第6話 収束する結末【ミラベル】

 揺らぐ視界が、ゆっくりと像を結ぶ。

 ここはどこ? 私は何をしている?


 確かジークに過去を改変するポーションを貰って、過去に立ち戻って、それから――


「あっ! ジーク!」


 私はすぐに、彼の姿を見つけた。

 よかった。

 彼なら知っているはずだ。

 私が取った行動で、未来がどう変わったのか。


「ねえ! どうなったの⁉ 私の行動で、今はどう変わったの⁉」


 詰め寄って、彼の襟をつかんで詰め寄る。

 だけどジークは、口と目をあんぐりと開いただけ。


(まさか……失敗したの?)


 ふと浮かんだ、弱気な心。

 あるいは、改変した過去は並行世界の出来事として扱われ、こちらの世界には反映されないのか。

 いろいろな不安が沸き上がる。


「あの、どちら様で?」

「……へ?」


 だけど、違った。

 少なくとも今は書き換わっていた。


 彼の一言が、それを物語っていた。


「……ちょ、ちょっと。冗談でしょ? あはは、何それ、笑えないんですけど」


 過去を変えた。今も変わった。

 じゃあ、その過程は?


(妹が殺されなければ、私は旅に出なかった。旅に出なかった私が、ジークと出会うのかな?)


 冷たい化け物が、腹の中でとぐろを巻いている。

 怪物の名前は恐怖。

 恐ろしい。

 だけど、もしそれが本当だったら。


(私は、家族を救うのと引き換えに、ジークとの思い出を犠牲にした……⁉)


 嘘だ。

 そんなはずない。


「……だって、聞いてない」


 私は、そんな今を望んだわけじゃない。


「そんなこと、ひとことも言わなかった」


 知らなかったのだろうか。

 言わなかったのだろうか。


 彼のことだ。

 わかっていて、私が思い悩まないように黙っていたに違いない。


「ふざけないでよ‼」


 そんなことされたって、嬉しくない。


「私との思い出を、忘れないでよ……ばかぁ」


 崩れ落ちるように、ジークにもたれかかった。

 気力が失せる。

 なんだってこんなことに。


「ま、忘れたとは言ってないけどな」

「へ?」


 突如かけられた声に、顔を上げる。

 今、彼はなんと言った?


「ジーク、あなたまさか」

「おっと。勘違いするなよ? 俺はあんたと初対面だ。それは間違いない」


 私をからかったの?

 そういうつもりでかけた問いかけを、ジークは言葉を遮って否定した。

 だったらどういうことよ。


「俺も確信はないけど、多分こいつだろうな」

「こいつ?」

「【完全耐性|スキル】」

「……あ」


 そういえば、彼はスキルによる効果を無効化する耐性スキルを持っていた。


「だから、お前が過去を改変する前の記憶も持ってるし、なんだか妙な感じだぜ」


 初対面のはずなのに、はじめて会った気がしないんだからな。

 はにかんで彼は口にする。


「よか……よかった!」

「おわっ⁉ ミラベル?」

「私、とんでもないことをしちゃったかと思って、それで、それで……!」


 言いたいことはいっぱいあって。

 だけど何から口にすればいいかわからなくって。

 そんな私に、ジークは一言声をかけた。


「……おかえり。ミラベル」

「うん! ただいま!」

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