第6話
今日はエミリーとルカスの婚約祝いパーティーが開かれる。
このパーティーは、最初はエミリーと親しい友人だけのこぢんまりとしたお茶会のはずだった。
それをどこから聞きつけたのかは知らないが、王子や生徒会役員たちに伝わり彼らも参加することになった。
王子をはじめとした名家揃いの生徒会役員が参加するとなれば、それなりの形式を整えなければならない。
こぢんまりとした女子会は、気がつけばそれなりの規模のガーデンパーティーになっていた。
「本当は女子会のつもりだったのだろう? 皆を止められなくてすまないな」
「謝らないでください。ぜひ祝いたいだなんて嬉しいですもの」
エミリーとルカスは祝われる側なので、皆より少し遅れて会場に向かっていた。
二人が会場の入り口に到着すると、そこには深刻な顔をした人々が大勢集まっていた。
「どうかしたの?」
「な、何でもないから。エミリーたちは気にしないで!」
ただならぬ様子に幹事役の友人を見つけたエミリーは声をかけた。
エミリーとルカスの姿を見た友人は、しまったという顔をして慌てふためいている。
「その様子で何でもないということはないだろう?」
「うう、実は……」
友人があまりに動揺しているのでルカスが詰め寄ると、彼女は素直に白状した。
「ええ! アンナが勝手に招待状を作って配っていたの?」
「しかも参加費まで取っていたらしいのよ」
「会場の外に人が溢れているのはそういう理由か。正式に招待した人数に合わせて準備しているのだからそうなるよな」
「いくら私に嫌がらせをしたいからって酷すぎるわ。殿下はどうなさっているの?」
友人は諦めた顔をしながら会場の奥を指差した。
王子は狭い会場内で生徒たちに囲まれてご機嫌伺いをされている。
にこやかに微笑んでいるが、内心では怒っていることがわかる。
大混乱に陥っている会場にアンナが堂々とやってきた。
友人がアンナを見つけて声を上げる。エミリーたちはアンナのもとへ駆け寄ろうとするが、その前に彼女が紙をばらまき出した。
エミリーは足元に落ちてきた紙を拾い上げた。
そこにはいつもの誹謗中傷と共に、今の混乱はエミリーのせいだという告発文が書かれている。
「私が自分の婚約祝いパーティーを企画して、アンナを脅して生徒たちから金を集めさせた。集金した金額に見合わないパーティーを開いて、余ったお金を着服したって……」
「おいおい、いくらなんでも無理があるストーリーだな」
エミリーが紙に書かれている内容を読み上げると、隣で聞いていたルカスが溜め息をつく。
周囲にいる生徒たちは最初こそ興味津々で紙に書かれた内容を読んでいたが、最後まで目を通した途端に白けてしまっている。
「公爵家と辺境伯家の婚約だろ?」
「どちらも金には困っていないでしょうし……」
アンナは周囲の様子に気がつかず嬉々として紙をばらまき続けている。
彼女は王子の目の前に行くと得意げに胸を張った。
「お読みいただけましたか? あの女は」
「いい加減にしろ!」
王子がアンナの話を遮るように声を張り上げた。
アンナは王子の反応が意外だったのか、目を丸くして驚いている。
「ルカスとエミリーは私の大切な友人だぞ。友人を侮辱されて私が怒らないとでも思ったのか! お前の行いは学園の品位を下げる。恥を知れ!」
「な、なんで? どうしてそんなことを言うの? 私はあの女の本性をみんなに教えてあげただけなのに……」
王子に怒鳴りつけられたアンナは、ふらふらとその場にへたりこんでしまった。
エミリーは肩を落として黙りこんでいるアンナにゆっくりと近付いた。
彼女の元にたどり着くと憐憫の表情を浮かべる。服が汚れることなど構わず地面に膝をついてアンナを抱きしめた。
「私たち幼い頃からずっと一緒だったのに。私がもっとあなたと話をしていればこんなことになる前に止められたのに……」
エミリーは涙を流しながらアンナの背中を撫でる。
「まあ、なんてお優しいのかしら」
「ここまで慈悲深い方は初めて見た」
王子に叱責されるという醜態を皆の前で晒したアンナに優しく接するエミリーに、周囲の者たちから感嘆の声が漏れる。
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