体育祭スタート
文化祭の時と同様に綾香は先に学校に行っていて、俺は体育祭が始まる直前に学校に着いた。
着いてグラウンドを除けば丁度開会式をしている所だった。周りを見ると保護者は少ないがちょいちょい卒業生と思われる人がいる。後は地域の人とかだ。
高校の体育祭なんてそんなものか、と1人納得してグラウンドの隅に向かう。
午後には自分も競技に出るがそれまでは暇なので大人しく観戦していよう、着替えも昼ごはんの後にするし。
グラウンドを一望できる隅っこに立ってスマホのカメラを起動する。一応綾香を探してみるが、これが中々見つからない。人数が多いんだよ。
「七草、盗撮は良くないぞ」
「……俺は保護者なのでセーフです」
「その言い逃れもどうかと思うがな」
声をかけてきた人物は例のごとく白石先輩と春香先輩の2人だった。
「今日は舞先輩はいないんですね」
「まぁ競技も出ないしな、呼んではいるが今はどうせ寝てるだろう」
「意外と起きてるかも知れませんよ」
「舞に限ってそれはないと思うよ、七草くん」
ずっと一緒にいた春香先輩が言うならそうなのだろうと納得してグラウンドに視線を戻す。
開会式も終わって準備体操をしているところだ。よく聞く音源が流れていてそれの指示通りに生徒が各々体操をしている。
体操と言うことで生徒同士の感覚が空いているから俺はようやく綾香を見つけられる。
「お、見つけた」
「……婚約者の子か」
「そうですよ」
「弟くんはいいのか」
「あいつより綾香を撮りたいんで」
「君は少し隠してくれてもいいんだぞ、その気持ちを」
「なんで俺が遠慮しないといけないんですか」
「私の気持ちを考えろ」
「惚れた方が負けらしいですよ、この世の中」
「扱いが酷いな!?」
今は綾香を撮ってるんだから集中させて欲しい。というかちゃんとしたカメラを持ってくればよかった。若干の後悔をしつつ俺は退場していく生徒達を見る。
放送で生徒に招集がかかり1つ目の種目に出る生徒が入場門へと移動する。
綾香の出る200m走がちょうど1つ目の種目なので引き続きグラウンドを見続ける。
「綾香ちゃんは200mに出るんですね」
「そうですね」
「ではライバルの偵察と行きましょうか」
「なんでちょっと上からなんですか」
「年上ですので」
そんな話をしていると足音が1つ近づいてくる。
「お、七草みっけ」
「お久しぶりです、駿河先輩」
「別にもう先輩呼びしなくてもいいんだぞ?」
「この方が慣れてるんで」
「ふーん、まぁいいか。春香も愛莉も久しぶり」
「久しぶりだな」
「久しぶり、
やってきたのは一緒に走るメンバーの1人、駿河 絵里先輩だ。身長が女性としては高く170cmあってモデルの仕事をしているらしい。
それもあるのだろう、今日着ている服も体育祭観戦だと言うのに動くことなんかを想定してなさそうな服だ。砂埃とかで汚れる心配をしてないのだろうか。
「んで、七草の嫁さんは?」
「今から競技に出ますよ。確か3回目ですね」
「ほー、見つける特徴は?」
「綺麗な黒髪ロングで引き締まっているけど出るとこは出てる体、常に笑顔で可愛いです。あぁ、隣の人と話してますね。手を振ったら恐らく気づいてくれますよ。ほら、あそこ、可愛い子がいるでしょ?」
「お、おう……そだな」
「どうしました?」
「いや、見たことない一面に驚かされた」
「………………すみません」
「いやいや、寧ろお前がそこまでお熱なのがわかってよかったよ」
「そう言って貰えるとありがたいです」
そうこうしているうちに最初の種目、200m走が始まる。この競技は各学年4人が選出されて走る。最初に男子の部をやってその後女子の部をする。綾香は女子の部の最初だ。人数の配分は各レース6人でそれぞれ学年から2人でる。
とりあえず男子には興味ないと思っていたがどうやら春弥が出るらしい。スタートラインに立っているのを見てそれに気づく。
「おや、春弥君が走るんだな」
「みたいですね」
「知らなかったのか?」
「種目の事なんて話してないので」
「なるほど」
スタートの合図がなって一斉に各走者が走り出す。
200mということもあって皆飛ばしている。
「結構速いな」
「ですね」
白石先輩と春香先輩が競技を見てそう呟く。が、俺は違う感想を得た。それを口に出すでもなく黙って観戦をする。
直ぐにゴールして行って春弥は2位だった。上々の結果だろう。
「2位とは中々やるな」
白石先輩は妹と春弥がいい感じなのを知ってるし気になるとこでもあったのだろう。
直ぐに次のレースの準備がされて生徒達が並んでいく。
「俺はちょっと移動してきますね」
「そうか、私たちはここにいるから。そうだな……最低でも昼休憩の前には1度来てくれ」
「わかりました」
綾香の勇姿を見るべく俺はなるべくグラウンドに近づく。司会席の横にある保護者席に座ると綾香が直ぐに気づいて満面の笑みを浮かべる。軽く手を振ると振り返してくれる。
周りの保護者からは少し変に見えたかもだか綾香の為なら問題ない。
男子のレースはいつの間にか終わっていて綾香がスタートラインに立つ。
「頑張れ、綾香」
綾香には聞こえないような声で呟くがそれに気づいたかのように綾香は俺にピースサインをする。
そしてスタートのピストルが鳴った。
瞬間、綾香は一気に加速をして1位に踊り出る。後続も追いかけるが差は離れていく。
グラウンド中の視線を独り占めにして綾香は堂々の1位でゴール。
そのまま息も切らさず俺のとこに駆け寄ってくる。
「見てた!?」
「ああ、1位おめでとう」
「えへへ、ありがとっ!」
それだけの言葉を交わして直ぐに待機列に戻っていく。走り終わった生徒が若干訝しむような目で見てくるがそれらは全て視界の外においやる。
まぁ走り終わっていきなり誰かのとこ、しかも男にいけばそうなるか。いくら文化祭の時とかで知られてるとはいえ一部だろうし。
俺は席を立って退場門の方へゆっくり歩く。4レース目が始まった音が聞こえて何となく観戦すると、黒ちゃんが走っていた。
普段の言動から想像できるぐらいの速度で走る。綾香程とは言わないが速い部類だろう。
まぁ皆、目が奪われるのはそれだけではないだろうが。
そんなことを考えながら退場門で綾香を待つ。そう長いこと待たずに綾香が帰ってくる。
「お疲れ様、綾香」
「1位取れてよかったよ」
「凄かっな、惚れ惚れする走りだった」
「そう?そう言って貰えたら走った甲斐があるね」
多分汗をかいているのと人前ということでいつもみたいなスキンシップはしてこないが上機嫌なのはわかる。
俺からもなにかしたい所だが綾香が控えてる以上特にすることもない。けど我慢出来ないのでちょっとだけしよう。
「改めて、お疲れ様」
「んっ……ありがと。これでお昼まで頑張るよ」
「ああ、頑張ってくれ」
恐らく綾香の同級生からキャー!と声が上がる。綾香には頑張って貰おうと気持ちをこめてもう少しだけ頭を撫でて俺はその場を離れた。
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