第93話 高級馬車 "試作1号機"

 

 ゴトンゴトン



「あっ!ここってさっき揺れた段差だよね!?」

「え、ホント!?今ほとんど揺れなかったよ」

「ちょっとこれは凄すぎない?馬車に乗ってるのを忘れちゃうほど快適だし」

「これは驚いたな・・・。こんなの絶対みんな欲しがるだろ!」


 サスペンションの効いた高級馬車の乗り心地にみんな大騒ぎだ。


「完成品を知っているクーヤから見て、儂のサスペンションの出来はどうだ?」


 自分は車しか知らないから馬車だとよくわからないとこがあるんだけど、お姉ちゃん達の反応を見た感じバッチリじゃない?


「乗り心地も最高だし、たぶん合格だと思うよ!でもサスペンションってバネの硬さで目指す方向性を変えられるから、使い方によるかも?」

「どういうことだ?」

「えーとね、サスペンションが硬いと段差で揺れを感じるけど曲がる時に安定するの。んでサスペンションが柔らかいと段差で揺れは感じなくなるけど曲がる時にちょっと横に振られて怖い感じ」

「なるほど!!極論だが、ボヨンボヨンしていたら確かに危険だな。馬車に適した硬さを見つけ出す必要があるのか・・・」

「うん!でもこの馬車のサスペンションは結構良い感じだと思うよ!」

「そうか!ならばこれを基準に細かい調節をしていって、これだと思った型で量産を開始するか。硬いのと柔らかいのを作って両方試してみる必要もありそうだな」


 どうせなら最高の物を完成させたいよね!



 ガチャッ


「工房に戻って来たぞ。降りて感想を聞かせてくれ!」



 馬車から降りた。



「最高の乗り心地だったぜ!」

「段差でも揺れなかったよ~」

「もう絶対売れるよこれ!!」


 お姉ちゃんズの評価は満点だね!


「おお、大好評だな!クーヤはどうだった?」

「すごく乗り心地良かったよ!あとは細かい調整くらい?」

「そうそうライガー、馬車の中でクーヤと話してたんだけどな・・・」



 ベイダーさんが、馬車内で話し合ってた内容をライガーさんに説明した。



「なるほどな。まあ軽い調整でいいんじゃねえか?」

「ん?完成させないのか?」

「最初はある程度完成してるくらいで良いんだよ。考えてもみろ、揺れない馬車なんだぞ?こんなの誰もが欲しがるだろ」

「いや、だからこそ完璧な物をだな・・・」

「売り捌いてる間に完成させればいいんだよ。んで最新式の馬車としてまた次のを売るんだ!見た目も名前も格好良くしてな!」

「なるほど!!」


 おお~!ライガーさん、マッチョのくせに頭が良いね!

 車とかでもどんどん新型を発表して、同じ人に何度も買わせてるもんな~。


「ただ、最初に大量生産してから売りに出した方がいいだろな・・・」

「なぜだ?」

「例えば、今すぐこの馬車を貴族に売ったとするだろ?だがモノが良ければ、その貴族は揺れない理由を知りたくなると思わねえか?」

「そうか!真似されてしまうということか!」

「うむ。そしてデカい商会に量産されてしまえば、ウチらの馬車が先に売り出されたという事実を誰も知らないまま埋もれてしまうわけだ。世間が知ってるのはデカい商会が作った馬車の方だ」


 最悪じゃん!!

 アイデア泥棒の方がデカいツラするとか、めっちゃ腹立つんですけど!


「・・・・・・お前の言う通りだ。わかった。少し無理をしてでも職人をかき集めよう!先に儂らの馬車が世間に知れ渡れば勝ちなのだろう?」

「その通りだ。ただし情報が漏れないようにするんだぞ?レオナ達もだ。もし情報が漏れた場合、お前たちの儲けにも多大な影響をもたらすからな!」


「そりゃ困るぜ!こっちはもうすでに金持ちになったような気分なんだぞ!」

「えーと、乗り心地が良い馬車に乗ったことも秘密なんだよね?」

「うん、たぶんそういうことだと思う」


「今日体験したこと全てだ!クーヤも口を滑らせないように注意するんだぞ?まだ特許を取ってねえんだからな」


 イカンですよ!?そのお金で学費を払わなきゃいけないんだから!


「絶対内緒!!」


「あ、そういえばダンベルとエキスパンダーの申請が通ったぞ!」

「ホント!?」

「ただサスペンションのこともあるから、売りに出すまでどうしても時間がかかってしまう。こっちが落ち着くまでもう少し待っていてくれ!」

「うん、わかった!」


 まあそうだよな~。

 どう考えても売り上げの規模が違うもの。


 おそらくだけど、あまり信用できない職人の方にエキスパンダーとかを作らせる感じになるんじゃないかな?そっちなら真似されても被害が小さいから。


 ボクからすると誰が売っても収入は一緒なんだし、全部お任せでいいや。

 勝手に口座のお金が増えてたらラッキーくらいに考えとこう。



 まあそんなこんなで試乗会は終わり、ベイダーさんはサスペンションの最終調整に入ることになった。


 それが完成したら特許の出願って流れになるのかな?

 いや、馬車を量産してからの方が安全策なのだろうか?


 うーむ・・・。駆け引きが難しくてようわからんな。


 商売ってのは隙を見せたら大損こいたりするんで、マジで怖すぎるよ・・・。

 ボクは将来、商売人にだけはならない!ライガーさんに寄生して生きて行くんだ!


 今日でわかったけど、ライガーさんの、あの先を見据える慎重さなら大きな失敗はしないと思う。任せておけばきっと良い方向に進んで行く。


 しかし今にして思えば、凄い人と知り合えたのかもしれないな・・・。


 優しいし頼りになるし強いし誠実だ。

 将来ああいう大人になりたいよね~。マッチョには絶対ならんけど!

 

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