久しぶり


ーー冬夜ーー


「そろそろ晩御飯作るか……」

「今日はなにを作るんだ?」

「まだ決めてないな」

「ふーん」


 とりあえず綾香と相談しようと思い自分の部屋に行く。


「あれ?」


 ベットにいると思っていた綾香の姿が見当たらない。起きたのかな?と思い綾香の部屋に行く。


「はーい」


 コンコンとノックすると返事が返ってくるので俺は部屋に入る。


「晩御飯どうする」

「決まってないんだよね?」

「うん」

「で今弟くんいるよね」

「だな」

「ちょっとガッツリするのにしとく?」

「綾香はそれでいいか?」

「うん、私はそれでいいよ」

「わかった」


 じゃあ唐揚げにでもしようかなと思って部屋を出ようとする。


「……あれ、春弥が来てること言ったっけ?」

「ううん、起きてリビング行こうとしたら話し声聞こえたから」

「あー……すまん、入りづらかったよな」

「大丈夫だよ」

「いや、今度から気をつける」


 それで俺の部屋にいなかったのかと察して今度こそ部屋を後にする。


 キッチンに戻り鶏肉の仕込みから始める。


「弟くん久しぶり〜」

「お久しぶりです、綾香さん」

「相変わらず堅苦しいね」

「砕いた方がいいですかね」

「その方が私は楽かな」

「じゃあそうさせてもらいます」


 綾香はすぐにリビングにやってきて春弥と話し始める。元々面識はあったから話すだけなら問題ないだろう。会うの自体は数年ぶりとかだろうけど。


「今日はどうしたの?」

「母さんに荷物を持たされたからこっちに来た」

「あー……あの人ならやりそうだね」

「でも兄さんも見れたし、綾香さんも見れたしよかったかも」

「弟くんから見た冬夜くんはどう?」

「昔よりだいぶん元気そうかな。生きる理由がありそう」

「そっか、なら大丈夫かな」

「……綾香さんがいる限り大丈夫だと思うよ」

「そうかな?」

「だって兄さんは綾香のこと大好きだし」

「それ俺がいるとこで言うのか」

「事実だしいいでしょ?」

「まぁいいけど」


 それでも面と向かってそう宣言されると恥ずかしいものがある。ていうか好きなことぐらいは自分の口から伝えたい。


「そういえば2人って付き合ってるんだよね?」

「「付き合ってないよ」」

「嘘だろ!?」

「ほんとだよ」

「え、なんで?」

「いやまあ……な……」

「まぁ色々あるんだよ……」

「……なんとなく察したわ」

「お前が察しのいい弟で助かったよ」


 だって告白とか何もしてないのに付き合ってるのはおかしいもんな。その告白する勇気がいまちょっとないだけで……ヘタレにも程がある。


「兄さん……流石に恋愛経験ない俺でもわかるぞ……」

「いやほんとな、ヘタレでごめんな」


 綾香にバレないように小声で話す。不思議そうにこちらを見てるけど多分ないようは伝わってないから大丈夫だろう。


「それはそうと晩御飯は唐揚げにしたんだな」

「春弥もいるしな、ちょっとガッツリ系にしておいた」

「助かる」

「礼なら綾香に言っといてくれ」

「じゃあ……ありがとう、綾香さん」

「え!?急にどうしたの!?」

「話聞いてなかったのな」

「う、うん。ボーッとしてた」

「大丈夫か?」

「考え事だから大丈夫だよ」

「なら大丈夫か」


 なぜボーッとしてたかは知らないけど突然お礼言われたらそりゃびっくりするよな。


「あ、ご飯手伝うことある?あるなら手伝うよ」

「今んとこ大丈夫だしゆっくりしてていいよ」

「じゃあそうさせてもらうね」


 そう言って例のクッションに倒れ込む。ここからは見えないがきっと緩みきった顔をしているのだろう。それが見たいがために俺は準備のペースを早めて終わらせにいった。






 晩御飯を食べ終わり、なんとなくだらだらした時間になる。


「にしても春弥くん大きくなったねー」

「まぁ男ですし」

「いま身長どれぐらいあるの?」

「今で172ですね」

「高校1年生でそれは大きいね」

「170なら結構いるんでそんなに差はないですよ」

「私が最後に見た時は結構ちっちゃかったのになあ」

「その時は小学生でしたけどね」

「そっかー……もうそんなに経つんだね」

「時間の流れは早いですね」

「社会人になるともっと早いぞ、特に土日」

「兄さんは完全に社畜だね」

「働く事に抵抗ない分適正高いかもな」

「それはありそう」


 ほんと働くのに抵抗少ないのは珍しいよな。自分でいうのもなんだけど普通は働きたくないのがだいたいだと思う。


「春弥、風呂はどうする」

「あー……それは家で入るよ」

「わかった、ならもうちょっとしたら出ようか」

「ん」

「んじゃあるか知らんが準備だけしとけよ」

「あいよ」


 そう言って俺は洗い物に取り掛かる。これが終わったら春弥を家まで送ろうと思う。その時にはもうちょっとだけ話をしたいな。


 綾香には悪いけど家でお留守番してて貰おうか。


 ちらりと春弥の方を見ると示し合わせたかのように目が会う。そしてまるで俺の考えていることを読み取ったかのように笑みを一瞬浮かべて目を逸らしたのだった。

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