冬夜のお爺ちゃん
ーー冬夜ーー
俺が家に帰るとほぼ同時にスマホからメッセージがきたという通知が来る。
内容は綾香が今日帰るのが遅れると言うもの。なんでも文化祭の準備が長引いているらしい。
わかった、とだけ返事を送ってとりあえず洗濯物から片付けていく。取り込んだあと服を畳んでいると電話がかかってくる。
「もしもし」
『もしもし、冬夜か?』
「うん、久しぶり。爺さん、元気してた?」
『もちろんだとも。そっちもうまくやっとるか?』
「ああ、特にミスとかはしてないよ」
『それならよい、だが油断はするなよ?その時が1番ミスを犯すからな』
「重々承知してるよ」
『それで昼の連絡はなんだ』
「うん、ちょっと杞憂かもしれないけど事前に聞いて起きたいことがあってね」
『ほう』
「爺さん家の使用人の服って借りれる?」
『問題なく貸せるとも。何着いる?店でも開くのか?』
「店は開かないけどね、綾香の文化祭で使うかもだから」
『なるほどな。必要な分だけ言ってくれればいつでも持って行けるようにしておこう』
「わかった。男女10着ずつ欲しいんだ」
『了解した──おい』
爺さんが使用人の人と話す。多分準備用意しろって言っているんだろうと思い少し黙る。
『準備は出来たぞ』
「ありがとう」
『そう言えば淡水の嬢さんとはうまくやっとるんか』
「まぁまぁね」
『お前は変に奥手だからな。あまり誤解を生まないようにするんだぞ?』
「それは十分に注意してるよ」
『そうか、後今年の夏は家に来るんだろう?』
「だね、どっちにせよ母さん達がいくし」
『それもまた日付だけ言っといてくれ』
「わかった。細かいことはまた言うよ」
『うむ』
ほんとうちの爺さんはまだまだ現役だなと息を吐く。なんでこの爺さんからあの父親が生まれたかが本当にわからない。
「あ、そうだ」
『どうした』
「まだビーチって持ってる?」
『持っているとも。使うのは使用人だがな』
「ちょっと借りたいんだけど」
『……なるほどな』
「借りたいの一言で全てを察しないでくれるかな」
『好きな子を独占したいのは当然の欲だろうに。ならそれ相応の手段を取るだろう。お前は』
「爺さんほんとにもう80超えてるんだよな?実は60とかじゃないよな」
『はっ、
「曾孫どころかその子供すら見れそうな元気だな」
『それも楽しみだな』
「それでビーチは借りていいのか」
『1つ頼みを聞いてくれたらな』
「……頼みって」
こういう時の爺さんの頼みはだいたいロクなものじゃない。毎回俺に試練ってレベルの頼み事をしてくるんだよ。
『嬢さんの飯を食わせてくれ』
「……緊張して損したわ」
『ん?何を言われると思った?』
「自分と勝負しろとか言うのかと」
『なんだ勝負がしたいのか』
「勝てる未来が見えねぇのはしない」
『今なら3割ぐらいあるんじゃないか?』
「それでも3割しかないんだよ」
流石に歳の爺さんと体力勝負はしないが昔から将棋や囲碁、チェスはよくやった。1度も勝ったことないけど。自分に自信が持てなくて使用人の人とやるとボコボコに出来るので実力差を毎回感じていた。
『
「あの人も強かったな……」
『自信があるみたいだな』
「今なら負ける気はしないよ」
『儂と毎週やっとるぞ、あいつは』
「それでも負ける気はしないね」
『ならお前が葉山に勝てばビーチを貸そう』
「わかった」
『日はいつだ』
「綾香が夏休み入ってからだな」
『いつでもこい。歓迎するぞ』
「ありがとう。勝負は何をする」
『昔のままでいこう』
「将棋、囲碁、チェスの3本勝負だね」
『だかルールは少し変えるぞ』
「と言うと?」
『勝利条件は葉山が1勝するかお前が全勝するかだ』
「わかった」
随分な自信だな、と爺さんに言われる。確かに昔は葉山さんには今の俺と爺さんぐらいの実力差があった。けどそれは中学生の時だ。勝つための努力は怠ってないし今なら勝てる自信がある。
『精々期待を裏切るなよ』
「あぁ、期待しててくれ」
『でも嬢さんの料理も必要だからな』
「どんだけ食べたいんだよ……」
『気になるだろうが!』
「そんなに元気に言わなくても」
それからは少しだけ世間話をして電話は終わる。気づけば1時間も経っていた。
「さて……晩御飯でも作るか」
洗濯物は終わらせて晩御飯の準備に取り掛かる。先程綾香からメッセージが来ていてもうすぐ帰ると言っているのでなるべくすぐ食べさせてあげたいし。
それから30分もしないうちに玄関を開く音が聞こえた。
「ただいまー」
「おかえり、晩御飯とお風呂どっちにする?」
「冬夜くんって選択肢は?」
「それは最後までお預け」
「むぅ……じゃあ晩御飯にする。お腹すっごい減ったし」
「わかった。今から仕上げするからちょっと待っててな」
「はーい」
ちなみに今日の晩御飯のメインはラザニア。ミートソースを作り置きしておけば結構簡単に作れるのでオススメ。他に野菜とか汁物用意するだけだし。
それから俺たちは晩御飯やお風呂などのやることを終わらせていった。
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