羞恥に悶える朝


ーー綾香ーー


 いつもよりかなり早い時間に目を覚ました私は珍しくシャワーを浴びていた。というのもそうでもしないと落ち着かないからだ。


 現在の時刻は4。昨日寝るのがかなり早かったとはいえ起きるのも早くなる必要なんてないと思う。せめて5時とかがよかった。


 シャワーを浴びてしっかりと髪を乾かして洗濯を回してから自分の部屋に戻る。そしてそのままベットに倒れ込み……


「…………っ!!」


 昨晩のことを思い出して足をバタバタさせる。自分はなにをしていたんだろうか。いや流石にやりすぎでしょ。よく考えなくてもベビードールとタイツっておかしいでしょ!誘ってるの!?私相当な変態じゃん!


 心の中で叫んでどうにか羞恥心を発散する。そうでもしてないとほんとに辛い。冬夜くんがほとんど覚えていないことを祈るしかない。服装は仕方ないとしても行動はせめて……忘れてて欲しい……


「はぁ……なんでいっつもこうなっちゃうかな……」


 冬夜くんが隙を見せた時私はいっつも暴走している気がする。今回とか特に。ベビードールなんて普通の高校生は着るどころか買うことがないと思うんだよね。偏見だけど。


「……でも冬夜くん可愛かったな」


 スマホを取り出して昨晩撮った写真やら動画やらを見返す。まるで子供のような反応をしていた冬夜くんが可愛くて、愛おしくて1人でにやけてしまう。


 その動画や画像達を忘れないうちにPCにバックアップをとりスマホに1つの画像を表示した状態でベットに転がる。


 そのスマホを胸に抱えて私は目を閉じる。あまりに早く起きすぎたのでまだ1時間ぐらいは余裕がある。念の為アラームをかけて私は幸せのなか眠りについた。



ーー冬夜ーー


 

 アラームの音で目を覚ます。身体の軽さや思考のクリア具合はここ数年で1番と言っていいほどだ。あまり記憶はないが昨晩綾香が色々としてくれたのだろう。


 リビングからは僅かに生活音が聞こえるので綾香はもう起きて朝の支度をしているらしい。


「全く……頭が上がらないな……」


 洗面所の鏡で身体に痕が一切残っていないことを確認してからリビングに向かう。


「おはよー、冬夜くん」

「おはよ、綾香」

「よく眠れた?」

「おかげさまで。昨日はありがと」

「うん」

「まぁほとんど覚えてないけどな」

「どこまで覚えてるの?」

「風呂上がってからはほとんど覚えてない。というか曖昧だな」

「じゃあ相当疲れてたんだね」

「久しぶりに感じるタイプの疲れだったし仕方ない」


 思えば同期に絡まれた時は毎回疲労がかなり溜まっていた。ここ最近ではなかったから身体が忘れていたんだろう。


「朝ごはんはもう少しで出来るから待っててね」

「わかった」


 自分の飲み物だけ入れて席に座る。そういえばさっきの会話の時綾香の顔が赤かった気がしたけど気の所為だろうか。今はなんともなさそうだしいっか。


 にしても昨日の記憶がほとんどない。風呂上がって綾香に色々してもらったぐらいしか記憶が無いんだよな……風呂上がりの直後は流石に記憶はあると思ってたけどそれが曖昧になるぐらいのことがあったのか……


 どうにか思い返していると自分の意識が途切れる直前の記憶が蘇る。綾香に抱きしめて貰って、甘い言葉を沢山言われた記憶が。


「っっっっっ!!」


 一瞬で顔が赤くなるのを感じる。コーヒーを飲んでどうにか落ち着けるが心臓の方が全く落ち着かない。


 そうだ、昨日の綾香はベビードールにタイツとかいうとんでもなく扇情的な格好をしていた。露出こそ控えめだったけどあれは誘っていたのかと錯覚してもおかしくない。


 ここ数日の自分達の行動を思い返せば自分の決めたことからだいぶ離れていっている気がする。それどころかその一線を越えそうになっている。


「……覚悟とか決めたばっかなんだけどなあ」


 綾香に聞こえない声で呟く。告白の予定まで決めたというのにこれではその日を大幅に早めてしまいそうな気がする。というかこのままだとそうなる。


 いや両想いなんだからさっさと告白すればいいだろってツッコミを入れられる気がするけどそれは勘弁してほしい。俺ヘタレなんだよ、許してくれ。


 もはや混乱しすぎてなにをしているかわからなくなったところで鶴の一声が飛んでくる。


「ご飯出来たよー」

「わかった」


 どうにか平静を保った状態で返事する。今向き合ってご飯食べるのは難しいと思っていたら綾香の席にご飯がないことに気づく。


「あれ、綾香のご飯は?」

「今日早く学校に行かないといけなくて先に食べちゃった」

「そうなのか。すまんな」

「ううん、言えてなかったし仕方ないよ」

「じゃあ片付けとかはやっとくから遅れないようにな」

「はーい」


 綾香はエプロンの紐を解きながらリビングを後にする。


「……卵焼きうまっ」


 久しぶりの1人の朝食は婚約者の手料理によって彩られ寂しさどころかどこか温かさを感じる時間になった。

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