第47話 脱獄

 

 ・・・さてと、脱獄を始める前に少し作戦を練っとくか。

 俺は召喚獣で戦うからいいとしても、このままじゃタマねえが無防備すぎる。



「タマねえって重いモノとか振り回せる?」

「重いモノ?剣?」

「いや、剣じゃないけどすごく重い鉄の棒。この鉄の棒みたいなやつなんだけど、すごく重いんだ」


 鉄格子って単語がわからなかったので、目の前にある鉄格子の一本を指差した。


「余裕」


「じゃあ武器を出すから、両手のてのひらを上に向けて!重いからね?」


 タマねえがショタに言われた通りに行動してくれたので、例のモノを召喚する。


「バール召喚!」


 シュッ


 タマねえのてのひらの上にバールが出現する。


 ガシッ!


 バールを落として派手な音を撒き散らかさないか少し心配だったけど、タマねえはやはり力持ちだったみたいで、両手でしっかりとバールを握った。


「なにこれ!なんで鉄の棒が??」

「ボク召喚士サモナーなの」

「召喚士!?クーヤすごい!!」

「それはタマねえの武器だけど、奴らの頭とかを殴って殺しちゃダメだからね?」

「どうして?悪者だよ?」

「人を殺すような子供が良い大人になれると思う?例え悪者でも殺しちゃダメなの。それで足を殴れば動けなくなるから、足しか狙わないって約束して!」

「・・・わかった」


 こんな時に偽善者ぶるつもりはないけど、子供に殺人なんて絶対にさせちゃいけないんだ。命の重さを知ってからじゃなきゃ、きっと心が壊れてしまうから。



 牢屋はそれほど広くないけど、タマねえが俺に気を使いながらバールを素振りして重さを確認している。


 とりあえず、召喚獣を出すのは牢屋を脱出してからにしよう。

 大きな音が発生してしまうだろうから、ここからは即時行動が要求されるぞ。


 こうやって、次にこうやって・・・。うん、たぶん大丈夫だ。



「今からこの鉄の棒を壊すけど、その時大きな音が出ちゃうと思うんで、間違いなく奴らがわらわら集まって来るからね」

「・・・また捕まるよ??」

「大丈夫、全部やっつけるから!もし攻撃を避けられて奴らが近寄って来ても、違う召喚獣でやっつける!けど、それでも危なくなった場合は、その鉄の棒で敵の足を攻撃して欲しいんだ」


「・・・よくわかんないけどわかった」



 久々の戦闘だ。心は熱く、頭は冷静に。



「よし、じゃあ始めるよ~~~~~!鉄板召喚!」


 鉄格子の上の方に、横向きで鉄板を召喚した。見た目は串刺しになった鉄板だ。


「鉄板消えろ!」


 そして次は鉄格子の一番下に鉄板を召喚する。


「鉄板召喚!・・・消えろ!」


 ガランガラーン!


 支えを失った鉄の棒が何本も倒れて大きな音が鳴った。


「タマねえ、ここを出るよ!」

「わ、わわわわわ!なんかすごい!」



 牢獄から出て、すぐに立ち止まる。


 どうせ急いで先へ進んでも、こんな派手な音を出してしまっては、奴らを倒さなきゃ脱出することは不可能。


 だから、ここで奴らを迎え撃つ!



 ダダダダダダッ ガチャッ!


 通路の奥の扉が勢いよく開かれた。



「+ズ#から聞こえたぞ」

「一体何の音だ!?」


 牢屋という単語は『+ズ#』ね?よし覚えた!


「あのガキども!牢屋から脱走してんぞ!!」

「アイツらの仕業か!?」


 誘拐犯がゾロゾロ集まって来ました!じゃあ攻撃開始!!



「カブトムシみんな出て来い!奴ら一人一人の足に向かって突撃だ!!」


 ブブブブブブブブ


 ターーーン ターーーン ターーーン ターーーン ターーーン


「・・・え?」

「痛ッ!な、なんだ!?」

「俺の足に何かが・・・、はあ!?足に穴が!!」


 よし!距離は近いけど、足を貫通するくらいなら楽勝だな。


「痛えええええええええええええええッッ!」

「ぐあああああああああああああああ!!」

「い、イギッ!い、一体何が・・・」


「カブトくん全員消えろ!全カブト召喚!よし、どんどん行けーーーーッッ!」


 ターーーン ターーーン ターーーン ターーーン ターーーン


「ぎゃあああああああああああああッ!」

「かハッ!いテェ、あ、アレだ、あの黄色いガキの仕業だ!!」

「クソォ、両足をやられたッッ!」


 ダダダダダダッ


「何だこれは!!」

「戦闘か!?」

「・・・はあ?戦闘って一体誰とだよ?もしかして、あそこにいるガキ?」


 あ、いっぱい援軍が来やがった。アイツら何人いんだよ!?


「クーヤすごい!!みんな召喚士サモナーのこと馬鹿にしてたけど、何も知らないんだあいつら!」


 タマねえが横で何か言ってるけど、今は構ってる余裕が無い。


 ターーーン ターーーン ターーーン ターーーン ターーーン


「ぐあッッッ!」

「あ、足が・・・、クソッ!魔法だ!あのガキに魔法を撃て!!」

「バカタレ!殺したら売れなくなるだろうが!!」

「んなこと言ってられるような状況じゃねえだろ!!」


「ゲ$>>ア@レ=ズニー&シ」

「おいヤメろ!せめて違う魔法にしろやハゲ!!」


 ローブ姿の男が伸ばした腕の前に、50㎝くらいの火の玉が出現した。


「クーヤ!!」

「あいつらバカなの?火事になって死ぬの?でも大丈夫!!」


 男の手から大きな火の玉が、タマねえとショタに向かって放たれた。


「うわっ!」

「鉄板召喚!」


 ゴシュッッッッ!!


 ハゲが放った火の玉は、ショタの鉄板に当たって砕け散った。



「よしッ!魔法攻撃を耐えられるってのがわかったのは大きいぞ!今度ティアナ姉ちゃんに火を出してもらって鉄板焼きをしよう!」


 最大の危機を鉄板で乗り切ったショタの思考は、すでに鉄板焼きに移っていた。



「盾だとお!?あのガキども、只者じゃねえぞ!!」

「クソッ!魔法じゃダメだ。何とか接近して剣で叩き斬るぞ!!」


 おっとマズい!もし近寄られたら、防御力0のショタじゃひとたまりもないぞ。

 ここは満を持してのモフモフ様に登場していただきましょう!!



「鉄板消えろ!メルドア召喚!!」



 シュッ


 鉄板が消えると、誘拐犯が駆け寄って来ているのが見えたが、ショタの目の前に出現した巨大な魔物を見た瞬間、全員が立ち止まった。



「な、なんだと!!」

「・・・嘘、だろ!?」



「クーヤ!魔物が出た!逃げてーーーーーーーーーーー!!」



 いや、タマねえ。これは俺が出した召喚獣です!

 うわ~、失敗したな・・・。召喚前に伝えとけばよかった。

 

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