体育祭を終えて
ーー冬夜ーー
体育祭も無事に終わって俺は1人帰路についていた。本当なら久々に集まったみんなでどこか食べに行ったりするのだろうが俺はそれを断った。どうせお疲れ様会はあるしな。
綾香がいるから、という理由で断ったけどその綾香がなにもせずに帰ってくるかはわからない。高校生だしお疲れ様ということで何かしていてもおかしくはない。けどなんとなく今日はすぐ帰ってくる予感がしたのだ。
家に帰ると流石に俺の方が帰るのが早くまだ綾香は帰ってきていなかった。
「家事だけしとくか」
晩御飯はちょっと豪華にお寿司の出前を取っている。最近は配送サービスが多くてこういう時に助かるな。とそんなことを考えつつ洗濯物を畳む。
「もうすぐ半年か……」
綾香と同棲を始めたのが5月。11月には半年だ。あと2ヶ月なんてあっという間だろう。綾香が来たばっかりの頃なんてお互いの下着を畳むのがまず出来なかったな……と思い出す。
今でも俺は慣れていないが。好きな人の下着を畳むのになれるなんてきっと結婚してからでもじゃないと無理だろう。綾香もきっとそうだと思う。
大体畳み終わった頃に玄関が開く音がする。綾香が帰って来たんだろうと思って迎えに行く。
「おかえり」
「ただいま」
「特に打ち上げとかなかったのか?」
「あったけど断っちゃった」
「そっか」
「うん。あ、お風呂入ってもいいかな?汗かいたし」
「さっき入れ終わったし入っていいよ」
「ありがと、じゃあ入ってくるね」
「おう」
なにか変だ。いつもならもっとからかって来たりとかするのに何も無い。それはそれでいいことだけど綾香の身に何か起きたのだろうか、と軽く確認してそれに気づく。
「綾香」
「なに?」
「左手、どうした」
「これ?片付けの時にぶつけちゃって」
「嘘だろ」
「……信じてくれないんだ」
「綾香は嘘を付く時ちょっと口角があがるんだよ。というより表情を作ってるからな」
「……ばれちゃうか」
「当たり前だろ、何があった?」
「これはね、思っいきり壁を殴っただけだよ」
「……ん?」
「うーん……詳しく説明するのは後でもいい?」
「いいけどそれの消毒とかさせてくれ、そのまま風呂に入れたくない」
「わかった」
1度リビングで処置を施してからお風呂に入れる。話はそれからだろう。
綾香から風呂から上がって、俺も風呂に入った。そして頼んでた寿司が届いて食卓に並べる。お互いいただきます、を言ってとりあえず食べ始める。
「ん、おいしいね」
「だな」
寿司は美味かった。お互い先程の雰囲気を忘れて楽しむほどに。
殆ど寿司を食べ終わった頃に俺はようやく話を切り出す。
「それで、なにがあったんだ。手の怪我はなんとなく想像つくけど、機嫌が悪いのは別だろ」
「ほんと、なんでもお見通しだね」
「綾香だって俺の事はわかるだろ」
「そうだけどね、けど今はそれが特に嬉しいかも」
「そっか」
綾香かどう思っているかはわからないけど今は静かに話を聞くことにしよう。
「ちなみに冬夜くんの予想聞いても?」
「……悔しいからとか、かな?」
「正解。あーあ、ほんとなんでもお見通しなんだね」
「まぐれだよ」
ただ綾香の性格からしてそうだろうな、と想像しただけだ。
「そ、これはちょっと悔しくて、やったんだけどね。やりすぎたかも」
「ほんとだよ、頼むから体は大事にしてくれ」
「うん、今度からは気をつけるよ」
綾香の手の傷は幸い表面を広く擦りむいているだけだ。けど痛くないわけがない。
「それで、なんで機嫌悪いんだ?」
「長くなるけどいい?」
「もちろん」
「私さ、本気で冬夜くんに勝とうとしてたの。例えスタートが同時でも、私が遅くても」
「うん」
「結局勝てなかった、それですっごく悔しくて、家に帰ったら冬夜くんに仕返ししよう、ぐらいの気持ちだったの」
「仕返しの内容は聞かないことにしよう」
「けどさ、それをよく頑張った!とか、仕方ないよ、で済まされてさ。ちょっとイラッてなってて」
「うん」
「でもそれぐらいは我慢できたの。私だってその言葉ぐらい理解できるし」
「うん」
「でもね、冬夜くんが本気出てたのが悪いとか、そういうのが聞こえて……それで」
「それで、怒ったのか?」
「ううん。我慢はしたよ。けど不機嫌なのはバレてるかも」
俺だけがわかるってぐらいじゃなかったしな。寧ろ俺の前では隠してるように見えた。ならきっと他の生徒の前では良く見ればわかってしまっているかもしれない。
綾香だって自分がどういうので怒っているかは理解しているはずだ。それが世間一般からすればしょうもないことだ、ってことも理解しているだろう。
けど俺にとって綾香が1番大切なように綾香にとって俺は大切な存在なんだろう。だから侮辱するような言葉は許せなかったのかもしれない。
と、大切な話をしているにも関わらず俺はつい口元がニヤけるのが抑えられなかった。
「冬夜くん?何笑ってるのかな?」
「……ごめんごめん、だって嬉しいからさ」
「……なにが」
「俺の事をそれだけ大切に思ってくれてるってことだろ?」
「あ…………ぅん」
「それが嬉しくてな」
「……ばか」
「さてと……綾香、今日は何されたい?」
「……ふぇ?」
「要望がないなら好きにするけど」
恋人が落ち込んでいるのだ、それを復活させるのは俺の役目だろう。そしてそれに最も適している行為は今なら甘やかすことだろう。
「じゃあ……たっっっっくさん、甘やかして欲しい」
「わかった。なら家事が終わるまで待っててくれ」
「ん、ソファで待ってるね?」
「おう、何か飲むか?」
「んー、甘いミルクティーとプリンがいいなー」
「すぐ用意するよ」
それからなるべく早く家事を終わらせて、俺は綾香と同じベットに潜り込む。
そして出来うる限り沢山綾香を甘やかした。
そのお陰というか、せいというか、綾香が蕩けて離してくれなかったはいい事なのかな?
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