第82話 実はみんな強くないか?

 子供達はゾウさんパレードをしながら、とある人物を探していた。

 まあ、貧民街スラムに来て探す人なんて一人しかいないけど。



「悪そうなお兄さんを発見!」


「どこ?」


「あそこだ!行くぞーーー突撃ーーーーーーーーーーーーー!!」


「にゃっ?」


 後ろを振り返って頭に『?』を浮かべているぺち子姉ちゃんだったが、今は説明している暇など無いのです!



「クソッ、見つかったか!」


 悪そうなお兄さんは逃亡を試みようとしたが、楽しそうにゾウのパレードを見ていた群衆に逃げ道を塞がれてしまったようだ。


 ドドドドドドドドドド


 その隙に悪そうなお兄さんの近くまで駆け寄り、ゾウで左右から挟み撃ちにした。



「悪そうなお兄さん、召し捕ったりぃ~~~~~!」


「くっ、これまでか・・・」


 いや~、小回りの効かないゾウだから、路地裏に逃げ込まれないで良かったよ。


 ワンテンポ遅れて、ぺち子姉ちゃんが到着。


「にゃんにゃの?」


 彼女への説明は後からでも出来るので、とりあえず要件を切り出す。


「悪そうなお兄さんに見せたいモノがあるの!」


 悪そうなお兄さんがゾウに乗っているショタを見上げる。


「もう見えとるわ!!今度はジノラゼールにデルトリーマかよ・・・」


 ん?

 あ~、ゾウとライオンもだけど、本命はこっちじゃないんだよねー!


「ゾウとライオンも見せようとは思ってたけど、今日は別のヤツだよ!また秘密基地までついて来てーーーー!」


「何でわざわざ戦利品を見せようとすんだよ!俺は行かねーからな!」


 前回もだったけど、今日もなかなか強情ですな。

 けどここでネタばらししたんじゃ驚く顔が見れないのよね・・・。



「師匠ににゃまいきな口を利くとは許せにゃいにゃ。これはキツいヤキをぶち込んでおく必要があるにゃね・・・」



「・・・ん?」



 ぺち子姉ちゃんがライオンから降りて、悪そうなお兄さんの前まで歩いて行った。



「何だこの女は?そういやこのジ>ミ$スも、デルトリーマに乗ってたよな?」


 『ジ>ミ$ス』ってのは獣人って意味かな?とりあえず覚えた。


「師匠の言葉は絶対にゃ!逆らう者には制裁にゃ!!」


 いや、何言ってんだこのバカ猫は!?


「師匠だあ?もしかして黄色いガキのことか?」

「その口の利き方、もう容赦しにゃいにゃ!」


 バシッ


 怒れるダメ猫の右ストレートは、悪そうなお兄さんの左手に受け止められた。


「危ねえなコノヤロウ!いきなり何なんだお前は!」

「少しはできるようにゃね・・・」


 ダメ猫が一歩引いたと思ったら、瞬時に懐に飛び込み怒涛の攻撃が始まった。


 シュッ ガシッ ドン ペシッ


 その凄まじいラッシュを防ぎつつ、悪そうなお兄さんも反撃に転じる。



「おいこら、ぺち子姉ちゃん!!何いきなり殴りかかってんのさ!?」



 しかしショタの言葉は届かず、二人の攻防は激しさを増して行く。


 どうしてこうなった・・・。

 あのバカ猫、悪そうなお兄さんの口が悪いからスイッチ入っちゃったの?


 シュン ガン パシュッ ゴスッ


 戦いはヒートアップし、二人とも走りながらヒットアンドアウェーを繰り返し、殴り合う拳は残像が残るほど速く、目で追えないレベルになってきた。


 あのバカ猫もだけど、悪そうなお兄さんってあんなに強かったのね・・・。

 やっぱ異世界ハンパねーわ。



 ―――しかしその激しい戦いは、乱入者によって終わりを迎えた。



 パシッッ!



「そこまで!」


「ぐうッ!」

「にゃにゃッ!?」


 ダメ猫の左拳は、二人の中央に出現したタマねえの右の掌に。

 悪そうなお兄さんの右拳はタマねえの左の掌に阻まれた。


 うおーーーーーーーーー!タマねえも凄え!!


 アレが出来るということは、二人の動きを完全に見切ったということ。

 この三人、実はかなりの実力者なんじゃないのかい?



「メルドア!」



 ゾウさんを謎空間に送り返し、落下したショタをメルドアが背中で受け止めた。

 メルドアに感謝しつつ、三人の側へと近付いて行く。


 その間に最近ストックしたばかりのハズレアイテムであるハリセンを召喚し、それをダメ猫の後頭部に振り下ろす。



 パシーーーーーン!


「うにゃッッ!」


 全然痛くはないだろうけど、ぺち子姉ちゃんが驚いて振り向いた。


「悪そうなお兄さんは、口は悪いけどボクと仲が良い友達なの!いきなり襲い掛かっちゃダメでしょ!!」

「にゃにっ!?そうだったにゃか・・・」


 ぺち子姉ちゃんは、悪そうなお兄さんを見て頭を下げた。


「ごめんにゃさい!にゃまいきだったから、ついボコボコにして従わせようとしてしまったにゃ!もうしにゃいにゃ」

「生意気だから殴りかかって来るとかクレイジーすぎるだろ!!おいガキ共、何なんだよこの獣人は!?」

「ん~~~、正直よくわかんない」

「さっき拾った」

「変なモン拾って来るんじゃねえ!元の場所に返して来なさい!」


 確かにこんなのいらないな。やっぱ元の場所に置いてこよう。


「うん。ボクもいらないから帰りに捨ててく」

「一生ついて行くって言ったにゃか!」

「だからそれは却下されて3日になった」

「じゃあ3日ついて行くにゃ」

「もういいだろ!そろそろ耳が腐りますぞ!!」



 とりあえず、反省しているのかしていないのかよくわからないぺち子姉ちゃんの謝罪にて、悪そうなお兄さん政府とバカ猫共和国の間で終戦協定が結ばれた。

 

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