抱えていたのは


 僅かに浮上してきた意識をなんとか掴んで俺はもぞもぞと身体を動かす。そして腕のなかにあるものを抱き寄せてもう一度眠りにつこうとする。


 パシャという音が聞こえたが半分以上眠ったままの頭ではそれがなにか考えることはできず俺は二度寝を敢行したのだった。






 次に目が覚めたのはそれから1時間ぐらい経った後だろうか。先程よりも視界にハッキリと入ってくる日の光で目を覚ます。


 直後に腕に抱えていたものをみるといつの間にか綾香ではなく綾香の部屋にあるぬいぐるみにすり替わっていた。


 俺の部屋で寝たはずなので1度起きた綾香がわざわざ持ってきてすり替えたのだろう。少しだけ綾香の匂いがするぬいぐるみを抱きしめた後着替えを済まして部屋をでる。


 リビングからは既に調理している音が聞こえているので綾香が先に起きてご飯を作っているのだろう。綾香が朝食を作る時はだいたいご飯とちょっとしたおかずと汁物があるので朝から豪勢なものを食べれるのだ。


 自分だけだとどうしてもサボって菓子パンだけとかになるしな。


「おはよう、冬夜くん」

「おはよう」


 綾香に先に気づかれておはようの挨拶を交わす。


「ご飯はもうちょっとで出来るから待っててね」

「わかった」


 俺は洗面所に言って顔を洗ってからダイニングに戻り椅子に座ってなんとなく新聞を広げる。情報なんてあるだけ得だしな。


 少し読み進めたところで綾香の料理が終わったぽいので配膳を手伝って向かい合って座り直す。


「いただきます」


 まずは味噌汁を飲んで身体を潤わせる。朝味噌汁を飲むとこう身体に元気が染み渡る気がするんだよな。ジジくさい気もするけど。出汁もパックの物ではなくしっかりと昆布から取っているので美味さが違う。


 卵焼きを食べると俺好みの少し片目で甘めに作られいてご飯が進む。


「うまい」


 思わずそう呟いてしまう。


「よかった、冬夜くん好みに作れてた?」

「ああ、ばっちしだ」

「やった」


 綾香が小さくガッツポーズをとる。もし隣に座っていたら頭を撫でていたところだ。ほんと一挙一動が可愛んだよな。


「これからも冬夜くんの好みたくさん教えてよ?」

「もちろん。綾香の好みも教えてくれよ。作るから」

「ママの私を越さない程度にお願いね?」


 そんなことを言われると恥ずかしさで反論出来なくなってしまう。ママか……確かにママより料理が上手だと申し訳ない気もするが……


「それでもママにはママの味があるだろ」

「そうかなー?」

「そうだよ」

「ならパパの味も教えてあげなきゃね?」


 やばい、今日の綾香が積極的すぎてやばい。なんで?なんで今日はこんなに積極的なの。俺なんかやったっけ。と思い出していると少しだけ心当たりが見つかる。


「そういえばさ」

「うん」

「朝、俺の写真撮ってなかった?」


 僅かな記憶を頼りにしてカマをかけてみる。


「と、とってなんかないよ……?」

「そのセリフは目を合わせてから言ってもらおうか」

「まさか寝ている人に私がするわけないよね。うん」

「後でスマホ借りていい?」

「だめ!」

「絶対撮ったろ」

「撮りました!撮ったよ!だってぬいぐるみ抱えた冬夜くん可愛んだもん!」

「お、おう……」

「ぬいぐるみのことを私だと思って抱いてる冬夜くんほんと可愛かったんだからね!冬夜くんも見る?」

「なんで自分の寝顔見なきゃいけないの」

「だって可愛いし」

「それ言われてる側だいぶ恥ずかしいけど」

「自信を持っていいんだよ?」

「なんだその励まし。てか変な顔はしてないよな」


 そう、1番確認を取りたいのはそこだ。もしあまりにも変な顔をしていた場合それだけは消しておきたい。普通の寝顔ならまだしも緩みきったやつとかほんとにキツい。


「それは大丈夫だよ、いつも私を甘やかしてくれてる時の顔に近いし」

「なら……まあいいか」

「ホーム画面にしてもいい?」

「それはだめ。綾香だけで独占してくれ」

「そうさせてもらいます」


 スマホをありがたやーって感じで掲げて俺に手を合わす。そのスマホは御神体かなにかで?


「そういえば今日、何時に来るの?」

「11時とかって言ってた」

「わかった。それまでに掃除機ぐらいはかけとくね」

「ん、後通りやすいようにしときたいから物は軽く整理しとこうか」

「わかった」


 綾香の部屋の家具が今日届くのでそれの話をする。そういえばそれと一緒に例のクッションがくるな……人をダメにする、一体どれだけの魔力があるのだろうか。絶対綾香に独り占めさせないからな。


「じゃあご飯食べて少ししたら掃除しようか」

「そうだな」


 今日の予定が決まったところで俺はちょうどご飯を食べ終わる。綾香がまだ食べているので自分の分だけ台所に運んで、綾香の食べる様子をみる。


「あんまり見られてると食べにくいんだけど……」

「気にしなくていいよ」

「そういいながら全然ガッツリ見てくるじゃん」

「なんでだろうな?」

「……もしかして、仕返し?」

「なんのことやら」

「絶対そうだ!」


 そんなことを言っている間も俺は綾香のことを見続ける。真っ赤に染まった顔を隠すように綾香は味噌汁を飲む。けどそれも一瞬のことでまたすぐに目が合ってしまう。


 その後綾香がいつもの倍ぐらいのペースでご飯を食べることでそれは解決した。最後まで恥ずかしそうにしていたのが可愛くて掃除中もたびたび見続けたのだった。

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