5章 -金月が煌めき花咲き乱れる-
21.花を奪われたその先に
「やっぱり最近の
「そうは言っても、カナデ自身は何も言わないからね。嘘は下手でも、口は固いから」
自分の部屋で勉強ついでに、スマートフォンのアプリではるに通話をかけている
机に向かいノートと教科書は開かれてはいるが、進んでいる様子は無い。
対して、はるはベッドの上で膝を抱えて本を読んでいる。
スマートフォンは側に置き、視線を本へ落としたまま
「特に
「ブルーインパルスね。その辺りは
はるは一枚ページを捲る間に、何か
「やけに空がらみの事に興味を持ったのは、理由自体はどうでもいいでしょう。あのカナデが、人助け以外の趣味を見つけられそうなんだから」
「その言い方はずるいよ、はる」
「でもまぁ、気になるのは私も同じ。だって……」
言いかけた言葉を、はるは閉じた本の音で無かった事にする。
「明日、本人に聞きましょう」
「結局それしかないか」
改めてはるの言った言葉に、重いため息を吐きながら
*
アリスとナイトメアとの再会、そしてザント=アルターの襲われた日から数日。
いくら眠ろうとしても、眠りが浅すぎて起きてしまい、わたしは一度も夢の世界に行けていない。
どんなに寝不足でも、眠くなると思い出す。
何もできなかったあの夜を。
食欲も湧かないし、何も思い付かない。
すぐにでもメアとスカイを助けにいくべきなのに、何をやればいいのか分からない。
学校があるから仕方なく歩くけど、本当はずっと部屋にいたい。
「……はぁ」
「本当に見てられないわね、カナデは」
「……
振り替えると、不機嫌な顔の
普段の呼び方ではなく、昔に呼んでいたあだ名でわたしを呼ぶときは、大抵が怒っているときだ。
理由はいつも同じ。
また、昔のわたしに戻りそうな時。
「朝っぱらから目に隈つくって、また寝てないんでしょう」
「寝てるよ。よく眠れないだけ」
嘘は言っていない。
でも
「ずっと下を見て口を開いたら後ろ向きな事ばかり。歩幅もいつも以上に短くて、歩く度にふらついてる。目が死んでる上に、泣き跡と腫れた目。まだまだある」
どれもこれも、昔から言われているネガティブなわたしの事ばかり。
「今日こそは何があったか言って貰うわよ。さっさと降参してその固い口を開きなさい!」
頬をつまんで伸ばしてくる
言ってしまったら、巻き込んでしまう。
わたしが何もできないのは知っているから、わたしの後に着いてきてしまう。
だから、絶対に言えない。
「何も、何もないよ。
「ちゃんとこっちを見て――」
「はいストップ。そこまでだよ
遅れてやってきたはるちゃんのお陰で、わたしから
少し痛い頬をさする。
これが何も感じなくなったら、いよいよあの時に逆戻りだろう。
「ちょっとまだ聞けないから、離してよはる」
「
「それは……」
口ごもる
そんなことないよ、とわたしははるちゃんに言いたいけれど、そんなのは時間の問題だと思う。
夢の世界のことを話さないわたしに、
はるちゃんも今はそっとしておいてくれているけど、これ以上続くようなら絶対に関わってくる。
「カナデも。話したくないのなら、せめて何も問題ないって胸張りなさい。問題あります助けてくださいって顔すれば、そりゃあ
「その言い方だと、あたしが困ってる人全員を助けに行ってるみたいじゃない」
「昔は似たようなものだったでしょう」
(昔……)
入退院を繰り返していたわたしに、声をかけてくれた
大切なことだったり、つまらないことだったり。
ほとんどがわたしが無理とか嫌だとか言って、
その日別れた後は、はるちゃんがわたしたちの話を聞いて、仲を持ってくれた。
何度も別れては繋がって、本当に好きだから教えたくない。
それだけは、伝えたい。
――伝えよう、この想いを。
「
「あー、そのねカナデ。あたしはまたカナデに戻って欲しくないから、少しでも役に立とうと思って」
「
はるちゃんが
今声を出したらかすれてしまいそうだから、無理にでも笑ってお礼を言う。
一番疲れるのははるちゃんのはずなのに、最後は笑ってそういうことかと言ってくれる、大切な友達。
「落ち着いたら、優月さんと一緒にちゃんと話すから。今は、今だけは。今……だけは……」
二人に伝える言葉が見つからない。
信じても、見ていても、安心しても。
どれもこれも空っぽで、重さが無くて、わたしの言いたい言葉じゃない。
「……
「ちょっと今度は何!?」
わたしと
「
眼鏡ごしに見える目は、冗談ではないことを物語っていた。
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