第6話 超強化! VS化け蜘蛛
「おう、ジーク。昨日の仕事は終わったか? お前もどぶさらいとしての腕を上げたんじゃねえか?」
「おかげさまでな」
今は好き放題言うがいいさ。
来週の昇格戦で度肝を抜かせてやる。
……と、意気込むのはいいんだけど。
(このままじゃ、強くなるにも限度があるよなぁ……)
まず、俺の経験値ソースはスキルの光合成のみ。
光合成は、一応夜の街灯でも発動するけど、やっぱり昼間と比べたら効率が落ちる。
基本的に昼間しかレベルアップを見込めないんだ。
その上、仮にレベルが上がっても貰える報酬のほとんどはElement系――スライムの種族を決定するタイプ。
つまり、有用なスキルはほとんど取れていないと言っても過言じゃない。
Element系を取得し終えるのを待つか。
いや、何種類あるかあもわからない属性のコンプなんて目指していたら、冒険者に勝てるのはいつになることやら。
「喜べ。今日は下水の清掃だ」
「は?」
「喜べ。今日は下水の清掃だ」
「いや、聞き取れなかったわけじゃねえよ。何言ってんだって聞いてんだよ」
「同じようなもんだろ。下水の清掃も溝の清掃も」
「……そりゃ、そうだけどさ」
二日前までの俺だったら、溝から下水に変わったところで特に文句は無かっただろう。
だけど今は違う。
(下水なんて日の当たらないところだと【光合成】が発動しないじゃねえか)
そうなると俺はレベル上げができない。
レベルが上がらないと新たな能力が得られない。
新たな能力が得られないと、次の昇格戦でもまた敗北しちまう。
「だけど――」
「はいはい。どのみちお前に拒否権なんざねえんだよ。ルメートルに負けたら1週間どぶさらいを続けるって契約だったよなぁ?」
「ぐっ」
……ダメだ。
言い返せねえ。
「分かったよ」
……やべえな。
そろそろ本気で対策考えねえと。
*
案の定というか、下水にはほとんど光が差し込まなかった。これじゃ【光合成】は死にスキルだ。
「はぁ……しばらく人が立ち寄った跡もねえし……、こんなにひどくなる前にきちんと整備しろよクソが」
視界も悪いし、これじゃ一体どれだけ時間が掛かることやら。
「待てよ? どうせ【光合成】は発動しないんだ。リーフスライムにこだわる必要ないんじゃ」
ヘドロを分身体にスコップでバケツに汲み取らせ、自分はその汚物まみれのバケツを運び出す最中、ふと思いついた。
そういえば、こういう時に使えそうなElementがあったはずだぞ。
――――――――――――――――――――
【SUMMONS;ダークスライム】Lv8
――――――――――――――――――――
Activation
【Link;スキル】─【Skill;分身】
└【Element;ダーク】
Unique
【Skill;暗視】
――――――――――――――――――――
よし、ダークナイトスライムを召喚するぞ!
――――――――――――――――――――
【Error】召喚者が召喚できるのは1体まで
――――――――――――――――――――
……マジかぁ。
まあいいや。
どうせ今はリーフスライム使わないし。
リーフスライムの召喚を取り消してダークスライムに変更だ。
「召喚! おお⁉ すげえよく視える!」
ダークスライムの固有アビリティは【暗視】。その名のとり、暗い場所でも昼間のような視界を確保できる能力だ。
これなら作業効率もぐっと上がるぞ!
「そっちはどうだ、俺!」
分身体がいるほうに向かって、声を発した。
トンネルで声を出した時のように声がくぐもって、わんわんと下水内部で俺の声が反響する。
「……? おーい?」
だけど、返事が来ない。
どういうわけだ?
と考えた、その時だった。
――――――――――――――――――――
【Level UP;9】
――――――――――――――――――――
Released【Port;2】
――――――――――――――――――――
レベルが、上がった?
妙だな。
分身を解除した覚えはないぞ?
ふと脳裏をよぎったのは、時折ヘドロに交じっていた何かの肉片。
てっきり誰かの食べかすか何かかと思っていたけど、もしもその誰かの正体が魔物だったら?
(……なにか、いる?)
他にもあるかもしれないけれど、最初に浮かんだのはそれだったし、一度思い込んでしまったら他の可能性が浮かばない。
ごくり、と。
固唾が喉を下っていく。
それから、手が震えていることに気づいた。
(くそ、ぶるってんじゃねえよ!)
最強になるって決めたんだろ?
こんなとこで怖気づいてどうする。
(落ち着け。今はひとまず、あいつがのこしてくれた能力の確認だ)
port。
初めて見るアビリティだ。
直訳だと、港だったか?
――――――――――――――――――――
Port;2|アビリティを2つ連結できる
――――――――――――――――――――
……なるほど。
それ自体に効果は無いけど、接続できるアビリティの数が増えるのか。
これで今まで試してみたいと思いながら検証できずにいたことができる。
――――――――――――――――――――
【SUMMONS;ダークナイトスライム】Lv9
――――――――――――――――――――
Activation
【Link;スキル】
└【Port;2】―【Element;ダーク】
└【Skill;分身】―【Element;ソード】
Unique
【Skill;心眼】
――――――――――――――――――――
……来た。
複数属性の希少スライムだ。
ユニークアビリティは【心眼】。
暗視の上位互換で、周囲360度すべてを認識できるうえに、相手の攻撃の予測線が見えるスキルだ。
(これなら、行けるだろ!)
下水の中を、音をたてないようにすり足で移動する。相手がピット器官を持っていたり、超音波を読み取るタイプだったら無意味だけど、やらないよりましだ。
少し歩み寄ると、【心眼】が曲がり角の先に揺らめく影を見つけた。
どっぷりと膨らんだ腹部。
つぶらだが邪悪な8つの瞳。
短い毛がびっしりと生えた8本の長い手足で、そいつは下水の壁に張り付いている。
蜘蛛だ。
それも体長2メートルはあろうかというバカでかい化け蜘蛛だ。
分身体はこいつにやられたのだろうか。
俺にやれるか?
(……やるんだよッ!)
ここで逃げたってなにも変わんねえ!
だったら乗り越える!
困難だろうと、恐ろしい相手だろうと!
「うおおおおお!」
「ギシャアアア‼」
間合いの一歩外から、一気に飛び出した。
先手を打ったほうがいい予感がしたからだ。
「ぐっ⁉ しまっ、蜘蛛の糸⁉」
だけど、まるでちょうどそこが間合いだったと言わんばかりに、飛び出したタイミングで、化け蜘蛛が糸を吐き出したのだ!
手足が粘着質な蜘蛛の糸に絡めとられる。
「キシャシャシャシャ‼」
化け蜘蛛が勝ち誇るように高笑いする。
「……それで勝ったつもりかよ、蜘蛛風情」
「キシャ?」
次の瞬間、蜘蛛の頭がぼとりと零れ落ちた。
ぼちゃんと鈍い音を立て、下水にしぶきが上がって波紋が広がった。
「相手が俺一人とは、こっちは誰も言ってねえぜ」
ドロドロと黒い血を流す遺骸に向けて言葉を放つ。
その上に、敵将討ち取ったりとでも言いたげに誇らしげにたたずむ影が一つ。
「ナイスファイト! ダークナイトスライム!」
そう。
俺がおとりとして化け蜘蛛の糸を食らう間に、ダークナイトスライムには下水の中を通って化け蜘蛛の真下に移動させていたのだ。
後は化け蜘蛛が隙を見せた瞬間を見計らって、アサシンのごとく必殺の一撃を叩き込む。
今回は、俺の勝ちだな。
――――――――――――――――――――
【Level UP;21】
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Released【Element;ウィンド】
Released【Element;ウィンド】
Released【Element;ウォータ】
Released【Element;グランド】
Released【Element;セイント】
Released【Element;スカル】
Released【Element;ドラゴン】
Released【Element;メタル】
Released【Skill;斬撃耐性】
Released【Skill;打撃耐性】
Released【Skill;刺突耐性】
Released【Skill;魔術耐性】
――――――――――――――――――――
【Unlocked;レベル10】
Released【Uniqueスキル2】
――――――――――――――――――――
【Unlocked;レベル20】
Released【Uniqueスキル3】
――――――――――――――――――――
んん⁉
なんかめっちゃレベル上がったんだが⁉
「……もしかして、あの蜘蛛めっちゃ格上だった、とか?」
いやいや。まさか。
そんなやばい魔物が町中にいるわけないだろ。
いるわけないよな……?
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