第57話 森の奥地へ出撃

 この世界にも甘い物は色々あるんだけど、チョコレートみたいなお菓子は存在しないらしい。


 そんな理由から、チョコレート人気は凄まじく、普段おっとりとしているお母さんですら遠慮なしに求めるほどの争奪戦が繰り広げられることとなった。


 俺はとんでもないモノを召喚してしまったようだな・・・。

 やはり甘い物は、どんな女性をも狂わすのだ。


 そこで家族会議が開かれ、いくつかのルールが取り決められた。


 チョコレートを食べた直後に消すから、満足感も消えてしまい、それが無限ループを生み出す結果となることを発見したクーヤ博士からの提案だ。



 ・チョコレートを食う順番などは決めたりせず、その時食べたい人が食べる。

 ・数人で分けてもいいけど、基本的に板チョコ一枚を一人で食べきる。

 ・誰かが食べ終わった後、次の注文までに最低10分のインターバルをとる。

 ・寝ているクーヤちゃんを起こしての注文はご法度。



 この10分のインターバルがポイントで、口の中のあまあまが自然消滅するまで待てば満足感も消えずに済むから、無限ループからは多少解消されるのだ。


 一枚の板チョコを一人で食べきるってのも、満足感を得るための取り決めだ。半分しか食べられないとか言う軟弱者は一人もいないので、その辺の心配はいらない。


 その代わりダラダラとゆっくり食べるのは許されない。これは順番待ちをしている人達への配慮である。



「おいしかったーーーーー!!」


 リリカちゃんが板チョコを一枚食べきり、大満足の笑顔を見せた。

 そしてファミファミのコントローラーを握りしめる。


 テレビ画面に映っているのは『モンキーコングJR.ジュニア』だ。


 これは『モンキーコング』の主人公であるサルによって檻に閉じ込められてしまったゴリラを、息子ゴリラが救出しに行くという、『モンキーコングの』続編にあたるゲームだ。


 前作の主人公が悪者扱いされている感があるけど、視点が変われば正義も逆転するという面白い発想だと思う。ってか、別に面白ければ何だっていいのだ。


 とりあえずこれで、リリカちゃんはオッケー。



「お母さん、タマねえとちょっとお出掛けして来る~!」


 食器を洗っていたお母さんが振り向いた。


「あらあら~、夕食までには戻るのよ~?」


「ここにチョコレート置いとくんで、洗い物が終わったら食べてね~!後でボク達も食べたくなると思うから、その時呼び出したら消えちゃうの」


「クーヤちゃん、お母さんのために気を使ってくれてありがと~!じゃあすぐに食べなきゃダメね~!」


「そんなに急がなくても大丈夫だよ!結構遠くまで歩くから!」


「はいは~い。気を付けて行くのよ~?」


「あい!行ってきま~~~す!」



 よし!これで気兼ねなく南の森を攻めることが出来るようになったぞ!

 玄関で靴を履いて外に出る。



「って、タマねえ!ここで待ってるのなら家に入って来れば良かったのに!?」

「すぐ出てくると思ってたから」


 玄関のドアを開けた瞬間タマねえがいてビックリしたっス!


 まあ、森の奥を攻めるってことは事前に話してあったからね~。

 待ち遠しかったけど、家に入ってまで急かすのは遠慮した感じなのかも?


「ねえクーヤ、チョコ食べたい」

「あ~、まだダメなんだ。洗い物をしてるお母さんに渡して来たとこだから、それが終わって落ち着いてから食べる感じかな?その前に消えちゃったら可哀相だから、チョコは森に到着してからにしよ?」

「わかった。楽しみにしてたチョコが消えたら悲しい」


 さすがタマねえだ。相手の気持ちになって考えることが出来る良い子ですね!


 ちなみに、今日は小学校がお休みらしい。


 ティアナ姉ちゃんは普通に学校に行ったし、とクリスお姉ちゃんも出勤して行ったので、日曜日とかそういうのじゃなさそう。


 そしてレオナねえは、良い依頼が無いか冒険者ギルドへ確認しに行った。


 この前危険な目に合ったから、次の依頼は慎重に決めるらしい。

 なので、たぶんレオナねえの心配はいらないと思う。


 まあ冒険者の心配なんかしてたら、毎日ストレスを抱えながら暮らすことになるので、もっと楽天的に考えるべきなんでしょうねえ・・・。



 とりあえず街の中央にある広場を目指してテクテク歩いて行く。



「タマねえは街の南にある屋敷のことって知ってる?すごく古い屋敷なの」

「知ってる。秘密基地の候補だったから。でもあの家は危ないからダメ」

「入ったことがあるのね・・・。今から向かう所はね、あの屋敷の裏にある森のずっと奥なんだ」

「メルドアの縄張りだ!」

「そーそー!ボクもあの森までは行ったんだけどさ、メルドアと戦った時に死ぬかと思ったから、怖くてすぐ引き返したの」


 タマねえの切れ味鋭い目が、更に鋭さを増した。


「そうだ!召喚士って確か、自分だけで魔物を倒さないと召喚獣にすることが出来ないとか先生が言ってた!クーヤは一人でメルドアを倒したんだ!!」

「あ~~~~~、まあ一人といえば一人なんだけど、召喚獣を使って倒しても仲間に出来るんだよ」

「・・・ん?でもメルドアを倒した召喚獣もクーヤが倒したんじゃ?」


 カブトムシ達は勝手に鉄板に突撃して死んでたんだよな~。でも鉄板を召喚したのは俺だから、自分で倒したといえば倒したことになる・・・のか?


「ん~~~、まあ一応?」

「じゃあやっぱりクーヤすごい!!」


 経緯はともかく褒められて悪い気はしないっスね!タマねえは変な子だけど、素直で口下手で、変に忖度するような性格ではない。


 思ったことをそのまま口に出してるだけだと思うから、本当にそう思ってくれているというわけで・・・、ちょっとムズ痒いかも。



 テクテクテクテク



「クーヤ歩くの遅い」



 宙に浮いたと思った瞬間、タマねえの脇腹に抱えられていた。

 そして、もう何度も体験した猛ダッシュ。



「にょわあああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~!」



 そう、素直すぎるんですよタマねえは!!

 

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