションと小物を入れる引き出し(ティーパックやらコーヒー豆やら入ってる)、右側に基本の調味料……という並びだ。

 なので閉めてしまえば簡単に持ち運び出来るように鍵と取っ手付きなのでズボラキャンパーの私にピッタリなのである。

 実は片付けが苦手なので、簡単に設営&撤収が出来るものが大好きなのである。


 ズボラ故に、我、効率を求める者なり。


「この、中身が減らないってところを確かめて見ますかねー」


 未だに女神チートが信じられない私です。


 調理場についたら丁度戦場になっていた。

 そりゃそうだよね、もうすぐお腹が空いた騎士達がこぞってやってくる時間なんだろう。ルーも忙しそうに他の見習い騎士達に指示出してるもんね。なんか声掛けづらいなぁ。


 ……でも浄化は必要だし……。


「自分でしてみるか……‘浄化’」


 呟いた瞬間、ぶわっと自分を含めた調理場全体にキラキラとした光の粒が広がる。

 綺麗だなあ、なんて呑気に見ていたら何だか調理場が輝いているのが分かった。

 ……ん?なんか綺麗になってるな、調理場。

 ふと気付いたら、調理場にいる騎士見習いが驚愕の表情で全員こっちを見ていた。


 あちゃーという感じでルーが頭を抱えるのも見えた。


「あはははは……私、またなんかやらかしました?」


 その言葉に見てはいけないものを見たという表情に全員が変わった。

 やらかしたな、と確信したけど後の祭りでした。

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