恋は酔わないうちに(5)

 金曜日。二人は居酒屋で待ち合わせて時間をつぶした。恵美はネギマを口にしてジョッキのビールを一気に半分あけた。仕事柄なのかその姿はどことなく神事的な感じで、勇気はネギマを持ったまま見とれていた。


 ホープは部屋に置いてきた。ペット用の玄関で自由に出入りできるから、いつもの時間にコンビニにいるだろうと考えてのことだ。勇気が腕時計を見せて頷くと、恵美は待ってましたとジョッキのビールを空にした。さらに、二本残っていたネギマのうち一本を勇気に差し出すと、笑いながらもう一本を口にした。勇気は一気に串から引き離して一口で食べた。


 二人は陰に隠れてコンビニを見張った。男がやってきた。


「あいつだ!」



勇気は男を指さすと、スマホの動画を恵美に見せた。


「同じ服装だ。間違いない」

「ふーん。あれがホープ君か」恵美はジーッと男を見ていた。

「見ていろよ。あいつは猫缶と酒を買うはずだ。そしてカードで支払う」


 勇気の言葉どおり男は買い物をして出てきた。


「このまえは、すぐそこの角で見失った」


 二人は遅れないように男を尾行した。角を曲がっても見失っていない。男は横断歩道で信号を待っていた。


「ホープ君頭いいね」

 恵美はそう言いながら、冷えた缶コーヒーを勇気の頬に押しつけると、自分はミネラルウォーターを口にしていた。


「いつ買ったんだ?ありがとう」


 驚く勇気を見てニカリと恵美は笑った。


「懐かしいー。よく探偵ごっこしたね。先生、お母さん、友達も尾行したっけ」


 恵美はスマホを出して探偵のように撮影をしていた。勇気はそんな恵美を横目で見ながらそのことを思い出していた。二人でよくこんな遊びをしていた。でも、そのときはターゲートに見つからないようにと相手から目を離さなかったけど、今はどうだ。横顔、髪を掻き上げる仕草、ホープを無邪気に追う姿。気にして見ているのは恵美だった。


「あーっ!」


 恵美は子供のように残念そうな声を上げた。その声で勇気はホープを見失ったことに気がついた。


「見失ったあ。気付かれてたのかなあ」


 恵美は作戦失敗と笑って勇気を見た。勇気は笑顔の恵美を幼いときの姿と重ね合わせると口元が緩んだ。


 

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