第206話 黄衣の天使

 おっとイカンイカン!


 面白そうな会話が聞こえてきたから、ついそっちに気を取られてしまったけど、せめて生き残った冒険者だけでも助けるんだ!



 ―――――時は20分前に戻る。



 倒れていた冒険者の、盗賊に剣で斬られたと思われる数ヶ所にも及ぶ深い傷を、ナナお姉ちゃんの水魔法で綺麗に洗い流してもらってから、ハムちゃんの治癒魔法とハム水の両方を使って塞いでいった。


 商人と思われるおっさんも血を流していたんだけど、そっちはハム水なしでも大丈夫そうだったので、ナナお姉ちゃんに傷口を洗い流してもらってから、ハムちゃんの治癒魔法でポワポワされながらジッとしている所だ。


 おっさんにはご家族の方がついてくれているので大丈夫だろう。


 一番大きな傷が塞がり、ようやく流血が止まったので、濡れた身体を召喚獣タオルで拭いてから、女冒険者を『ふわふわカーペット』の上に寝かせた。



 ・・・とまあ、ここまでやって少し落ち着き、後は冒険者自身の生命力にかけるしかないって状態にはなった。


 絶対に助けてあげたいんだけど、この銀髪の綺麗なお姉さんがどれほど血を失ったのかが問題なんだよね。


 ハム水を飲ませれば助かる可能性も上がるんだけど、寝ている人に飲ませるなんてちょっと無理だしな~。あとは容態の変化にすぐ気付くように、こうして付き添うくらいしか出来ないのです。



「助けて頂き、本当に有難う御座いました!」



 声のした方を見ると、治療していた男がみんなに向かって頭を下げていた。そしてその後ろから、馬車の中にいた奥さんと娘さんと思われる二人も歩いて来ていた。


 良かった~!ハムちゃんの治療ですっかり傷が癒えたんだ。



「傷はもう治ったのか?」

「はい、この通りです!治癒魔法を使える動物がいるなんてビックリですよ!」

「「本当にありがとうございました!」」


 男が斬られた右腕をみんなに見せたんだけど、それなりに大きな傷だったのに、もう傷跡すら残ってないような気がする。白ハムちゃんスゲー!!


「へ~~~!こんな短時間の治療で、もう傷跡すら残っていないのか」

「本当に凄いね!これなら向こうの女性も助かるかも!」

「クーヤちゃんに任せておけば、絶対助かるよ!」


 そうだといいなあ・・・。

 こんな綺麗なお姉さんが盗賊ごときに命を奪われるなんて、絶対許されないよ!


「戦闘で命を落とした冒険者を馬車に乗せることは可能か?」

「大丈夫です。しかし冒険者達には本当に可哀相なことをしました。まさか20人を超える規模の盗賊に襲われるなんて・・・」

「それはあンたのせいじゃないさ。盗賊の襲撃から雇い主を守るのが彼らの仕事なんだから、こうなるのも覚悟の上だ」

「うはっ!20人超えてたの?」

「俺らが倒したのは全部で14人だったか?冒険者らも健闘したんだな」

「来た時12人倒れてた。それと治療中の女の人」

「死んだ冒険者は4人だから、盗賊を8人倒していたんだね」

「悔しかったろうね・・・」



 冒険者の仕事でも、護衛ってやっぱ大変だなあ。


 何事もなく終わるケースがほとんどだとは思うけど、護衛がいるのに襲って来たということは、それって勝てる自信があるからなんだよね。


 そういう危険な集団が現れた途端、今日のような惨事が起きてしまうんだ。

 何人かでも助けることが出来て本当に良かったよ。



「うぅ・・・」



 ん?



「あ、お姉ちゃんの意識が戻った!」


 銀髪のお姉ちゃんと目が合った。


「黄色い天使がいる・・・」

「天使?それより痛い所はない?」

「痛い所?」


 黄色い天使って何だよ!?

 それって『白衣の天使』みたいな?いや、黄色いから『黄衣の天使』だな!


「痛ッ!くッ、そうか、盗賊にやられて・・・」

「あまり動かない方がいいよ!治療が終わるまでジッとしててね」

「・・・治療?」


 銀髪のお姉ちゃんが、治療中のハムちゃんを見つめた。


「こっちにも白い天使がいる・・・」

「ハムちゃんだよ。今、お姉ちゃんの治療をしてくれてるの」

「ホワホワして気持ちいい」


 ボクも前にやってもらったことあるけど、確かにアレは気持ち良かった!


「意識が戻ったのか!」


 ショタの声を聞いて、レオナねえ達が駆けつけて来た。


「・・・冒険者?もしかして、貴女方が盗賊を倒して、うぐッ!」

「ああ、無理してしゃべらなくていい!馬車を襲っていた盗賊は全て討伐したから安心しろ。馬車の中にいた親子3人は無事だ」

「良かった・・・、ありがとう」



 変に声を掛けると律儀な銀髪お姉ちゃんが返答してしまうので、それからしばらく全員が無言のまま30分ほど経過した。



「ふ~~~、かなり良くなりました」


 そう言った銀髪のお姉さんが立ち上がろうとしたが、地面についた右手に激痛が走ったようで顔をしかめた。


「くッ!これでは剣も握れない・・・」


 それでも右手以外はかなり良くなったみたいで、何とか立ち上がった。


「剣はアタシが持ってやる。道中の護衛も引き継ぐから休んでいろ」

「感謝します。冒険者5名で馬車を護衛していたのですが、他の4名がいきなり不意打ちで倒されてしまいまして。盗賊を8人まで倒したのは覚えているのですが、多勢に無勢、あの人数はさすがに無理でした・・・」

「アタシらが駆けつけた時には、お仲間はもうすでに息絶えていた。遺体は馬車で街まで運んでもらうから安心してくれ」

「いえ、あの4名は仲間ではないですね。私はソロで依頼を受けました」

「あ、そうだったのか。しかし20を超える盗賊相手に8人まで倒すとは、見事な腕じゃないか!Aランクか?」

「結局やられてしまいましたが。Aランク冒険者の『プリンアラート』です」


 おおおおーーーーー!『プリン・ア・ラ・モード』みたいで可愛い名前ですね!


「アタシはレオナ!同じくAランク冒険者だ。よろしくな!」

「宜しくお願いします。しかしこの怪我では、もう冒険者を続けるのは無理かもしれませんね。痛いだけでなく右腕に力が入らないので、完治するかどうか・・・」

「ムムム、力が入らないってのは少しマズイか・・・」


 なにィ!?せっかくAランクまで昇進したのに冒険者廃業は可哀相すぎるよ!

 何とかならないもんかなあ・・・。


 こうなったらWハムちゃんで治療してみる?

 増やせばいいってもんじゃないのかもしれないけど。


 いや、待てよ・・・?



「プリンお姉ちゃん!その右腕、もしかしたら治るかも?」



 ショタの発言にお姉ちゃん二人が振り向いた。



「ミミリア王国に来て、『女神の湯』で湯治するのです!」

「おおーーー!クーヤ、それだ!!」

「ミミリア王国?」

「っていうか、ウチのお風呂なんですけどね!」

「天使様の家のお風呂ですか!行きます!!」

「即決かよ!!」



 話の流れで、銀髪のお姉さんがウチに来ることになりました!

 あっ、ドラちゃんを見せることになるから口止めしなきゃですね。


 しかし天使様って・・・。

 

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