第160話 パンダ工房にお裾分けしよう!

 レオナねえ達と一緒に討伐してきたメメトンゼロ。


 タマねえのご家族にはすでにお裾分けしたんだけど、『不幸じゃなく、幸せも皆で分かち合うべきだ』と全員の意見が一致したので、パンダ工房のみんなにも振舞うことになりました!


 肉を渡せばたぶんステーキにして食べると思うんだけど、どうせなら『メメトンカツゼロ』をご馳走してあげれば良い思い出になるんじゃないかという話になり、お母さん・リリカちゃん・レオナねえ・ショタという、現在これといった用事の無い暇そうなメンツで、朝からパンダ工房にやって来ました!


 工房で働く人達の他に、孤児院のみんなにもご馳走してあげたかったので、それだけの量になると、午前中から始めないと間に合わないかもしれないからね~。



 ジュワーーー ボコボコボコボコ


 カツを揚げるのは経験者のお母さんで、ラン姉ちゃん率いる接客班は、千切りキャベツを作りまくる係だ。


 ザック ザック ザック ザック

 ザック ザック ザック ザック


 一心不乱にキャベツを刻むラン姉ちゃん。

 しかし明らかに何かに気を取られていた。



「間違いなくクーヤの仕業だと思うけど、あの可愛いのは何?」



 彼女の目線の先にいるのはもちろん、お母さん専属の冷蔵庫ハムちゃんだ。

 冷蔵庫と言っても氷を出せるってだけで、中はまったく冷えませんけどね!


 油を落とした『メメトンカツゼロ』を、アツアツのうちにすぐ収納するため、お母さんの隣に控えているのだ。



「お母さんのハムちゃんだよ!」

「ハムちゃんって説明だけでわかるとでも!?やっぱりアレも召喚獣なの?」

「うん!仕事が終わったら、ぺち子姉ちゃんと一緒に家に遊びに来てね!その時ちゃんと説明するし、きっと良いことがあるよ?」

「くっ!そう言われたら、もう行くしかないじゃない!」



 孤児院の子供達はまだそれほど親しいわけでもないので、工房にいるメンツでハムちゃんを貸し出すのは、ライガーさん・ベイダーさん・ぺち子姉ちゃん・ラン姉ちゃんの四人だね。


 ココにいる全員が貰えると勘違いされるに決まってるから、孤児院の子がいる前でラン姉ちゃんに選ばせるわけにはいかないのです。


 この先ボクとすごく仲良くなったりなんかすれば、貸してあげようって気持ちになるかもしれないので、もう少し自己主張できるほど職場に馴染むといいな~。



「クーヤ!ライガーのおっちゃんが、トレーニングのやり過ぎで喉が渇いて瀕死の重傷なんだ!一緒に来てくれ!」



 厨房にレオナねえが飛び込んで来たから何事かと思ったし!



「えーと・・・、すなわち水が飲みたいのですね!?」

「そうだ!クーヤの力が必要なんだ!」


 なんのこっちゃ?って顔をしながら、ラン姉ちゃんがこっちを見ている。


「何でクーヤなの?水差しならそこにあるわよ?」

「いやラン姉ちゃん、そんな腑抜けた水じゃライガーさんの喉の渇きは癒せないよ。ここはボクが行くしかないでしょう。あ、コップだけ貸してね!」



 頭に『?』をいっぱい浮かべたラン姉ちゃんを放置して厨房を出た。

 レオナねえと一緒に、瀕死の重傷を負ったライガーさんの元へ急いで向かう。



「ガッハッハッハッハ!筋肉は一日にして成らずと言うだろう!」

「補修作業ばかりだったからな。鈍った筋肉を復活させるのにも一苦労だ!」


「あれ?いつの間にかベイダーのおっちゃんまでいやがる。おーーーい!水を持って来てやったぞ!」


 レオナねえの声を聞き、ライガーさんとベイダーさんが振り向いた。

 念のためにコップを二つ持って来たのは英断だった!


「随分と気が利くじゃねえか!」

「クーヤもいるな。退屈だったのか?」


「レオナねえに呼ばれて来たんだよ!水色ハムちゃん召喚!」


 シュッ


 ライガーさん達の目の前に、水色ハムちゃんが出現した。


「はあ!?おい、これって・・・」

「うおッ!?何だこの可愛い獣は!!」


 レオナねえにコップを二つ渡す。


「ハムみず、満タン!」


『チュウ!』


 流れるような美しき動作で、水色ハムちゃんがコップに水を注入。

 おっさんコンビに、ハムみずがなみなみと注がれたコップが渡された。


「なんだと!!コイツが水を出したのか!?」

「まるで意味がわからん!!」

「最近ウチでは、みんなこの水を飲んでるんだぜ?まあ一杯やってくれ!」


 最近っていうか昨日の話ね!!確かに嘘は言ってない。


「家族の皆が?」

「そんなに美味いのか!?」


 おっさんコンビが腰に手を当て、豪快に水を飲み始めた。



 ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク ごぷッ! ドブシャアアアアアアアアアア!!


 昨日幾度となく見た大噴出です。やはりおっさんコンビでも無理だったか。



「ごヘアッ!!ブホッ!ぐおおおオオオ、まっず!!なんだこりゃあああ!!」

「ガハッ!ゲホゲホッ!苦ッッ!うおおおおおい!!不味いにも程があるぞ!!」


「「わーーーーーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっは!!」」



 とまあ恒例の行事を済ませた後、森でアルペジーラをいっぱい捕獲して来たと二人に説明した。そのお陰でメメトンゼロを3体持ち帰れたことも。



「メメトンゼロを3体も収納出来るのか!!」

「クーヤ、お前一体どんだけ規格外な魔力してるんだよ・・・。召喚獣がそれほど激しく強化された話など、今まで一度も聞いたことがねえぞ?」

「ん~~~、よくわかんない!」


 子供だけが使える必殺技、『わかんない』だ!

 小っちゃい子がわかんないって言ったら、大人は諦めるしかないのだ。


 そしてボクと仲の良い人限定で1体ずつ貸し出すことを伝えると、驚くと同時にすごく感謝された。ハムちゃんの有用性がわからない人などいない。


「メメトンゼロってかなり大きいだろ?それが3体分ともなれば、もしかして馬車を収納したりも出来るんじゃないのか?」

「なるほど!そいつはデケエぞ!!」

「馬とか生き物は入れられないよ?ハムちゃんが言ってた」

「そりゃ良かった。もし生き物が入るのならば、誘拐事件が多発してしまうぞ!」

「つーかもし入ったとしても、呼吸が出来なくて死んじまうだろ」


 そういうのを考えて、神様がちゃんとルールを決めたんだろね。

 あまりにも理不尽な悪事には使えないようになっているのだろう。


 神様に粛清されるのは嫌なので、盗みなどの悪事には加担しないよう、ハムちゃん全員に言い聞かせてある。やりかねない知り合いが1人いるので!


「じゃあ二人とも、魔法が使える子よりも容量が大きい子の方がいい?」

「そうだな。魔法も気にはなるが、馬車を持ち運べる方が今は重要だ!」

「クーヤの召喚獣で魔物を倒した場合、俺の召喚獣にすることが出来ない。となると俺も魔法より収容量が大きいヤツを選ぶべきだろう」


 あーそっか!ボクの召喚獣って時点で、ライガーさんが召喚獣をGETする手助けには使えないのか・・・。自分一人の力だけで倒さなきゃダメだもんな。


「じゃあ容量が【3】のハムちゃんを出すね。・・・って、あと2体しかいなかった!どっちを選ぶかは二人で相談して決めて!」



 そよ風魔法の使い手である黄緑色のハムちゃんと、ポカポカ暖かくすることが出来るオレンジ色のハムちゃんを召喚。


 どちらも容量が【3】あるってのと、魔法特性などの説明をした。



「なるほど!どちらも馬車を快適にするのに使えるわけか・・・」

「夏用か冬用かの二択だな!だったら季節によって交換すればいい。どうせ二人とも仕事関係で使う感じになるだろう?お客さんに快適な旅をしてもらい、ウチの馬車の素晴らしさを感じてもらうのが一番良い!」

「ならば、そろそろ涼しくなってきたし、冬に備えてオレンジ色を使わせてもらっていいか?」

「もちろんそれで構わんぞ!」



 お客さん優先で考えるとは、さすが商売人!!

 よし、これでおっさんコンビは決まりだね。


 残るはラン姉ちゃんとぺち子姉ちゃん、そして悪そうなお兄さんの三人?


 BL漫画の翻訳で地獄を見せられた思い出しかないモコねえは、もう少し仲良くなってからかな~。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る